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混沌としたプリプレス・ITの裏にみえる変革の波

アメリカの新聞制作展 NEXPO 2001 が,6月15日〜19日に New Orleans で行われた。アメリカは昨年来のeバブル崩壊期にあり、広告はガタ減りでメディア産業も皆忍耐の時期に入っている。今回の会議の挨拶の冒頭では、皆でにっこりしようという呼びかけがあった。それは今は低迷期であるが、皆さんがドットコム企業や、そこらのハイテク企業にいたよりも、新聞界の方がマシだからである。各メディアの広告出稿が下がる中で、新聞広告も何パーセント下がっているが、それは求人広告や、全国的に広告を出すものが下がっているだけで、多くの新聞社が依存している地域内の広告は殆ど下がっていない。新聞はさらにローカルなコミュニティメディアとしての役割を強調するようになっている。

それにしてもNEXPOの展示会も会議もモロに影響を受けて、今年の来場者は3割ダウンともいわれるほどになった。これは日本がバブルだった10年前にアメリカがリセッションであった時と同じようなレベルにまで下がった感じである。しかし意外なことに新聞社の今年の設備投資意欲は下がっていないどころか、主催者NAAのサンプル調査では25.4%も増えている。最も増えたのは印刷以降のマテリアルハンドリングで、最も減りが激しいのがプリプレスである。ただしCTPだけは1.5倍くらいの伸びで、展示会場でもCTPに人だかりがしている。

これはプリプレスの技術が主導した技術変革が一段落したためであり、アメリカのプリプレス開発型企業はAdobeやQuarkなど一部を除いて他の企業に買収されるか、WEBへの方向転換をしていって、出展企業自体が非常に減ってしまった。しかしプリプレスとかフロントエンドの課題がなくなったわけではなく、この間隙にヨーロッパのプリプレス・フロントエンド企業がアメリカに売り込みに来ることが多くなった。その理由はヨーロッパ勢の方がニッチ性が強く、現場の細かい要求によく応えて細く永く付き合おうという姿勢でいるからである。一方アメリカ型ビジネスでは、ある程度大きくなった会社はあくまで成長率の大きい土俵へとシフトする傾向があり、小さいニッチ的な会社が主に現場の細かい要求に応えている。

以上の傾向の細部は NEXPO 2001 報告 に委ねるが、この間アメリカで起こったことを、うんとマクロ的に考えてみたい。つまり上記の理由を知るのに、企業が中期的に投資を考える上での順番が鍵であると思える。その最大の鍵は2000年問題であったであろう。アメリカではそれまで古いコンピュータが日本の比ではなくたくさん使われていたのだが、2000年を目前にしてWindowsベースに大きく変わっていった。企業の投資は印刷及びそれ以降を後回しにして、プリプレスとIT投資を前倒しにしたので、一挙にデジタル化が進んだように見えたのである。

こうして企業の中にもパソコン類が一挙に増えて、それがWindows+ブラウザでインターネットにつながって、ドットコム企業群が乱立する基盤が形成された。しかしこれは2000年問題を回避することが先で、ドットコム企業のアイデアを利用するためではなかったのが本当のところであろう。アメリカでデジタル化が整備されていたのは、会計や顧客管理であり、それと直結したB2Bは社内の合理化の延長で進んだと考えられる。一方で取ってつけたようなビジネスモデルは即効性がなかったことが、昨年以来のアメリカの景気低迷で証明されたと思う。

2000年問題で最も得をしたのはマイクロソフトなのだろう。もしMac OSXが1990年代の中頃にできていたならば(あるいはCopelandが完成していたならば、またIBMのOS/2が普及できる状態にあったならば)、2000年を前にしたシステム更新の選択肢は複数あったのだろうが、曲がりなりにもいろいろなアプリケーションに対応できるOSは当時Windowsしかなかったことになる。一旦ITの基幹部分がWindowsベースあるいはその延長としてIEというブラウザベースで動き出した以上、次のIT投資のうねりまではWindowsが生き残って、この分野に競争相手はでてこないだろう。

なぜなら、印刷においては投資がCTPとかプレス、ポストプレスにシフトしてしまったように、たとえMac OSX に優れたところがあったとしても、いまさらITシステムをとっかえる予算は作れないからである。アメリカの新聞においてプリプレスの投資は醒めてしまったが、個々のプリプレスシステムやITシステムを統合化して、さらに効率のよいものにするとか、コンテンツの管理システムやXML関連ツールなどの開発は旺盛になっている。プリプレスではPDFとInDesignのみがこれらの動きと連動している。詳細は、 NEXPO 2001 報告 にゆずる。

この項続く

2001/06/26 00:00:00


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