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DTPは編集者のパートナーになれるか

編集者は著者から見ると書かれた内容の最初の読者であり、書き方の不自然さをチェックし、また組んだときの違和感もチェックする。これらを総合的にチェックして、良い方向に変えていく立場にある。一方組版をする側は作業上の規則として組版ルールや禁則処理にのっとってはいるが、書かれた内容を理解してまではいない場合が殆どである。これが組版の仕様や評価に関して両者で意見が食い違う点にもつながる。

組版作業の立場からすると、仕様に基づいた一貫した処理がしていれば文句はないはずと思うが、おそらく編集上の優先順位からすると、誤りのない処理は最低の条件で、組版にはそれ以上のものを求めることも見うけられる。それは編集がこの内容をどのような表現にするかについて主体性をもつ立場なので、紙面のイメージ作りとか紙面のテイストの質的管理を優先にしているからである。

制作担当の側が組版がうまいと評価されるには、このイメージとかテイストの理解がされている必要があり、手動写植の時代はそのような紙面作りのパートナー的職人がいた。しかし、電算写植の時代になってページを短期間に量産することが優先され、またその後のDTPも工程の簡略化に重点がおかれ、パートナー的職人のノウハウはコンピュータには実装され難かった。そもそもそのようなノウハウはコンピュータに出きるかどうかの検討もされていなかったように思う。

例えば詰め組をする場合と、ベタ組をする場合では、組版ルールは同じであってはおかしい。詰め組をしつつ追い出し禁則をすると、文字の並び具合の見た目の一貫性は損なわれる部分ができてしまう。またフォントが仮想ボディいっぱいにデザインされている場合と、楷書体のように仮想ボディに対して字面が小さ目の場合でも、当然ながらそのフォントの雰囲気を活かすとすると組版の調整可能な範囲はそれぞれ異なる。

字間の調整にはなるべくフォントの特徴を活かす方向で組まなければならない。フォントによっては好ましくない組方があり、ナールのような仮想ボディの外側に線分があって内側の空間が広いものはベタで組むことを想定してデザインされているので、このれを詰めると隣の字との間隔よりも字の中の空間の方が大きくなって不自然な形状が発生してしまう。これも本来ならば自動的に防ぎたいところである。

しかし手作業のアルゴリズムというのは、活字時代はアケ気味に組んでおいて、後の直しに対してフレキシブルにするという原則でも、実際に行なう場合はそのやり方の副作用が出たらその場で臨機応変にやり方を替えてすり抜けていた。電算写植にしても活版の原則はプログラム化できても、職人の臨機応変の部分のプログラム化には限度があった。また上記のような自動処理は紙面デザイナの創造的な使い方を制約することでもあり、なかなかメーカーには踏み込めなかった。

今日も大きくは状況は変わっておらず、もっと基本的な編集側の要望である、長く読んでも疲れないとか、抵抗がないなど、フォントや組版が目立って雑音にならないようなことを一貫して制御できるようにしようとしている。これはクヌース博士がTeXにおいて悪い点が少なくなるようにアルゴリズムを考えたことを引きついでいて、やっとInDesignも複数行にわたる組版最適化の処理を行なうようになったところである。しかしその先には、更に組版を良くするプログラムの可能性もあることを意識しておいた方がいいだろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 161号より

2001/08/19 00:00:00


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