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インターネットはさらに前進するか?

東京大学大学院でメディア環境学という聞きなれない分野をやっている武邑光裕先生のところに行ってきた。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学を経て1999年に現在の所に移られたので、どちらかというと若いクリエーターに有名な先生のようであるが、そのことは後で知った。その時の話の本筋からはずれるが、面白かったのはインターネットのブラウザの次の形の研究であった。

それは現在のHTMLのページでリンクを順番にたぐっていくやりかたではなく、別の情報の見せ方たどり方をしようという試みで、実は「京なび」(http://www.kyonavi.kyoto-archives.gr.jp/kyonavi/mmpt_top_ippan.html)というサイトで、そのバージョン0.5相当が動いている。京都は観光地名所、地元の文化、伝統工芸、その他いろいろな角度からアプローチがされ、それをホームページで辿れるサービスをしているのだが、画面の左半分には現在位置を示す中心の周りに放射状に線がでていて、ここから次に飛べるページや情報が表示される。ちょっとレーダーのように見えるが、この仕組みはJava言語で書かれていて、それを発展させたバージョンが出来ている。

「京なび」は郵政省関係のマルチメディアパイロットタウン構想の一環の、「京都市マルチメディア・モデル美術館展開事業」として運営されている。武邑先生のメディア環境学との接点としては、人間の環境のひとつとしてのメディアという捉え方で、都市をどう情報化して人間とインタフェースをとるか、ということなのだろうか。
もともと武邑先生はデジタルアーカイブへのかかわりが多く、今でも各地のデジタルアーカイブのプロジェクトのプロデューサをされているが、その前は美術館や博物館をどのようにデジタルアーカイブとして見せられるようにするかを研究されていたようだ。人が博物館にはいって、あちらこちら歩きながら眺めたり読んだりする行為を、どのようにコンピュータのインタフェースにするかというのが最初のテーマのようで、2001年にヨーロッパで開かれる博物館関係の会議に向けて完成バージョンのデモ作りが進んでいる。ヨーロッパの博物館のデジタルアーカイブでの採用もいくつか決まっているようだ。

さて、博物館の情報のナビゲーションがHTMLではどのように具合が悪いのかという点だが、HTMLはどちらかというと文章中心の本のイメージをベースに作られたハイパーテキストであって、文中の語からどこかへ飛ぶように作られていた。別に文はなくて、名簿のようなものでもいいのだが、自由にまた唐突にもリンクは貼れるので、次々に飛んで行くと、それら全体を貫く関係は判り難くなってしまう。別の言葉で言えば迷子になりやすい。その場合topレベルに戻って、再度探索しなければならないので、ブラウザでは辿ったURLのヒストリが残してあって、undoのような形で元に戻れる。

これに対して名称不詳の武邑式コンテキストナビゲーターは、ちょうどたくさん枝を広げた大きな樹の中にいるサルが、枝から枝に渡り歩くように、頭の中に直感的に情報の立体地図を思い浮かべて、意の趣くままに渡り歩けるような仕組みを提供している。
サルにとってみると、自分のいる場所と自分の顔の向いている方向によって、樹はさまざまな見え方をする。武邑式コンテキストナビゲータは、このようなサルを中心にした周囲の枝ぶりを放射状の線で表現している。
樹は文字通りツリー構造になっていて、枝の分岐で複雑な形状も出来あがっている。武邑式の放射状の線というのはツリー構造のことであり、これを簡単に作るツールがあって、それはHTMLのリンクを貼るのよりも楽で便利であるという。武邑式のツリー構造表示では、いつも上位のノードが放射線よりも上のところに表示されるようになっている。

まあ見なければピンとこないと思うし、見てもピンとこない人も多いようで、なかなか理解され難いものの様であるが、2001年にはかなり世の中に姿をあらわす可能性もある。
さらにこれはメディア環境作りのほんの端緒の試みで、この先にはP2P(ピアtoピア)への応用がある。ことの始まりであるデジタルアーカイブについて、武邑先生は博物館などのお宝情報を開陳するものではなく、コンテンツを流通させて、新たな展開ができるものにする必要があるという考えであった。
これは個人の情報ストックを世界的にシェアする途方もない環境の登場である。この構造にのっかってコンテンツビジネスも可能になるというシナリオである。

月刊プリンターズサークルより

2001/03/19 00:00:00


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