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プリビュ付きタグエディタで組版するモリサワMC-B2

DTPの現状

欧米起源のDTPは,日本の電算写植とは考え方もインタフェースも異なり,それが日本の組版に大きな影響を及ぼしたことは夙に指摘されてきた通りである。日本のメーカーは,電算写植の手法を再生させたり,あるいは独自の機能を搭載するなどして,それぞれノウハウをつぎ込んでDTPに対応してきたが,少なくとも標準的なDTPソフト市場での欧米優位の状況はいまも変わっていない。それどころか,先月号でお伝えしたAdobe InDesignのように,よりきめ細かく日本語組版に対応しようという動きも珍しくない状況になりつつある。これは欧米と日本という図式でとらえるより,単体パッケージソフトウェアとハードウェア込みのシステム製品との,開発思想や販売思想の相違ととらえるほうがよいかもしれない。
ソフトウェアのプログラムの形態は,当然ながら機能やインタフェースの実現方法と結びつき,それはそのままマーケティングや販売形態とも関連している。欧米ソフトはこうだ,という思い込みは危険で,ユーザが必要とし,それだけの価値があるとなればただちに対応するのが,欧米の,というよりコンピュータプログラミングというものの特徴ではないだろうか。日本で欧米型のDTPがほぼ完全に普及してしまったいま,メーカー側の論理による機能追加だけでそこにくさびを打ち込むのは難しい。開発コンセプトからパッケージング,マーケティングまですべてはひとつのものであり,組版機能だけとりあげて彼我を比べてもあまり意味はないのではないだろうか。

MC-B2のコンセプト

その点,MC-B2の開発コンセプトはDTP組版の分析をもとにして設定されたものである。11月のT&G研究会拡大ミーティングでMC-B2の説明をしていただいたモリサワの枝本氏によれば,DTPはだれにでもできるという使い勝手のよさによって版下単価の低価格化を引き起こす一方,基本的には字数・行数の概念がないという特徴によって,日本語組版品質の低下を招いてしまった,という。つまり,使い勝手のよいDTPを使って組版の品質を維持するには,逆にそれなりの手間暇をかけなければならず,結果として生産性が低下してしまうというジレンマである。MC-B2はこの問題を解決するため,とくに大量の文字物印刷物制作をターゲットに開発された。つまり,DTPの特徴でもあるWYSIWYGによる操作は,デザイン要素の強い印刷物には適しているが,一貫した組版ルールによって処理することが必要な書籍などの印刷物には向かないという考えに基づいている。したがって,MC-B2の最大の特徴はWindowsで動く編集ソフトであるということであろう。モリサワが培ってきた組版のノウハウが活かされていることはもちろんだが,なによりもオープンな環境で動くパッケージソフトであることがまず第一の重要な特徴であるといってよい。細かな機能のひとつひとつより,こうした製品形態そのものがMC-B2の開発姿勢を雄弁に物語っているのである。

MC-B2の特徴

@オープン性
MC-B2は組版指定において,基本的にスタイルタグによる方法を採用している。これは体裁情報とコンテンツの分離,すなわち最近一躍注目されているXMLなどの考え方にも通じるワンソースマルチユース的なデータの扱い方を採用したもので,テキスト情報をデータとしてみたとき,データベースとの連携や再利用性の高さなどの利点につながる特徴である。この特徴はオープン性というコンセプトの具体化といえよう。
A生産性
また,生産性アップという面からは,ブックエディタという名前のとおり,エディタとしての豊富な機能とインタフェースを備えているのが大きな特徴である。WYSIWYGでは扱いが難しいタグを表示することができ,また検索・置換機能などエディタとしての豊富な機能を備えている。さらに,生産効率をあげるため,大量文書の校正用には単体のエディタも用意している。同様に自動組版機能の充実も大きな特徴となっている。たとえば見出しについて,文章量によって見出しを追い出したり,見出しを柱にしたり,あるいは大見出しのあるページにノンブルや柱を発生させないなどの処理を自動化している。その他,表のページ間の自動分割や,浮動図版などの自動調整機能によって,文字校正後発生する移動などについてのチェックを不要にしている。
Bオプションソフト
MC-B2はいくつかのオプションソフトを用意しているが,これはカスタマイズが不可欠なプロ用編集ソフトとしてきわめて重要な特徴といえる。Perlによって索引作成などのテキスト加工処理を行うB2-ex,電算書体の利用を可能にするB2-mor,大量テキストの入力・校正を効率化するためのB2エディタなど,生産効率を上げるためのオプションソフトやモリサワ電算システムのデータを利用するための移行用ソフトなどを予定している。

MC-B2の操作

@文書構造と組版
MC-B2は文書の何ページかのまとまりをセクションとして扱い,スタイルなどのテキスト属性をセクションごとに設定する構造になっている。マスターページ,セクション,各ページはそれぞれ挿入,削除,並べ替えが可能である。マスターページで字数・行数,ノンブル・柱などの基本レイアウトを設定し,さらに段落スタイルで細かい文字設定を行っていく。さすがにモリサワらしく,罫巻き機能や丸文字の合成機能などのほか,四則演算や分数のような簡単な数式は標準で対応しているなど,組版機能は充実している。
Aフォントと出力
組版とならんでDTPの大きな問題点とされる印刷用の文字種不足の解決は,OpenTypeフォントの普及を待たねばならないだろうが,現時点でのMC-B2の機能として「組み合わせ書体」により,1書体中に仮想的に欧文ローマンとイタリック,半角数字,およびルビ用の文字種を持つようにして対応している。なお,これだけの文字種を管理するため,内部的には4バイトで処理しているが,これはOpenTypeフォントの対応も考慮した仕様である。MC-B2によって利用できるフォントはViewFont26書体およびPostScriptフォントである。出力は文字コードによって行われるのでRIPに書体を持っておく必要がある。TrueTypeフォントもアウトラインで出力できる。
※ ※ ※
MC-B2がユーザにどのように受け入れられるかはわからない。欧米のDTPソフトにくらべてかなり高価な点も気になる。しかし,その開発アプローチは今までにないものであり,ある意味で期を画すものになるかもしれない。
なお,この記事はT&G研究会のミーティングなどを参考に編集部で書き下ろしたが,MC-B2のくわしい機能についてはモリサワのホームページ(http://www.morisawa.co.jp)を参照いただきたい。また「Printers Circle」2000年12月号にはモリサワによる記事が掲載されている。
(テキスト&グラフィックス研究会)

2001/01/07 00:00:00


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