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電子情報の基盤技術 XML

ネットワークインフラの整備や職場へのパソコン導入は,一時代前のワープロやファックスの導入による企業のOA化とは異なり,企業内ばかりでなく企業間をも含めた業務システムの再構築など,本来の意味でのOA化を実現する方向に向かっている。
これは,企業活動のベースを従来の紙の情報から電子的な情報へ,既存の組織の枠組みを越えた情報交換による組織の再編成へと,大きく変わる流れを作り出すものである。このような動きは,民間の企業ばかりでなく21世紀初頭に電子政府の実現を目指している行政でも同じである。
XML(Extensible Markup Language)が,そのような組織を越えて交換され,蓄積される電子情報の基盤技術となり,あらゆる分野でXMLへの取り組みが行われている。現在,企業で日常の業務処理に使用されているアプリケーションプログラムの一つであるマイクロソフトのExcelやAccessも,Office XPではXMLに対応した。XMLは一過性のブームではなく,着実に新たな情報フローを作り出す技術になった。

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2001年10月26日(金)10:00〜16:40
XMLが変える情報フローのモデル

企業と行政の情報化

総務省が2001年7月に公表した平成13年度「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)によれば,従業員100人以上の企業の9割近くがLANを構築しており,6割近くが全社的なLANを構築している。全社的なLANの構築は前年に対して14%近く増加し,急速に進展していることがうかがえる。
企業がLANを構築する目的については,「企業内での業務情報やデータの共有化」,「電子メールサービスの実現」,「企業内でのグループウェアやワークフローの実現」などが上位回答(複数回答)であった。
企業が企業間のネットワーク(エクストラネット)を構築する目的については,「電子データ交換(EDI)の実現」,「関連企業間での顧客情報の共有」,「関連企業間でのワークフローの実現」などが上位回答(複数回答)であった。

「行政情報化基本計画(1994年12月に閣議決定)」によって本格化した行政の情報化は,1998年度に新5か年計画がスタートし,21世紀初頭に「電子政府」を実現することが目標となった。
2000年11月には「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」が成立し,このIT基本法に基づき「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が設置され,2001年3月に「e-Japan重点計画」が公表された。
e-Japan重点計画では,「高度情報通信ネットワークの形成」,「電子商取引等の促進」など5つの重点政策分野の1つに,2003年度に電子情報が紙情報と同等に扱われる効率的でサービスの良い電子政府の実現を取り上げ,行政情報の電子的提供,申請・届出等手続の電子化,手数料納付や納税等歳入・歳出の電子化,入札・開札等調達手続の電子化,行政内部で交換される情報のペーパーレス化などが示された。

ネットワーク時代のデータ形式XML

企業や電子政府が目指している企業間,省庁間,行政と民間などを結んだ情報共有,情報交換,ワークフロー構築など,ネットワークを基盤とした新たな情報フローでは,交換や蓄積される情報のデータ形式が重要である。
特定のハードウェア,OS,アプリケーションプログラムなどに依存したデータ形式では,企業や国を越えた情報の交換や共有,ワークフローの実現などを可能とすることはできない。
更に厳密な計算機処理を実現するためには,情報の中にデータの開始・終了やデータの属性などを明確に示す記述が必要で,しかもそれらの記述には使用分野を限定しない汎用性が求められる。

HTMLは,タグを使用することによってネットワークを介したグラフィカルな情報交換を促進したが,最初からタグの種類や意味が決められており,あらゆる分野を対象にした汎用的なものではない。
SGMLは,タグや属性が定義可能で特定のシステムやOSに依存しないなどのメリットはあるものの,ネットワークで利用するためには処理系が重すぎる。

W3C(World Wide Web Consortium)では,従来のデータ形式の問題点を解消し,なおかつインターネットでの情報活用や情報交換をより一層活発に行うために,HTMLとSGMLのメリットを取り入れたXMLを,1998年に勧告として公表した。
XMLは,次のような技術的特徴をもっている。
(1)特定のハードウェア,OS,アプリケーションプログラムに依存しないタグ付のテキストデータである。
(2)タグや属性は業務システムでの利用に応じてカスタマイズ可能である。
(3)タグに対する用途別アクションプログラムを準備することで,一つのXML文書でさまざまなサービスが可能である。また,アクションプログラムによって自動処理も可能である。
(4)厳密な計算機処理が可能である。
このような技術的な特徴から,それ以来,多くのツールや応用システムが開発され,XMLは,ネットワークを通じて交換される情報やデータベースに蓄積される情報の基盤技術となった。

