本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

ブロードバンド時代の通信インフラ動向

 世界的にインターネット普及が進む中,通信インフラはより高速で便利なサービスへと向かっている。日本政府はアメリカや韓国に追いつこうと,e-Japan重点計画を発表し,国内のIT推進に力をいれているが,果たして日本は本当にIT分野で遅れをとっているのだろうか。通信&メディア研究会のミーティングにおける情報通信総合研究所 取締役通信事業研究部長の小澤隆弘氏の話から,海外の状況と比較しながら,ブロードバンド通信を中心とした日本のインフラ動向を紹介する。

海外の通信インフラ

 アメリカはインターネットの普及率が50%を越え、その後は伸びが鈍化している。アメリカではアジア系の人たちや高所得者層,中所得者層へのインターネット普及は進んだものの,低所得者層への普及が進まず,政府はデジタルデバイド問題解決に取り組んでいる。ブロードバンドの普及は伸び悩んでいる。アメリカの電話料金は格安で,電話経由のインターネット常時接続で満足するユーザが多いからである。また,ADSLなどの通信事業者は経営が厳しく,倒産が相次いでいる。インフラサービスは設備投資が高く,利益率が低いにもかかわらず,価格競争で無理をしたのが経営に悪影響を及ぼした。アメリカでは携帯電話の普及が遅れている。通信方式の国内標準を作らず,各社が独自の技術でサービスを提供したため,方式が乱立しデジタル化が遅れ未だにアナログの携帯電話が多く残っている。

 アジアでは韓国で順調にインターネットが普及している。ブロードバンドも,アメリカ以上にADSLとCATVの利用者数が多い。携帯電話は若者を中心に普及し,SMS(ショート・メッセージング・サービス)という短いメッセージを送るサービスが利用されている。

 日本は2001年に入り,政府からe-Japan重点計画が発表された。2003年から2005年までに世界最高水準の通信インフラの整備やIT分野の人材教育,電子商取引の促進、電子政府の実現、ネットワークセキュリティの確保などが提案されている。

日本は本当に韓国やアメリカに遅れているか

 日本はIT分野でアメリカや韓国に遅れているとよく報道される。インターネットの利用人口の普及率をみると、アメリカは約60%。日本は約35%、韓国は約40%という報告があり,この数字を比べると確かにそう思える。しかし,小沢氏は「この数値は違う条件で調査された結果なので,一概に日本が遅れているとは言えない」と指摘する。

 アメリカでは,インターネット利用人口を16歳以上で1ヶ月以内に1回以上利用している人と定義して,電話調査でアンケートを実施している。韓国ではインターネット利用人口を1カ月以内に1回以上利用している人と定義し,訪問調査でアンケートを実施しているが,年齢が7歳以上と低く設定されている。日本は郵送による調査で15歳以上を利用の対象者としているが,1カ月以内に利用したという条件が抜けている。このように調査方法の違いや対象年齢の違いにより,単純な比較はできない。

EC市場における比較

 BtoBの電子商取引の市場で3カ国を比べると,21兆円の市場をもつアメリカが先頭を走っている。コンピュータが浸透し、システム化も進んでいることから、企業間の電子商取引が大規模に行われている。日本の市場は9兆円である。GDPがアメリカの半分という経済規模からみると,企業間取引では日本もアメリカにひけをとらない。一方,高速のインターネットの普及率はトップレベルだが,韓国の市場は8000億円と、日本の10分の1にも満たない。日本は韓国に遅れていると言われるほど,本当に2国間の差はあるのか。

 BtoCの電子取引の市場をみると,アメリカは4兆2,000億円、日本は1,800億円,韓国は180億円となる。日米では20倍以上差がある。アメリカは通信販売マーケットが日本の10倍以上あるため、10倍以上の差は仕方がない。韓国は日本よりもさらに一桁市場規模が小さい。実は,韓国のインターネットユーザの半数は学生であり,企業はそこで商売をしていないのである。

 韓国はPC房(ピーシーバン)と言われるインターネットカフェによってインターネットの普及が急速に進んだ。安く手軽にオンラインゲームが楽しめるPC房は小学生や中学生など子どもの間で大人気となった。そして家庭にインターネットが入り,子どもはゲームを楽しみ,主婦はオンラインで株取引を行い,家族ではビデオオンデマンドを楽しむという娯楽ツールとして普及した。しかし,電子商取引は進んでいないのが現状である。

 アメリカでインターネットのビジネスが伸びているのは、それに適した環境があるからである。企業間の取引を始め、安い価格、選択の幅が広い、時間を節約するインターネット上の取引は個人にも多く利用されている。

 日本でインターネットが3割くらいの人にしか普及しないのは,魅力がないからではないか,と小沢氏は考える。6000円くらいで常時接続ができる日本は,世界的にみても通信費は高くはない。しかし,日本は買い物に便利な国で,インターネットでなくても用は足りる。逆に,インターネットで物を購入すると定価に加えて送料が必要となって金額が高くなるケースがある。ユーザに魅力のあるサービスを提供することがインターネット普及の鍵である。

日本のブロードバンドアクセス

 日本のブロドバンドアクセスの現状は,CATVの加入者数が2001年3月に78万人,ADSLの加入者数が2001年4月で10万人である。

 ただし,CATVの加入者すべてがブロードバンドアクセスができるわけではない。日本のケーブルテレビは住友商事や伊藤忠商事などが出資する大手のケーブルテレビ会社と、地方自治体が地元の資本と第三セクターで運営する小さなケーブルテレビ会社の2種類に分かれる。大手のケーブルテレビ会社は最新の設備を導入し,500kbpsや1Mbpsなどの高速ブロードバンドアクセスを実現している。しかし,中小のケーブルテレビ会社のインターネット接続サービスは平均的に128kbpsから256kbpsしか速度がでていない。

 ブロードバンドアクセスの本命は当面,ADSLになることが予測される。2000年ごろからサービスが開始されたADSLは,2001年4月中旬ですでに加入者数が10万を越えた。ADSLの課題として距離の制限がある。電話局から遠く離れると品質がダウンして使えない。また,アメリカ同様に日本のADSLサービス事業者の経営不振が報道されている。いずれにしても,ユーザ側の需要をもとに行った情報通信総合研究所の調査では,2003年にADSLやCATVのブロードバンドサービスが伸び,2005年くらいには光ファイバが普及していくだろうと予測している。

 ブロードバンドが普及すれば新しいビジネスチャンスが増えて,経済も成長するとよく言われる。その市場にむけて,ソニーや松下、東芝、任天堂などは音楽,ビデオ,ゲームの配信を計画している。ただし,既に提供されているコンテンツを提供するだけでは市場は広がらない。逆にコンテンツを安くインターネットに流しても,既存の市場を侵食することになる。そこで,一般の人が撮影したデジタルビデオ映像を交換したり,編集不要な中継映像などはコストが安く押さえられるためコンテンツとして可能性がある。ブロードバンド時代のキラーコンテンツはまだ登場していないが,低廉な定額料金と使いやすくて安い端末の登場,アクセスする際の快適性など実現すれば,ブロードバンド通信の普及は大きく伸びるだろう。

(出典:社団法人日本印刷技術協会 機関誌「JAGATinfo 2001年7月号」より)

2001/06/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会