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第7回 世界印刷会議(概要)

1.概要

去る5月21日から25日の5日間,第7回世界印刷会議が中国,北京で開催された。会議のプログラムは,21日午前のオープニングセレモニーを皮切りに,初日は基調講演と主要製版印刷機材メーカーの経営最高責任者による技術動向をテーマとした講演が行なわれた。翌22日は,終日,「マルチメディア環境における顧客の要望と供給者の対応」をテーマとした講演があった。23日には,同時に開催された機材展PRINT 2001と北京印刷学院内にある印刷博物館の見学会が行なわれ,最終日の午前に「ビジネスのグローバル展開」をテーマとした講演があって,閉会式で幕を閉じた。

初日のオープニングセレモニーと基調講演は,人民大会堂に主催者側発表で約3000人(海外700人,中国国内2200人)を集めて華々しく行なわれた。以降の講演は,北京市内にある国際会議場で行なわれたが,初日に会場いっぱいであった参加者は,日を追って少なくなり,25日の講演では,関係者以外の一般参加者は50人いるかいないか程度になった。併設されたPrint 2001は,4年に一回行なわれる国際機材展で,今回はスクリーン印刷展とサイン広告展が併設され,北京の国際展示場の8会場を使って行なわれていた。全体の面積規模はIGASを上回る規模と思われ,世界の主要製版印刷機材メーカーは全て出展していた。しかし,展示の主体は刷版,印刷機と後加工機で,データ処理や通信分野の展示はほとんど目に付かなかった。

ハイデルベルクはオフ輪等の大型機は出展していなかったが,1号館を貸し切り使用し,出展者中最大のスペースを確保しアピールしていた。また,中国最大の国産印刷機メーカーである北人グループは,7号館の3分の1近いスペースを使って,新聞輪転から枚葉印刷機までを展示していた。ただし,現地業界人の話しは,中国国内での印刷機販売実績は,海外勢の足元にも及ばないということであった(同社の1999年の売上高は7.3百万ドル)。

2.講演

(1)基調講演

5月21日の開会式後に行なわれた基調講演では,まず最初に香港特別行政区の通商産業大臣 Mr.Chau Tak Hayが,香港の産業地域としての健在をアピールした。その日のCNNニュースでは, 香港の中国への返還後,投資や人材が深センに流れ,香港の失業率が高まっているとの報道をしており,香港がその地位低下を食い止めるために懸命になっていることを示唆するものだった。

次いで壇上に立った(社)日本印刷産業連合会藤田会長は,この3月にまとまった日本の印刷産業展望「Printing Frontier21」に基づき,日本の印刷産業を取り巻く環境変化と印刷産業の課題,対応について講演した。 21世紀の印刷産業は印刷業と情報産業を両輪とする情報価値創造産業を目指すという大枠を述べ,印刷市場予測と印刷産業の課題について述べた。印刷経営における資源環境問題への対応の重要性指摘が,今回の会議における他の講演内容との大きな差であった。

午前中の講演では,米国の製版印刷機材工業会(NPES)会長 Mr. Regis Delmontagueとハイデルベルグ社会長 Mr.Bernhard Schrreier氏の講演があった。いずれも中国の印刷産業の発展は約束され,それが世界規模で大きな影響を及ぼすとの認識を示し,その上で,それぞれが中国に設立した研修機関(NPESは上海,ハイデルベルグは深センにそれぞれ設立)での人材育成を通じて中国印刷業界の発展に貢献するとアピールした。

(2)技術動向

21日の午後のセッションのテーマは「技術動向」で,主要製版印刷機材メーカーによる技術動向解説と自社製品の紹介が行なわれた。各発表を集約すると次ぎのようになる。 「印刷市場あるいは印刷産業は,今後とも伸びる要素を持っていることが基本認識である。会議の性格から言っても当然のことである。インターネット等の電子メディアの登場は両刃の剣であり,マイナス要素もあるがデジタルアセッツマネージメントなど,情報のマネージメントによって新しいビジネス機会を広げるチャンスも出てくる。このとき,印刷産業は,従来から情報を扱ってきた点で有利な面を持っている。また,印刷物需要のパーソナル化,カスタム化も進行する。

このような変化に対応するには,まず,デジタルデータのハンドリング(ユーザーの情報管理:DAM)ができることが必要条件で,経営モデルを製造からサービスへ転換させ,配送までも含めたトータルソリューションを提供していくことが求められる。 技術的には,各種メディア個々のワークフローから,メディアから独立したワークフローに変えることと,作ったものの配送までを含めたシームレスなシステムを確立することが必要となり,そのためのオープンシステム化と標準化推進(JDF,XML)が業界全体としての課題である。 今後,印刷業界では企業統合が続くし,アライアンス,パートナーシップの構築も迫られる。そして,多種類のサービスを提供する大企業とニッチプレーヤーの二極化が進む。 事業展開も技術もいずれも多様になっていくので,各企業にとっての選択肢が非常に多岐にわたり,「デジタル印刷の混沌」が続くことになる。

このような中で,印刷経営では,まず自分を理解して独自の価値を見出すことと,十分な理論を持つこと,新しい事業の展開や技術導入のタイミングを含めて,戦略の柔軟さ,常に必要な調整をすばやくしていくことが重要になる。そして,ユーザーと密着していくことが成功の秘訣である。

以上のような印刷企業の経営環境変化への対応に対するメーカーのスタンスは,オープンシステム化を推進して,新しいビジネス環境のインフラを提供し,合わせて人材等を含めたソフトの提供によってユーザーに問題解決手段を提供することである。当然,環境問題対応にも取り組む」。