規格動向

XMLがネットワーク時代の基盤技術となるにともない,各種の関連規格や応用規格が整備されるようになった。2001年になってW3C勧告となったものの内,印刷業界に関連するいくつかを紹介する。

(1)XLink
XLink(XML Linking Language)では,HTMLの単純リンク機能の他に,複数のドキュメントのリンク関係の記述やリンク関係を別ドキュメントとして記述するなどの拡張リンク機能も規定されている。

(2)XSLTとXSL
XSLT(XSL Transformations)は,XMLデータを,別のXMLデータやHTMLデータなどに変換するための規定である。
XMLデータの表示体裁を指定する言語であるXSL(Extensible Stylesheet Language)は,このXSLTとXSL-FO(XSL Formatting Object)で構成される。実際の処理では,変換ルールを記述したXSLTスタイルシートとXSLTプロセッサとを用いてXMLデータをXSL-FOデータに変換し,そのXSL-FOデータをXSL-FOプロセッサで組版するような流れになる。

(3)SVG
SVG(Scalable Vector Graphics)は,グラフィックスの記述にXMLを取り入れたものである。既に,Illustrator 9.0はSVGの出力をサポートしている。SVGは,どのような解像度で表示してもギザギザは発生しないし,テキストであるため画像中の文字列も検索対象になる。

(4)XML Schema
DTDでは,タグや属性の定義をすることは可能であるが,タグに囲まれたデータのデータ型などを定義することはできない。つまり,計算機で厳密な処理を行うためには,DTDの機能だけでは不十分ということである。そこで,DTDの不足機能を補ったXML Schemaが開発された。

企業や行政のXML利用動向

XMLの利用で現在ホットな話題は,電子商取引に関するもので,素材や部品の調達,商品の販売など多くの企業が関わることから,関連企業が集まって標準化活動が活発に行われている。
また,XMLを利用したシステムやサービスの普及・啓蒙を目的としたXMLコンソーシアム,印刷出版関連を中心にインターネット/XML時代のビジネスモデルを探求するXML Publishing Forumなどの団体も設立された。
報道関係でも,日本新聞協会がニュース配信フォーマットNewsMLを開発し,毎日新聞社のニュースサイトなどで使用されている。デジタル放送でも(社)電波産業界が,マルティメディア符号化方式BMLを開発し,2000年12月から開始されたBSデジタル放送で利用されている。
電子申請推進コンソーシアム(http://www.e-ap.gr.jp/)やXBRL Japanなど,行政の申請・届出等手続の電子化の動きに合わせた取り組みも行われている。

行政でも,SGMLを使用した統一的な仕様に基づく白書,告示,通達等データベースや電子公文書などの省庁間電子文書交換システムが稼働している。
厚生労働省関連では,医薬品製造販売申請・審査システムや医薬品安全性情報提供システムで,SGMLによる申請書類や医薬品添付文書の提出を義務づけている。
経済産業省関連では,輸出入許可申請や税関手続の申請書にXMLを利用した貿易管理オープンネットワークシステム(JETRAS)や,申請・届出等手続きを電子化する汎用電子申請システムが稼働し,特許申請についてもXMLの利用が検討されている。
国土交通省関連では,建設CALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の一環として公共事業の成果品の電子納品でXMLを使用している。

このようなXML利用の広がりから,印刷業界に関連したツールや応用システムも続々と開発されている。例えば,ネットワークを利用したXMLデータ作成作業の共同作業環境システム,XMLを利用した情報発信ポータルサービスシステム,蓄積された情報の有効利用システム,電子申請対応ツールやシステム,表計算ソフトやデータベースソフトのXML対応,XML文書の体裁付けと自動組版ツール,既存文書のXML化ツールなどである。このようなツールやソリューションの機能,利用方法,利用事例などについて,10月26日のTechセミナーで取り上げる。

2001/10/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会