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カラー管理は全プロセスが一つのシステム

色のついた画像をハードコピーにきれいに再現することは、伝統的には写真や製版印刷の世界が得意なことであった。ここで「きれい」と「再現」という二つの言葉にはかなりの隔たりがあり、より忠実な「再現」が必ずしも、より「きれい」とは限らない。きれいにするノウハウとは、よく引き合いにだされる記憶色とか please color に代表される、見る人の心理的な要素を加味した処理を指す。

さて再現とは何を再現することを指しているのだろうか? カラースキャナであればオリジナルカラーフィルム、印刷であれば網点のついたフィルムやプレートが、直接的な再現の対象かもしれない。これは製版でよく見た階調の特性曲線のように、x軸に入力の値が、y軸に出力の値があるグラフを思い出せばよいが、入力と出力の間に挟まれているマテリアルやデバイスの特性を加味して、グラフはリニアな線ではなく、ノウハウの入った曲線がひかれることになる。これが色合わせの基本であった。

以上のようなことを、写真の撮影時、スキャナ、刷版、印刷という順序で何度も行っている。伝統的にこういう手法が定着したのは、フィルムや印画紙など感材特性、印刷機調整やインキなどの中間の要因が多くあり、アナログ時代はそれらを各プロセス毎に分けて、そのプロセスの中で何とか制御することが先決であったからである。

この方法による画像再現のノウハウは印刷のCMYKのように、前工程と後工程に挟まれた特定の条件下における再現だけを考えたものなので、なかなかその工程から飛び出て一般的なノウハウへと展開することができない。それはどうも今日でも同じようで、今日のプリンタ出力はきれいになったので、一般からはプリンタ会社は印刷のプロのように思われることもあるが、やはりなかなか分野が異なるとノウハウは活かせないものらしい。

しかし近年はほとんどの中間工程はデジタルになり、マテリアルやデバイスの癖に対抗した管理をする必要は非常に減ってしまった。にもかかわらず、各プロセス毎にカーブをいじる習慣は残っている。デザイナがCMYKのカーブをいじるとか、総インキ量の設定を変えるようなことをしている話も聞いたことがある。これは色合わせの基本の逸脱ではないだろうか。

画像を変える操作は、それぞれがよかれと思って行っているのだろうが、きれいに演出しようとして各プロセスでチューニングをすることで色を合わせするという考えはもう捨てなければならない。それは台風の進路予測のようなもので、積み重ねて行くと誤差が非常に大きくなる危険性もある。それよりも画像のキャプチャーから最終表現媒体までの全プロセスをひとつのシステムと考える方がデジタルカメラの時代にあったやり方として主流になるであろう。

テキスト&グラフィックス研究会 Text&Graphics 158号より

2001/07/07 00:00:00


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