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POD市場に向けた新たなビジネスモデルの構築

株式会社ネプリ

ブロードバンドネットワーク時代の到来はもうすぐそこまできているといわれている。ブロードバンド時代になると,動画を含む高解像度データの高速通信にインターネットの利用がますます威力を発揮する。

そこに,印刷技術の革新とITとをからめ有効活用することで,新たな市場とビジネスモデルの創出が可能になってくる。
今回は,POD市場に向けた新たなビジネスモデルを構築した(株)ネプリの代表取締役木村信幸氏にお話を伺った。

出資各社とのパートナーシップによるPOD事業

ネプリ(本社・東京都渋谷区)は,(株)インテック,丸紅(株),コクヨ(株)など数社が出資して設立されたPOD(プリンティング・オンデマンド)事業会社である。出資各社とパートナーシップを組んで,システムエンジニアリング,ネットワーク,Webビジネス構築などのノウハウを活用していく方針である。新たなビジネスコミュニケーションのシステムを構築し,さまざまな印刷ニーズへの対応とマーケティング・データベースの連動をからめ,利用企業に最適なソリューションを提供することを目的としている。

設立は2001年5月30日,資本金は4億2550万円,9月からサービスを本格化する。当初の社員数は10名程度だが,2年目は25名を目指す。売り上げに関しては,2年目での単年度黒字化,3年目には累積損失を一掃し売上高を50億円,さらに5年目で売上高100億円を目指すという。

企業に与える3つのインパクト

かつては「印刷頼みます」の一言で,ほとんどお任せ状態で印刷物が発注されていった。印刷は伝統もあり市場も成熟しており,産業として確立している。ところが環境の変化は,新たな市場の創出と新たなビジネスモデルの構築の可能性を予感させる。

その背景の一つには,印刷物発注側の意識の変化がある。現実的に印刷物は100%フルに活用されているとはいえない。特にカタログやパンフレットなどのコミュニケーションツールといわれる印刷物には,間接コストのかさみや過剰在庫などの問題点がある。そんな中で,印刷物の約20%が廃棄されている現状(米国調査会社の統計)を省みると,無駄なコストを削減したいと願うのは当然であろう。それは結局値段に跳ね返ってくる。

印刷会社側からすれば課題は山積みである。価格競争の激化とダンピング,設備稼働率の低下など,切実な問題と直面している。また技術革新面への対応も大きな課題といえるだろう。ネットワーク環境の変化に対応できない,ノウハウもない,人材の問題もある。また顧客側からは,コストの削減が至上命令のごとく宣言される。加えて,商品サイクルの短縮や消費者ニーズの多様化,またワンtoワンマーケティングやCRM(Customer Relationship Management)など,より販売に直結する新たなマーケティング手法の実践など,顧客企業側の要求が複雑化している。従来の大量印刷の手法では,対応できなくなっている。

同社ではこれらの問題解消のためPOD事業を展開する。企業に対して,(1)コスト削減,(2)サービスレベル向上,(3)社内・外プロセスの改善の3つのインパクトを与えるとしている。

「PODマスターズ」を組織化

同社の具体的な事業内容は,4つに分けられる。(1)オンデマンド印刷・購買代行業務,(2)印刷会社の営業代行業務,(3)高解像度データベースなどの設計・構築・運用代行業務,(4)印刷物に関わるコンサルティング業務である。

ネプリとしてはこれらのサービスを提供するためにWeb上にPODプラットフォームを展開する。企業ごとに特化したテンプレートの作成,商品画像のデータベース構築を行う。顧客企業がインターネット経由で印刷物を発注するとそのタイプやロット,デバイス稼働状況データベースなどをもとに自動的に最適な印刷会社を選択する仕組みになっている。出力された印刷物は提携している物流会社から配送の手配をするといったものである。

この場合の印刷会社は,ネプリと提携したオンデマンド印刷対応の印刷会社である。「PODマスターズ」の名称で組織化し,印刷物の出力拠点を全国に拡大していく方針である。既に札幌,東京,名古屋,福岡の印刷会社の参加が決定しており,問い合わせも多数あるという。今後売り上げの受注拡大に応じて,PODマスターズの組織化拡大も考えている。

もちろん印刷物のクオリティを保つため標準モデルを確立することが不可欠になってくる。それは制作にかかわるカラーマネジメントの問題であったり,料金の標準化,基本の工期と納期の設定の問題である。それらの問題は現在検討中で,今後整合していき,サービスが本格化する頃には,第2期のPODマスターズ候補の調査・面談も行われる予定である。PODマスターズになるためには,いくつかの条件がある。まずデジタルデータおよびネットワーク入稿が可能な印刷会社であること,また同社の設ける基準に対応できること,さまざまな印刷に対応できる最適な印刷機や加工設備を保有していることが挙げられる。

PODマスターズとして登録することは,受発注業務における新しいシステムワークフローを確立するとともに,POD市場の創造を目指すことになるという。

End to Endで繋ぐPODのプラットフォーム構築

このシステムでは,企業の基幹システムとの連携や企業内データベースとの連携など,既に運用しているシステムと連動して機能する仕組みにしていることが大きな特徴であろう。他の単なるWeb窓口の印刷サービスを行うマーケットプレイスや通常のASPサービスとの差別化を図っている。

「私たちはシステムありきだとは思っておりません,まずビジネスありきだと思っています」。 参加することによるユーザ企業のメリットは,印刷発注業務をネプリが代行することが挙げられる。マーケティング戦略とそれに見合ったツールのデザインや企画,さらに効果測定といったコンサルティングもネプリで行う。必要なときに必要な部数の印刷物を低価格でスピーディに購入できる。また印刷工程をすべてネット上で行うため間接コストを大幅に削減できる。

印刷会社のメリットは,営業コストの割に稼働率が低いといわれるデジタルオンデマンドの小ロット印刷の仕事が定期的に入ることである。ユーザ企業に対する営業活動が軽減され,なおかつ自社の設備や得意分野での仕事が,安定的に受注できることである。また技術革新への対応やコンサルティング能力が補えること人材不足の解消にも役立つことが挙げられる。

同社の理念は,印刷物を使う側と作る側をEnd to Endで繋ぐプリント・オンデマンドのプラットフォーム構築である。中間に立って仲介業務を行うことが必要なのである。発注者側,印刷会社側の両方にメリットをもたらす仕組み作りである。印刷物を使う側の企業にとっては,最適なデマンドチェーンとして,また印刷会社のためのサプライチェーンとして「双方の掛け橋」となれるような製品・サービスの提供をしていきたいという。
「Win-Winの関係をともに作り上げていきたいと思っています」と語った。(上野寿)

2001/09/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会