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紙と電子媒体 : 対立から複合利用へ

紙媒体制作のプロである印刷業界にとっては、印刷業内外の競争は激しくなるばかりであるが、競争に揉まれている間は仕事があるということでもあり、痛し痒しのデジタル時代である。情報化は更に進んで行くので印刷業もデジタルメディアに向けて少しづつシフトしている。シフトが緩やかなのは、なかなか儲からないためであるが、そこがやはり頑張りどころである。

既存紙メディアに拡張はない!

既存の印刷メディアは今後もそのまま使われる。ただし効率化という課題はずっと残る。しかし基本的にはマーケットが広がっていくものではない。当面の紙媒体のビジネスは、高能率化による低コスト競争でのサバイバルなので、受注量があったとしても売上の減少は続くかもしれない。
JAGATでは「2050年シンポジウム」を開催し、紙がどうなる、印刷がどうなる、という議論をしてきた。そこからは、当面の紙媒体の需要は安定的にありそうだが、数年以上先を考えると、印刷媒体の土台を揺るがす多くの変動要因が考えられる。

派生価値でビジネスを補う

将来のために考えなければならないのは、マーケッティングに基礎を置いたビジョン作りであり、塚田最高顧問のいう脱工業化へ意識を切り替えなければならない。印刷ビジネスを補うために、印刷受注の中で派生的に発達させた価値をビジネス化することが、日米など先進国の業界の共通課題であり、21世紀にあたりいずこも同様のビジョンを掲げている。
派生価値は、印刷より前方のコンテンツ側と、印刷物を使う局面の業務支援という後方の両方向において存在し、以前からも業務テリトリの拡大が取り組まれている。デジタルメディアやデジタル印刷は、伝統的印刷よりも派生価値が発揮しやすい性質がある。

対立の図式は、引きこもりに陥る

この20年間はずっと電子メディアへの期待が語られてきた。それに対峙するように印刷の新たなアイデンティティを考える努力もされてきた。従来は紙と印刷と出版は運命共同体的であるという発想で、印刷か、電子メディアか、という対立的な捉え方が支配的であり、電子媒体のビジネスは印刷とは別物とされた。
そのような区分けの中で業界内には、「まだ印刷が優位」という点を反芻していたに過ぎないようなメディア比較論が多かった。マルチメディアやオンデマンド印刷は、新市場の創出をしたのではなく、それらは(顧客の)コミュニケーション方法を再構築するためのコンポーネントであったといえる。印刷物もコミュニケーションの一要素に過ぎない。

市場は先に動き始めている

従来はメディアを考える際に、メディアの形状に固執した視点が多かった。すでにどのようなメディアも情報のプロセスはデジタル化したのだが、情報の出口によってメディア産業が分けられている。
しかし、情報を必要とする人は、一足先に情報の形にとらわれないコンテンツ主導の分野が拓けつつある。将来メディアの形状は、需要者が必要に応じて選択するようになる。
すでに印刷産業も、印刷だけでなく、トータルに顧客のコミュニケーション活動を支援する業務に目が向いている。「サービス」という点ではメディアを複合して考えないと新たなチャレンジができない。長年印刷メディアを扱ってきたノウハウを、電子メディアの用途開発に生かしていくような、積極的な意識の切替が必要である。

知恵をだしあいリスクを減らす

印刷売上減少の埋め合わせに低効率の新事業をするのは割りにあわない。そのためにデジタル化にともなったビジネスの領域拡大は次第に語られなくなっている。これでは数年後の電子メディアの成長・成熟に照準を合わせた準備はできず、将来のXデーを境に印刷は坂を転げ落ちることになるのは明白である。新たなコミュニケーションツールの技術的な可能性は見えてきたが、どのようにビジネスになるのかは見えないため、次第に情報交換の機会が少なくなっている。
かつての日本の、すべて自社で考えて自社で稼ぐ方法は非常にリスクが高くなり、またビジネスの機会をつかみにくくなった。JAGATはPAGE2002において、一社一社では取組みが困難な、マクロなコミュニケーション再構築をテーマにし、これを立場の異なる人々がともに考えることでリスクを減らし、将来のビジネすモデルを模索する機会にしたい。

PAGE2002のページができましたので、ご覧下さい。

2001/12/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会