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追体験して初めてわかる先達のノウハウ

すでにグラフィックアーツ業界で企業の組織的な取組みの対象になったDTPエキスパート認証試験は、資格の取得という面よりも教育プログラムとしてのコンセプトが強くあり、バランスよく能力向上をしたいと考える各人の学ぶべきところ、意識すべきところは何かを常に「全体的に」示すように心がけている。つまり従来の狭い範囲の職人的な人を育てるのではなく、これからも変化しつづけていく媒体制作のダイナミックな環境に適合できる「素養」を問うことが必要と考えた。

過去の業界を振り返ると、やはり常に技術革新はあり、その大波小波がやってくるごとに現場のチップスやノウハウは反古にされてきた。そのうち経済環境が悪化して会社が潰れようものなら、ほんの少し分野が違っても過去の経験が転用できないので、他社では全く使えない職人として放りだされてしまうとしたら、やりきれないではないか。

また現場何十年のベテランとして社内では君臨していても、得意先の変化が全く分からずに、技術の化石となる人もいる。営業なら得意先を訪問しても、得意先がIT化していく中で自社に関係ある仕事がどれだかわからなくなってしまう。この業界の人がこのようなことを繰り返しては、業界全体が萎んでしまうであろう。だから関係する各人が過去の「専門」の呪縛から解かれて、現代および近未来に通用する人間としての自信をつけなければならない。

このチェックしてみる機会としてDTPエキスパート認証試験はある。ここではあくまで専門知識の深さを問うのではなく、各人がメディアの作り手としての「総合性」とか「全体性」を持っているかを見る。試験が筆記と課題制作に分かれているのも、これと関係していて、筆記では点がとれていて理解されていると思われる項目でも、課題の制作ではそれが反映していないとか、その逆で課題はよくても筆記でできていないなど、ダブルチェックされる点があるので、トータルとして理解度がわかるという評価はいただいている。

過去にも、課題をみると製版印刷工程の適正さを欠く作品が目だったことから、そのことを問う筆記問題が追加されたとか、また組版の常識を踏まえない課題が多くなって、組版に対する問題が追加されるなど、各人がテクノロジーの理解と共によい印刷物を作る志向を向上させるべく、毎回問題作りやカリキュラム改訂にフィードバックしてきた。以上は細部に目をやった改善であるが、最近の全体的な印象としてデザイン力が落ちてきたという採点側からの評価があり、紙面の表現においても「全体性」を問う必要が高まった。

印刷紙面を作るにあたっては、意味を伝えたい字句や図像をただ羅列するだけではなく、見る人がその紙面に自然に入って行けて、その訴えたいところをよく理解して、情報送受双方のコミュニケーションが円滑に進むように、紙面の構成や要素の配置に気を配って、ある雰囲気とかテイストを醸し出すための演出をする。これがグラフィックデザインの領域である。

そのような志がなく、成り行きで無秩序に配置すると、散漫な印象,あるいはただうるさいだけになる。曖昧さとか散漫な感じに仕上げるとデザイン表現の効果は出てこないことになる。デザイン展開は,偶然に頼るのではなく系統的な展開法を知り活用する必要がある。ここらへんが従来「指定どうり」作業をしていた世界の人が疎い領域である。

たとえ営業マンがDTPエキスパートを受験するにしても、課題制作にあたってデザインの初歩的な本をひもといて、そこに示されているような何らかの規則と何らかの表現シナリオとをもって、そして空間的色彩的バランス感覚に苦悩して作品を作ってみることで、デザイナーがどのようなところにノウハウを発揮しているのかが理解できるようになるのではないだろうか。作品の点は落度なく作れば一定のところには行く。しかし苦悩した経験は点以上に値するものになるはずである。

2001/07/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会