かつて紙の出版制作のプロセスは活字とか、文字組・版下・製版など、その出版の意図や規模と無関係に、みな同じような技術に依拠していた時代があったが、デジタル化以降の制作プロセスは全く千差万別になりつつある。つまり写植・製版の時代と全く同じワークフローのまま道具だけがDTPになったところが出版界には多くあるが、一方ですべてデジタル化されて校正済みのコンテンツを自動的にページに割り振って、校正以外はほぼ無人で印刷会社に入稿(当然オンラインであり、その先の校正もない)している例もある。
もっと別の面でいうと、DTPの今日的課題をどうするかという点で、DTPの文字表現とか組版向上、カラープリンタとCMSによる色校正などが話題になっている一方で、すでに紙媒体へのこだわりは飛び越して、紙の出版物やカタログがなしに仕事をしているところもある。しかし同じ発注先の企業で、いまだに原稿用紙の桝目に字を書いている人もいれば、平台校正機で色校正を20枚も出している世界もある。
今の姿は、かつての活版が衰退したように旧技術の何もかもがなくなるのではなく、いろいろなものが並存して世の中全体が多様になったように見える。しかし旧技術を引きずった今のままで将来も生き残れるわけではなく、旧技術への依拠はシステム再構築までの時間稼ぎをしているに過ぎず、やがてのっぴきならない時がくる。例えば平台校正機が壊れても(壊れ難いだろうが)その代替がないとか、外注業者が消滅するなどは、今までの技術変化の経験から予測できることである。
新旧技術の交代の匙加減は難しい問題である。今までどおりの「手作り風の印刷物を残したい」という要望は尊重すべきところもある。また旧技術でも収入が得られれば良いという状態をわざわざ破壊する必要もないのだろう。しかしその場合でも、技術革新として起こっていることの事実は伝えておかなければならない。まだ発展の可能性のある得意先なら旧技術で塩付けするわけにはいかない。
仕事のパートナーに対してはこのような技術的な啓蒙とともに、その人たちが新システム移行の際にバリアとなる点をどのように対処すればよいのか考えておいて、提案することも必要であろう。しかしこちらからいくらか投資をしてまでもサポートしようというのなら、それはあくまでこれから重要になるパートナーに対象は限られる。一般に遅れている会社のサポートをするビジネスは成り立たないのであるから。
逆にいうと印刷会社の側がいくらベンダーにリクエストをだしても応じてもらえない場合は、そのビジネスは伸びないと思われているのかもしれない。みんながデジタルになった先の2極化現象は、もはやデジタル技術の問題ではなく、印刷の使われる場が、デジタルで成長が加速する分野と衰退する分野のどちらであるかに主要因があるようだ。これからは技術とマーケティングは切り離せない問題になっていくだろう。
2001/10/04 00:00:00