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見えないニーズに応える

日本経済立直しが見えない中でも、印刷物制作という仕事が今後も存在し続けることはハッピーである。しかし現在印刷会社などが提供していることと、発注者から求められているものとの間に、隔たりが出てきていると感じている人は双方ともに多い。その一つはニーズの変化である。例えば、昨今は価格交渉以外に営業に求められることがないという人もいる。価格以前の相談事が増えているか、減っているか、あるいは気づかないか、などは重要なことである。

元来ニーズというものは全てが顕在化しているわけではなく、客に聞いてもわからない点が多くある。だいたい自分に何が必要なのかはよく見えないものである。だからこそマーケティングが叫ばれるのだが、求められることが判明しても、それが自分にできるかが問題である。マーケティングはできる能力を見せつつしなければ意味がない。

印刷のプロとは、印刷しかやっていないとか、印刷しかできないということではなく、印刷のメリットを最大限引き出してくれる人のはずだ。プロにいくらか払っても、費用対効果が最も高くなるので、喜ばれるはずのものだ。今日では印刷物を発注の時にWEBのページの制作も、あるいはWEBのシステム構築とかメンテも発注者が悩んでいることがある。しかしそれが印刷のプロであるはずの印刷会社に相談されるかどうかは、全くケースバイケースである。

印刷の人は従来の印刷の特徴はわかっていても、他の電子メディアの特性に対してはノーコメントになってしまうというのが、冒頭の「隔たり」の今日的な典型である。近代の印刷は500年の歴史があり、それなりの定見もでき上がっているが、電子メディアの特性を知ろうと思っても、どこかにデータがあるわけではない。それは幸いなことで、印刷を知っているものが電子メディアも知ってしまうとすると、電子メディアだけ知っているところよりも遥かに優位に立てるのである。これはオンラインだけのECが沈没したのと同じことである。

クロスメディアの制作体制に取組み始めた会社は増えていて、印刷は情報の出口のひとつという認識は固まりつつある。これをさらに推し進めて、印刷のプロは、さらに強力な「メディアのプロ」として、いろいろなメディアにまたがる汎用なノウハウもつところ、という認識にまで行ければ理想的である。要するにまだ今なら、電子メディアを活用するレースに印刷側から参加しても、いいことがあるかもしれないということである。

ただメディアの概念が以前は情報の出口で分類されて、入力から出力までタテのシステムを作って棲み分けていたのが、全く異なる概念になるかも知れない。デジタルメディアの「メディア」はバーチャルなメディアであり、例えば機能的に、販促メディア、出版メディア、OneToOneメディアなど、そのコミュニケーションのあり方によって求められる特性が異なる方向にあるように思える。

ではこれらの特性をどうやって知るのか? その方法論は新規分野進出の定石である。まず今の持てる能力や資産や希望と照らし合わせて、自社で何がどこまでできそうか、可能な限りよくよく調べて論証する。それでも分からないところあるもので、それは自分でやって確かめるしかない。つまり仮説を立てて検証するという小さな実験を行わなければならない。

冒頭の話に戻ると、もはや大風呂敷を広げたような提案をするところよりも、こういう仮説検証をやっているところ、方法論をもっているところが顧客から信用されるようになっているのである。

関連情報 : PAGE2002では、「コミュニケーション再構築」をテーマに、紙媒体と電子メディアの今後の関係を探るコンファレンスを、2月6日(水)から3日間開催します。また電子ペーパー、有機EL、その他これから登場する高精細液晶などの特別技術展示コーナーも設けます。ご期待ください。

2001/12/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会