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印刷ビジネスのナビゲーション

いよいよ新たな世紀のスタートである。20世紀末からの急速な情報通信技術の発達は,21世紀初頭にはより進展し,ビジネスのみならず社会を大きく変えるだろう。
 このように変化の激しい時代に,月刊プリンターズサークルはすぐに役立つ情報誌より,時代の一歩先を考えるナビゲーションマガジンでありたいと考えている。

 2000年9月号の特集「IT時代に求められる人材とは」では,変化を乗り切る印刷人として,3タイプをモデル化してみた。これは弊誌の読者像を編集部サイドが想定したものである。ご協力いただいたアンケートでは,想像していたよりも,否定的な意見は少なく,モデルのようにありたいという回答が多かった。デジタル化やネットワーク化による印刷を取り巻く環境の変化が,むしろ読者の皆さんにとっては,仕事に対する高いモチベーションとなっているような印象を受けた。

 弊誌は,2001年も読者の皆さんの業務へのヒントや助けになるような情報を提供していきたい。そのためにも,ただ単に新しいものを追いかけるのではなく,印刷ビジネスという視点で「何が本流の部分か」を常に意識し,なおかつ動向に合わせて内容をより具体化して,取り上げたいと考えている。

再構築の時代

 バブル崩壊後の長い景気低迷を受けて,日本経済そのものに枠組みの変化が起こっている。加えてIT革命という言葉に象徴されるように,情報通信技術がさまざまな産業で,否応なしに業界の再構築を促している。一方,印刷業界も例外ではなく印刷パラダイムが変化している(詳細については『印刷界のパラダイムシフト』塚田益男著/日本印刷技術協会刊を参照)。過去の枠組みではうまくいかなくなっているのだ。その意味で,ビジネスのさまざまな面において再構築が必要になっている。

 例えば,デジタル化である。DTPによってプリプレス製作工程のデジタル化が行われたが,それだけではなく,その結果が業務全般に生かされていく必要がある。そのためには一部のデジタル化だけではなく,社内全体のデジタル化が必要になる。そして「デジタル化したら終わり」なのではなく,それをEC(電子商取引)につなげるなど,今日のビジネスに合うように再整備しなければならない。
 これを経営戦略的な視点でいえば,自社の位置づけや,顧客,サプライヤー(ここでのサプライヤーとは材料関係の提供社やデザイナーなど,外注関係のすべてを指す)との関係の再構築である。「関係のマネジメント」戦略である。別ないい方をすれば,これまでは単品受注で仕事を行ってきたが,今後はパートナーシップで仕事をこなすような関係作りをしていくということである。
 つまり,従来の自社,顧客,サプライヤーの関係は,互いに組むことによってメリットが出るようなものにしなければならない。

 これを自社から顧客への関係でみれば,まず営業の役割の再構築が重要になる。営業機能は強化しなければならないが,営業担当者個人の能力向上には限界があり,「何でもできるスーパーマン」を期待するのは無理である。機能分割を行って,それぞれを拡充させなければならない。ここでは,営業が何をすべきなのかを明確化させる必要がある。
 例えば,今日の営業の役割にはマーケティング,新規開拓,顧客サポートと3つの機能があるので,担当を分けることができるだろう。サポートの対象だけみても,印刷物の内容もあれば,技術,顧客のビジネスの手伝いもある。開拓に特化するのであれば,顧客と日常レベル以上の話ができるような知識が求められる。そのためには,情報処理関連の資格や,あるいは顧客業務を理解するための資格を取得することも必要とされるかもしれない。
 また,営業が行っている見積もりはEC化する方向にあるので,自社内にバックオフィス機能のためのインフラをもたなくてはならない。インフラとは社内のコミュニケーションや,データ管理を行うシステムなどである。
 外注先や資材のサプライヤーとの関係では,サプライヤーチェーン・マネジメントを行うためには,ECを利用した連携によって,チームで効率的に仕事を行う仕組みを作らなければならない。それにはソフトの開発やサプライヤーへの教育なども必要となり,チーム単位で効率的に仕事を行うためのプロセスの共有,ノウハウの共有,共同での開発などが課題になる。

必要なのは合理化ではなく営業機能の強化

 デジタル化やネットワーク化が,ビジネスを含めたさまざまな面での利便性を向上させる一方で,それを支える仕組みは複雑化している。ECにしても,印刷営業がいらなくなるという人もいれば,やはり営業はフェイスtoフェイスでなければならないという人もいる。しかし,その結果としてECを否定する場合でも,前述のように営業個人の能力に頼るだけでは駄目である。校正を運ぶことはネットワークに置き換えることができるし,マーケティングにITは役立つ。

 ITやECの効果として,どれだけのコストダウンや合理化ができるのかといった点ばかりに,目が向けられがちである。しかし,ここで重要なのは,営業部門のコストダウンではなく営業の質の向上,つまり営業機能の強化なのである。
 例えば,1人の営業マンが校正のやり取りに業務時間の40%をとられていたとしよう。これをネットワークで代用することで,この40%の分でマーケティングや新規受注を行うことができるのである。つまり,営業業務で何を行うのかの本質を見つめ直し,各社ごとにその定義づけを行うことも必要であろう。

 いずれにせよ,今後は個人プレーの時代ではない。組織として,さまざまな形で取り組まなければならないだろう。営業に,「当たるもはっけ当たらぬもはっけ」のような企画提案をさせることもあったが,それよりもマーケティングに基づいた総合的な観点から,顧客の問題を解決していく体制を作ることが先である。
 営業のみならず制作や製造現場も同じで,IT時代には組織としての仕組み作りが重要になる。そして,その職場にいる個人は,良い仕組みを発案したり改良するという面で,組織をサポートしていく。この意味からもチームという概念が重要になる。

仕事の標準化の必要性

 チームでは,社外のメンバーとの関係作りも問題となる。仕事の標準化が行われていないと,作業効率や品質面にも影響が出てくる。例えば自社がISO認証をとったとしても,社外との関係がうまく構築できなければ,実効性はないだろう。
 現在,社内LANで仕事をしているのであれば,社内と同じようなレベルで,外部と仕事ができるシステムを構築することも可能である。ここでは社内・社外を超えて,スムーズに仕事ができるような形を構築する必要がある。
 以上のようなことを踏まえて,2001年の弊誌は,印刷ASP,ネットワーク(Web)戦略,ネットワークプリント,カラーマネジメント・標準化,XML,デジタルアセッツ管理/オーサリングなどを取り上げる予定である。


(出典:月刊プリンターズサークル2001年1月号「2001年のプリンターズサークル」より)


2001/01/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会