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ネットワーク時代の勝ち組みとは

技術革新への対応

2001年7月24日のtechセミナーは「ネットワークで変わる印刷物制作」と題し,ネットワークやデータベースがインフラとなる時代において勝ち組に残るには,印刷業はどう対応すればよいのか,印刷の内製化やコラボレーションを進めている企業を招いてお話をうかがった。今回はオリエンテーションをお願いしたプラネットコンピュータの深澤秀通氏のお話を報告する。同社は当日のスピーカとして招いた電通テックやアメリカンファミリー生命保険とのコラボレーションも行なっているが,深澤氏が指摘するのは印刷業界にとって技術革新が持つ意味である。

DPT以降,インターネットが広く利用されるようになったが,特徴的なのはXMLやプリントオンデマンドなど印刷業でどれほど効果があるのか判断の難しい技術が出てきたことである。DTPはそれまでの印刷技術の延長として対応することができたが,ネットワークやデータベースはそういうわけにはいかない。

内製化の進行

技術というものは,ただそれに対応して自分で製品やシステムを作ればよいというものではない。なぜその技術が必要なのか,自分でも理解しておかねばならないのは当然だが,さらに客にも説明する必要がある。客にとってその技術革新がどういう効果があるのか,定量的/定性的に明確にする必要がある。定量的な効果とは,たとえば単価の削減や特定単価・顧客単価の設定,製作期間の短縮などだ。定性的な効果とは,印刷物製作の過程で派生するサービスなどである。なぜそのようなことを考える必要が出てきたかといえば,金融,製造,半導体,流通,製造業などで印刷物の内製化が進んでいるからである。従来は印刷会社に任せていたデザインが情報としての価値を持つようになり,この分野がいわば情報市場としてとらえられるようになってきたのである。情報市場とは聞き慣れない言葉だが,要するに情報を扱うことに金融・製造・流通が関わってくるということである。

内製化の目的

企業の内製化の目的は,(1)印刷価格の低減,(2)印刷納期の短縮,(3)印刷の多品種化などだと思われる。
印刷価格の低減とは,たとえば在庫の問題である。印刷のワークフローの中で印刷在庫をどう見るかということだ。印刷して納めたらそこで印刷会社の役割は終わりと考えるのか,それとも納めた後,どのぐらいはけたかまでフォローして,次の仕事に反映することを新たなサービスとするかということである。
納期の短縮のよい例はPDFの利用である。PDFは印刷会社にとっては鬼っ子のようなものだ。DTPで出力するには専用のプラットフォームや出力機が必要だった。ところがPDFは無料配布のAcrobat Readerがあれば印刷物となるPDFのデータを見てチェックできるし,出力もできる。Acrobatそのものもごく低価格で購入できる。客がPDFを使うようになると,PDFで校正した後,なぜ印刷までさらに1週間もかかるのかと不満を持つようになる。これが納期の短縮に結びつく。
多品種化は要するにプリントオンデマンドのことなのだが,この点については現状では判断が難しい。どのような定量的/定性的な効果があるかまだわからない。ただひとつ言えるのは,オンデマンドの出始めに言われていたようなOne to Oneではなく,数万部単位の印刷を数千部単位で刷るというような使いかたが増えるのではないだろうか。この点は,とくに今,金融業界の再編が激しいので,この分野の内製化に伴う需要がある。

コラボレーションへの道

このように印刷の内製化は進みつつあるが,そういう企業は印刷のノウハウを持っていないのが普通だ。ということは,印刷を内製化した場合,そのシステム導入の効果をどう判断するかが明確でないということである。印刷そのものの部数や価格を抑えればよいのか,それとも,積極的にオンデマンドなどで印刷物を作って売り上げを上げたほうがよいのか,そういうこともはっきりしていない。
とすれば,いちばんよいのは企業と印刷会社とのコラボレーションによって最適なシステムを構築することである。一般にはシステムは専門のベンダーが作るが,ベンダーは印刷のノウハウを知らない場合が多い。印刷会社なら最適なシステムを作るノウハウを持っているはずである。ただ,私どもは,印刷業界とは直接にはあまり関係がないのでその辺の判断は難しいのではあるが。

印刷会社の利益か客の利益か

DTPは要するに印刷物出力のノウハウだったから,それを導入した印刷会社の利益になった。ところが,ネットワーク,自動組版,XML,PDFは導入した客の利益になる技術である。つまり,DTPでは印刷業界が儲かったが,新しい技術では客の利益の方が多くなる。私どもはシステムを開発しているので,こういうことを現場でひしひしと感じている。
たとえば,インターネットで制作物を作るとデジタルコンテンツになる。これをPDFにしてしまえば送信して出力できる。こうなると紙に出力するかどうかは客の判断次第になる。必要なら客がオンデマンド印刷すればよい。もちろん,従来の印刷のテイストがよいという人も多いだろうが,しかし,テイストだけに拠っていたのではビジネスにはならない。
ようするに,客とデザイン会社のシステムがあれば印刷版はできてしまうのである。あとはインターネットで印刷会社に送って刷ってもらえばよい。もちろん色校などの問題はあるけれども,インターネットの利用やシステム化を考えると,今後ワークフローが変わっていく可能性は否めない。こうして印刷会社は刷るだけになり,あとはいつどこに何部納入するというところに追いやられてしまうことになりかねない。

印刷業の吉野家化

私には印刷業は吉野家やマクドナルドのイメージと重なってみえる。「早い,安い,うまい」の3要素である。
「早い」というのはPDFによって印刷版が手軽に扱えるようになったということ。「安い」というのは,具体的にどうこうというより,そもそも印刷価格の基準はどこにあるのかということである。印刷機はあと10年もすればプリンタに近いスペックのものが出るようになるだろう。そうするとはたして今の印刷価格が適正であるかどうか,あるいはもっと原点に遡って,印刷価格が適正であるとはどういうことなのかまで考え直す必要が出てくるだろう。「うまい」とは品質のことだが,はたして印刷物の客はどこまでの品質を求めているのだろうか。プラネットコンピュータの客の中にも「読めればいいから自動組版で」と言う一方で,「印刷のテイストは欲しい」という人もいる。品質は価格とも関係するのでなかなか判断は難しい。
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以上が深澤氏のオリエンテーションの要旨である。セミナーではこのあと,電通テック,アメリカンファミリー生命保険のそれぞれのシステム構築と考え方をうかがった。

これからの業務システムのアプローチ

2001/10/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会