(3)マルチメディア環境下における顧客の要求とサプライヤーの対応

22日は,「マルチメディア環境下における顧客の要求とサプライヤーの対応」をテーマに,14の講演が行なわれた。
大日本スクリーン(P2QM),アグファ(CTPの意義と概論),コダック(サーマル技術),ECRM(プレートセッター等の出力),アップル(画像は動画へ),Httprint(ECサイト),インディゴ社(デジタル印刷機),方正(クロスメディア・パブリッシングへのソフト提供)などが,技術の変遷,自社製品の開発コンセプト,製品紹介等を行なった。 NPESは,9月6日から13日までシカゴで開催されるPRINT 01の紹介を兼ねて,米国におけるプリプレス分野のデジタル化の進展度合いと,DI印刷,VDP,デジタル印刷機,CTP等についての現状と今後の予測を解説した。また,今後は,PDF,CIP4が重要になることと指摘し,PrintTalkの概要を説明した。

上記の講演とは異色な講演が3つあった。その中のふたつは,ヨーロッパが行なってきた,業界ぐるみあるいはEU全体として中国市場開拓のための戦略展開についてのものであった。 そのひとつは,オランダにあるファンデーション(財団)INGRAINの講演で,アジアを中心に,アフリカ,中南米の政府機関等と共同で行なっているグラフィックアーツ分野の人材育成活動の紹介である。同財団の主な活動は,人材育成に当るトレーナーのトレーニングから各国での教育訓練機関の設立支援,各国でのセミナー・ワークショップの企画実施そしてこれら活動のためのヨーロッパ各国の各種機関・企業との間の連携作りと支援国相互のネットワーク作りである。カバーする範囲は,従来の製版印刷技術だけではなくマルチメディアも含めている。教育指導の具体的なツールとして,写真付きのターミノロジーのデータベース(各国用に応用する)も作り提供している。
同財団は,オランダの国家機関からスタートし,ヨーロッパ全体の組織へと拡大したものである。印刷業界の1財団の力をはるかに超えた力で,発展途上国へのヨーロッパの影響力を定着させていくことを狙っていると思われる。

EC(European Commission)の主席行政官で,ECのマルチメディア教育ソフトプロジェクトのメンバー等も努めたMr.Claude Poliaは「今後の情報化社会における世界的協調」と題した講演を行なった。
IT革命の及ぶ範囲が市民生活からビジネスの仕方,そしてメディアの変革にまで及ぶことを述べ,ITに関する国際協調が必要なことと,そのための具体的な活動として,中国との間で計画している協力事業(コンファレンス,ビジネスミーティング,展示会などの情報交流プログラム等)の計画を発表した。
INGRANの発表は人材というインフラに付いてだが,こちらはITというインフラについて,何らかの関係を中国と付けておこうというヨーロッパの意図が感じられる。

ECからは,もうひとつ,「国際化する情報化社会と持続的発展」と題する講演があった。現在のグローバル化の動きは,長期的視点から見ると,経済,社会,文化そして環境といった要素のバランスを保ちながら,情報化社会を持続的に発展させるものではない。 近視眼的な視点から規制緩和を求め,それが早い変化をもたらしているが,結果として,OECD各国の資源・エネルギー多消費型のライフスタイルを世界中に拡大するだけだからである。そして,持続的発展のためには,ヨーロッパが歩んでいた道が今後の解になると話した。

22日の講演では,グラビア印刷についても取り上げられた。 現在,ヨーロッパにおいて,グラビア印刷の主要市場は出版印刷分野で,これがグラビア市場の58%占めており,パッケージは31%である。 話しの内容は,グラビア印刷について,80年代と現在の能力を比較し,グラビア印刷の生産性が上がってきたことを紹介した。対フレキソの意識が強く出ており,フレキソ印刷に付いては,いろいろな技術の採用によって品質は向上してきたが,コスト面ではグラビアとあまり差がなくなってきたと説明していた。

(4)ビジネスのグローバル展開

25日のテーマは「ビジネスのグローバル展開」であるが,実際の話しの内容は,22日と同様に特にテーマとは関連付けられてはいなかった。 ベンダー関係ではアドビとセロックスからの話しがあったが,ゼロックスの話しの中では「オンデマンド印刷」や「バリアブルデータ印刷」という言葉は使われなかった。 それ以外では,中国の印刷コンサルタントによるデジタル化概論の話しとフレキソ印刷の市場と技術動向の話があった。講演者はデュポンで,フレキソ印刷は デジタルプレートの採用によって品質が大幅に向上し,グラビア,オフセットに対して価格だけでなく,品質でも勝負が出来るようになったことを強調した。今後は作業スピードが課題で,そのために必要な技術と「Cyrel Fast」システムの特徴を紹介した。

コンテンツについては,Penguin UKのMr. Andrew Welhamから,「The Changimg Value of Content」と題する講演があった。インタネットの登場によって,従来の出版のサプライチェン(著者―出版社―印刷会社―書店―読者)が変わり得る環境が出てきたが,今後10年程度は,1冊の本を出版社がPODで行なったり,辞書や法律書等の一部出版物が電子媒体に移行する影響は受けるが,それ以外の出版市場は2010年までは印刷会社の物であり続けるとの見解を披露した。同氏は,印刷産業が求められのは,低価格,短納期,小ロット化への対応で,数年以内にはCTP化も100%になるだろうとした。

2001/06/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会