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ベールを脱ぐInDesign日本語版

2000年11月10日(金)にAdobe InDesign日本語版の内覧会が行われた。InDesign日本語版の外部への説明は2000年2月のMac World Expoおよび5月に大阪で行われたスペシャルセッション以来である。
今回は,発売予定が2001年2月上旬,価格が9万8000円などきわめて具体的な発表になった。1999年3月の英語版の発表後約2年,同8月の発売後約1年半,満を持しての登場となったわけだが,その間に英語版は1.5になってしまっている。内覧会の説明では,日本語版にはバージョン数はつけず,たんに「InDesign日本語版」と呼ぶということだったが,後述するように組版面でローカライズの範疇を超えるような大幅な機能追加を行っているから,日本語独自バージョン1.5とでも考えておいたほうがよいだろう。

組版機能

オリジナルのInDesignについて,とくにそのモジュール式プログラム構成やPDFベースのワークフローをターゲットにしていることなどについてはあらためて説明するまでもないだろう。なにしろ鳴り物入りで登場してからもう2年近く経とうとしている。JAGATのwebページでも何度もとりあげているから,今回は日本語組版の機能にしぼって報告する。内覧会でも全体の半分近くを組版機能の説明にあてていたが,それだけ力を入れているということだし,またそれだけ説明すべき機能が多いということでもある。

@組版のインタフェース

日本語組版の画面をみてまっさきに連想したのは組版専用機や日本のメーカーのDTPソフトのインタフェースである。全角文字をベースとしたグリッド設定や、空き量設定ウィンドウの詳細な項目など,確かに組版に力を入れて作り込んでいるという印象を受ける。
はじめに欧米式か日本式かどちらのインタフェースで作業を行うか選べるようになっていて、日本式では全角の文字単位のレイアウトグリッドを設定できるようになっている(欧米式はQuarkXPressやPageMakerのようなマージン設定画面である)。このとき組み方向,行数,文字数,行間,フォントその他を設定するのは従来の日本語組版と同じである。級数・歯数で指定できることなどはいうまでもない。文字単位でない欧米式のDTPになれている人には面倒かもしれないが,それはソフトの問題ではない。
実際の文字組はフレームグリッドで行う。ややこしいが,要するにまず全体の紙面設計をレイアウトグリッドで行ったあと,フレームグリッドで文字組部分を設定するということだ。ちなみに,このようなインタフェースの元になっているグリッドの考え方の基本は知っておいたほうがよい。フレームグリッドは他のDTPソフトでいうテキストボックスに相当する。ここにテキストデータを流し込み,連結し,実際の文字設定,段落設定をあてはめていくのである。便利なのは文字数の表示機能だろう。フレーム内の文字数とそこからあふれた文字数を表示する。

A組版

はじめに全角単位のグリッドを設定したから日本語の全角文字はそのグリッドに沿って並ぶはずで,あとは全角でない約物や欧文などをどう処理するかということになる。このような組版設定を行うのが「文字組みアキ量設定」メニューである。空き量の設定というのは,たとえば「 )」が行末に来たときにその後の空きをどうするかとか,句読点の後をどうするかというようなことだが,InDesignではJIS X 4051に基づく14種類の設定を装備しているという。「アキ量設定」のポップアップメニューで,たとえば「行末約物半角」という文字組を選ぶと,その指定における括弧や句読点の空きを設定するという具合だ。もっと細かく設定したければ,それこそJIS X 4051のように前後の文字クラスによって各約物の設定を行う詳細設定メニューがある。このへんはことばで説明してもわかりにくいだろう。それにこの機能を本格的に使いこなすには,熟練もだが組版に関する相応の知識が必要である。ソフトの機能説明ではなく,基本的な文字組版の考え方についての知識が必要だが,しかし,いくらこうあるべきだと原則論を言っても,それを実現するには各DTPソフトのノウハウになってしまうから難しいのだが。

B文字,フォント

斜体機能がおもしろい。写植機で行われていたレンズによる方法をシミュレートしているという。ということは,斜体のみならず拡大縮小や回転も同じアルゴリズムでやっているということである。なにができるかという視点からは,とりたてて目新しくはないが,作り込みを感じさせる機能のひとつではある。
しかし,文字関連の目玉はやはりOpenTypeのサポートだろうか。InDesignは小塚明朝StdとProという2種類合計7フォントをバンドルし,小塚明朝Proは1万5000字を持つという。アップルはMacOS XでOpenTypeをサポートするが、アドビはマイクロソフトとともにOpenTypeの提唱者だから体制もそれなりに整えているのであろう。OpenTypeが広く使われるようになるにはまだ時間がかかるが,そのこととInDesignの利用がどう関わっていくか注目である。

その他の機能

文書全体にレイヤーを設定できたり,階層構造のマルチプルマスターページ設定などは,それ自体はあまり目立たない機能だが,ページもの印刷物作成には有用なツールとなるだろう。こうした機能は,QuarkXPressをにらみつつPageMakerの経験も活かしているといえる。もっともInDesignはアドビのまったく新しいレイアウトソフトで,プログラム的にはPageMakerとの継承関係はない。
グラフィック機能はアドビの独壇場だからとりたててどうということはない。というより,そう思わせてしまうのがさすがということか。ツールもパレットもIllustrator,Photoshopと共通点が多く,その意味でのインタフェースがとてもよくできている。鉛筆ツール,ペンツールによるパス作成や,文字のアウトライン化,カラー処理やグラデーションなど,多くの処理がIllustrator,Photoshopと同じツールを使って同じ感覚で行えるのは,InDesignの導入には大きな力となるだろう。もちろんクリッピングパスもサポートしている。
出力についてはフォントやドライバなどが絡むから今の段階で実際的な話はできないが,プリントダイアログボックスが非常に詳細になったのが目を引く。いくつかのパネルを使って各種設定を行うようになっているが,カラー,拡大/縮小,グラフィックなどからトンボやトラッピング,エラー設定まであらゆる処理を行えるようだ。また,プレフライト(InDesignではプリフライトと表記)機能があり,フォント,リンク,画像などを出力前にチェックできる。
新しいDTPソフトが出るといつも言われることだし,今回は特にOpenTypeがらみだからよけいにフォントと出力のことが話題になるだろうが,それはいずれ解決されるはずである。それより,リリースが遅れる理由ともなったという組版周りの高機能がはたしてどれほどユーザにアピールするか、さしあたってはそちらのほうがポイントになるだろう。逆にそのことは,DTPユーザにとっての試金石といえるかもしれない。

なお,テキスト&グラフィックス研究会では,12月19日(火)に「Adobe InDesign日本語版」をテーマに拡大ミーティングを行います。定員間近ですが,ご興味をお持ちの方はご参加下さい。

2000/12/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会