本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

Adobeの軸足はWEBツールに移ったか?

PostScriptは急速に発達するコンピュータのハードウェアを背景に、いままでプリプレスの世界にしかなかったグラフィックス品質を、オフィスシステムにも反映させるというコンセプトで、質と量(市場)双方の拡大を両立させてきた。その中で、DTPはPostScriptの普及とその開発者であるAdobeの商品戦略の相乗効果で発達してきた。

最初は自社の独自フォーマットも温存しながらPostScriptとの互換を図ろうとしたプリプレスベンダーもPostScriptに乗るようになって、CIP3のようなPostScriptファイルの中に工程間情報伝達を埋め込んで交換することも考えられた。いわゆるワークフローというテーマは、特定の相手だけとのコミュニケーションであり、プリプレスという狭いマーケットのニーズなので、量は少ないがAdobeへのロイヤリティも高かった。

Adobeとしてはプリプレスとオフィスシステムの二股をかけた点が巧妙だったわけだが、オフィスシステムのPostScript離れはWindwos95以降決定的になり、プリンタへのライセンスは減っていった。そこでPostScript環境がないところでもAdobeのノウハウが活かせるPDFを正面にかかげた。PDFは再び量への挑戦であったが、PDFはPostScriptの首を絞める面もあり、難しい舵取りであった。ここでの足踏みが従来のAdobeの戦略を曖昧にしたように思える。

PDFを量的に拡大する努力は最近のeBookへの取組みにも見られるように、まだ続いているが、量的な展開におけるAdobeの軸足はWEBツールとかSVG利用などに向かった。プリプレスのワークフローにおける進展はCIP3との関連やPDF/Xなどであまり変化がなくなってしまい、Adobeの提唱したPJTFも曖昧になるなど、以前のハイエンド出力で演じた中心的役割というのは弱まっている。

AdobeはPDFに力を入れる余りPDFからの出力を独占しようとして、本来ならグラフィックアーツのニッチ市場を共にデジタル化する盟友であるはずのPostScript互換メーカー勢を排除したために、かえってハイエンド出力のPDFワークフローのトーンを落としてしまった。

業界のワークフロー問題はAdobeのPDFとPJTFという枠組みとは別の動きも出て、また欧米の印刷ビジネスのEC化とも関連して出力工程のジョブチケットという範囲を超えたニーズが起こった。Drupa95で旗揚げしたCIP3が、drupa2000ではCIP4/JDFとなった背景には、このような印刷出力というニッチな分野がAdobeへの依存を弱めてきたことがある。

つまり1990年代前半までのPostScriptモデルによるAdobeの質と量の両立による好循環の時代は終わったと同時に、印刷業界は自分たちで必要な標準を作る努力をしなければならなくなったといえるだろう。

(テキスト&グラフィックス研究会会報 通巻151号より)

2001/03/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会