本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

プロの印刷物設計者としてのデザイナ

ある時有名なデザイナから、その師である世界的な賞をよく受賞する超有名デザイナの話を聞いたことがある。デザイナの天分というとすぐれた感性というように思われるが、そうではなくて理性面つまり論理的なものの考えが重要で、何が求められているのかが分析でき、アイディアと思考で人をうならせるような作品を作る。当然表現の技量もある。結局その人は何をやっても成功する人ではないかということになった。

一般的な仕事の大部分である版下デザイナ的な仕事では、最低限が「表現の技量」であり、感性も特別に求められているわけではない。だいたい自分勝手な感性は商業的な仕事では意味がない。芸術家として金銭的な報酬を求めないのであれば、自分の好きなようにやっていればよいのだが、クライアントのビジネスの助けとしての表現にはあらかじめ一定の枠ははめられているからだ。

その枠の中でどのような表現が良いかを練るのがデザイナの仕事であるとすると、グラフィックの感性や表現能力以前に、仕事人(プロ)としての役目ははっきりしている。それはクライアントの要望を聞き出して、それに呼応するプレゼンをするために必要な、情報や技量を十分に持っていることである。

あるいはこれは大きな仕事では企画専門の人の領域かもしれない。グラフィックスの表現は誰かにさせてるとして、その選択の鑑識眼となる感性は備えていなければならないだろうが、グラフィックスが一人歩きして空振りにならないようなコントロールの方が優先するのである。冒頭の優れたデザイナは自分で表現の感性とそれをコントロールする理性とを合わせ持っていたといえる。

そもそもデザインとは設計と同じ意味だから設計意図がはっきり説明できないものはデザインには入らないはずである。欧米のデザイン学校の話でよく聞くことは、学生の作品自体を先生が勝手に評価することが主ではなく、学生に作品の説明をさせる訓練を行うのが授業の大きな目的、ということだ。

学生は自分の直感をグラフィック表現する中で、同時にそうした理由を自問自答しなければならない。そのような論理的な思考を重ね合わせることで、自分がものごとをどう捉えたか、表現技法をどう進化させているのかなどのノウハウも整理されていく。

グラフィックス表現そのものは好みや流行に左右されて、たとえ一時成功しても、その先どれだけのものが築けるかは予測できない。しかしグラフィックス表現に左右されない部分のデザイン(設計)ノウハウは積み重ねができるし、企業の資産にもできる。グラフィックス部分は別のデザイナと組んでも仕事はできるし、そうすることは若いデザイナを育てる上でも重要な教育の機会である。

これからのDTPの発達の一つの可能性は、月並みな印刷物であれば従来の手工芸的な表現のところ、例えば構図、配置バランス、文字の大小、フォントの組み合わせ、配色、がコンピュータの補助で誰でもそこそこできるようなものになることである。人間の最大の仕事は印刷物の設計になるのだろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 164号より

2001/10/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会