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印刷会社の電子調達への動き

電子調達というとマーケットプレイスという話になるが,マーケットプレイスには,業界をまたぐもの,例えばオフィスサプライ,文房具のようなものと,業界に特化した電子市場がある。それぞれの業界ごとに,いろいろな電子市場,パブリックなマーケットプレイスが立ち上がってきている。

その中で意外に多くの印刷・紙の電子市場が立ち上がっている。アジア,ヨーロッパ,アメリカでは紙メーカーと印刷会社が直接取引する例が多いが,日本は流通が非常に複雑である。印刷会社で一番購入量が多いのは紙なので,そのコストを下げたいというのは根本的な課題としてある。また,電子化することでの業務効率や,管理コストを下げたいということもある。

紙の電子伝調達を行う背景とは

印刷会社は受注産業で,顧客から受注を受けて初めて紙の調達を行う。紙の場合,つど買いの考え方がある。これはそのつど購入するので,良い面としては在庫をもたずに済む。しかし紙だけで見ると,例えば汎用的な紙について過去の購入量を調査すると,年間ある程度の量は常に買っている場合が多い。それをそのつど個々に買うということが本当に安く,供給的に安定したものになるか。場合によってはもう少し計画購買,集中購買したほうがよいのではという要求がある。
顧客から受注を受けて納品するまで,納期にリードタイムがあるもので,足が長くて汎用的な紙を考えた場合に,計画購買,集中購買ができる。

しかし,どの業界も調達から納入までのリードタイムが短くなっている。印刷会社も顧客から受注して製品を納めるまでのリードタイムがどんどん短くなり,それに合わせた電子調達の仕組みが必要である。また調達先が複数ある場合,いかに早く同時に引き合いを掛けて発注を掛けるかも電子的に対応しないと難しい。また調達の仕組みが優位であれば,最終的には顧客に対するサービスの提供になるという目的もある。

サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント

サプライチェーンの考え方では,顧客,得意先があり,印刷会社があり,そしてサプライヤーがある。サプライチェーンマネジメントには需要予測の仕組みがあるが,ここではサプライヤー・リレーションシップ・マネジメントと呼ばれる世界である。

サプライチェーンでは受注予測があるが,印刷物のように安定した受注がない場合では,顧客から受注を受けたデータが情報の発信になる。受注したときに,印刷予定を何月何日,何をどこにどのくらい欲しいという情報が予定として組まれる。次に予定一つごとにどんな紙が必要かという紙のデータに置き換わり,さらにどのメーカーのどの紙をいつどのくらい必要かというデータに置き換わる。受注時の紙の指定や銘柄指定がある場合には,優先的にどの紙にするという仕組みになり,紙の調達計画となる。

これを印刷会社と紙メーカーでコラボレーションしていくためにはどうするか。まず,計画に関する情報の共有化がある。中身としては,例えば印刷会社が8週間先までの調達計画を情報として開示すると,それに対して製紙会社は供給計画を印刷会社に開示する。

EDI

また電子受発注,EDIがある。EDIの仕組みを作ってサプライヤーと取引を行うと,それぞれがばらばらな仕組みとなり,相互にデメリットが大きい。紙業界のVANがあるので,印刷会社のコードを全部変換して紙業界のコードに置き換え,それで受発注を行う。買う側が売る側のコードに合わせる。

コラボレーションの考え方は,情報や商流,物流を直接やりとりして相互の無駄をなくすということだが,商流だけは代理店を介してEDIを使う。製紙会社は,今までの業界の慣行から,出荷基準での売り上げになる。製紙会社の工場から出荷すると売り上げが計上される。それを代理店は分かっていて出荷基準で支払うが,印刷会社では受入基準での支払いである。そうすると搬送中は製紙会社では売り上げが立っているが印刷会社では支払いが発生しないという宙ぶらりんの状態となる。このためお金の流れは代理店を挟んでいる。

これは,例えばオフィスサプライのアスクルの考え方と近い。情報の流れや物流は直接するが,今のアスクルの売り方には代理店が入っている。メーカーの営業的な機能を代理店がもって,役割分化がうまく進んでいる。

サプライチェーンの考え方は,それぞれの生産計画,製造計画をうまくリンクさせてお互いの無駄をなくすという考え方だと思う。今回の取り組みとしては,例えば製紙会社が1カ月の予定を立て,その製造計画に印刷会社の製造予定を直接反映する。8週先まで送らないと4週分を切り出した月次生産計画に反映できないということから,足の長い8週先までの予定を情報として送るそうである。

実際に印刷会社が8週先まで予定が分かっているのかという問題がある。ここでは商業印刷の中でもカタログ系がリピートで受注が入るため予定が組みやすいということで行っている。全体としては最終予定の3割くらいしか入らず,これが現状の日に近づいてくると,3割から5割,8割という形で増えてくる。これを製紙会社がどう読み込んで月次生産サイクルに反映するかということだそうである。そういう意味で,足が長くて汎用的なものでなければこの仕組みは簡単にはいかないということである。

紙の直送

紙は大体製紙会社が代理店に売り,代理店が一次卸になる。二次卸,三次卸とあるが,いずれにしても代理店,卸を通して購入する。当然,商流があるので物流的にもトラック,倉庫を含めて何回か経由して納品される。それを物流の直送化ということで,製紙会社の工場から直接大型トラックで納めてもらうという仕組み作りをする。

製紙会社の工場は東京近辺にはなく,離れているため,出荷指示を掛けるには早く情報を渡す必要がある。2日前に出荷指示を掛けられるようにしているそうである。2日前に出荷指示してその後に印刷の場所が変更になると大変なので,出荷指示の精度を高くし,その予定どおりに印刷できるようにする仕組み作りも必要である。

このような考え方で,大日本印刷は紙の電子調達を始めている。しかし紙の電子調達一つとっても,解決すべき課題がたくさんあることが分かる。足の長い仕事として,商業印刷のカタログへの適用例について述べてきたが,印刷物にはチラシや書籍,雑誌などいろいろとある。これらに対応できる電子調達は,これからの課題である。

サプライチェーン・マネージメントには,需要予測が伴う。これは例えばパッケージなどの包材では,その中身の需要予測と連動する必要がある。このような需要予測が立てられる印刷物が出てくれば,サプライチェーンが可能になる。

一般消費財と違う,製造業の部品に当たる紙の調達においては,電子調達のアプローチは大切であり,印刷会社のこれからの課題と思われる。
(通信&メディア研究会)

■出典:JAGATinfo 2001年12月号

2001/11/28 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会