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ブランドを高めるWebサイトの運用ポリシー

企業のWebサイトはボトムアップで発展してきた。初期のころはエンジニアがHTMLのコードを書き,自らWebのデザインまで手掛けた。それからしばらくの間,システム管理者やデザイナーなどが現場で個々の努力を積み重ね,技術を磨いてきた。

しかし,ビジネスを本格的にWebサイトで展開する場合,それぞれの分野が優れているだけでは高い評価は得られない。
ネット上でブランディングを確立した企業は,トップダウンのポリシーをもって運用してきた。

重要性の高まるユーザビリティ

リアルなビジネスとネットのビジネスは密接になりつつある。営業担当者が商品を売るように,Webサイトからユーザに商品の販売をすることが一般的になっている。広告業界では,テレビや新聞などのマスメディアとWebを連携させ,複数メディアのプロモーションを展開している。企業はリアルな場だけではなく,ネット上のブランド作りを真剣に考える段階にきている。

Webサイトをデザインする場合,他のメディア同様に「高級感」や「先進性」など,企業が伝えたいイメージやコンセプトをベースに検討される。会社のロゴの使い方やヘッダやフッタのデザインの共通化だけでも,Webサイトの統一感や企業ブランドのイメージを表現することもできる。また,デザインにおいて,最近は特にWebのユーザビリティ(使いやすさ)が軽視できない要素となっている。デザインに凝りすぎて,動画を多用したり,ナビゲーションボタンを変わったものにして使いやすさを犠牲にすると,ビジネスチャンスの損失につながりかねない。WebユーザはWebサイトが難解であったり,遅かったりするとすぐに使用を諦めてしまうからである。

ユーザビリティに関するコンサルティング会社「ビービット」では,情報の構造化を始めナビゲーション,コンテンツデザイン,ページデザインなどにおいて,ユーザビリティのガイドラインを提案している。階層の幅は7±2以内にする。階層の深さは4〜5以内に納める。ナビゲーションはすべてのページで同じ位置,概観,機能で提供する。文章は印刷物の半分にする。フレームは基本的に使用しないなどである。

いずれにしても,サイトを運用する際には,コンセプトに照らし合わせながら設計や構築,評価を繰り返し,サイトのユーザビリティを発展,洗練していくことが重要だと,ビービット取締役業務執行責任者の武井由紀子氏は強調する。

意識の高まるセキュリティ対策

2001年夏以降,ワームやウイルスなどの蔓延により,インターネットの情報セキュリティに対する意識が高まっている。セキュリティ対策の目的は,1.企業財産の保護,2.社会的責任,3.企業の社会的信用の向上・維持などが挙げられる。

これらを守るために,企業では情報セキュリティが侵害された時の対応手順を確立し,セキュリティポリシーを策定しておかなければならない。例えば,普段の対策はもちろん,検出した際に社内の誰に報告し,どのように対応するのか。解決したらどの機関へ報告するのか,などを文書化して実行する。

特に,一番レベルの低い部分がその会社のセキュリティレベルだといわれるので注意が必要である。ワクチンソフトを全社員にバージョンアップしたつもりでいても,出張中の人やアルバイトのパソコンは対応していなかったために,被害にあってしまうというケースもある。漏れがないように全社的に取り組むように努力しなければならない。

システムの弱点だけでなく,会社に関係したことのある人などによる情報の漏洩も少なくない。社員,契約社員,外注先に対して情報漏洩などに関する契約も整えておいたほうがよい。
セキュリティ対策は,それ自体が利益を生む活動ではないため,システム担当者は予算を確保するために苦労することが多い。
しかし,これはドアに鍵を閉めるのと同様に常識的な事柄になりつつある。セキュリティ関連は費用対効果の問題ではないということを経営のトップレベルで認識することが必要である。容易にWebサイトが改ざんされたり,ウイルスを頻繁に外部に発信するような組織では,セキュリティ体制が甘いということで社会的信用を失いかねない。ユーザは,情報が漏洩してしまうかもしれないという不安のあるWebサイトで,商品を購入したいとは思わないだろう。

近年,特に個人情報の保護に対する関心が高まっている。これには,OECDプライバシーガイドライン(1980年),EU指令(1998年)が採択され,世界的に議論が活発化しているという背景がある。日本は個人情報の保護に対する法律がないため,プライバシーマーク制度などの事業者の自主的な取り組みを推進している。この制度は個人情報を適切に扱うシステムや体制が整っている企業にはプライバシーマークの利用を承認するというものである。このマークを表示している企業は,個人情報に対する利用目的の制限,情報更新,データの保管など,情報の利用や管理において一定の基準を満たしていると考えられる。

その一方で,国による個人情報保護に関する法制化の検討が続けられており,2002年の次期国会で成立することが予想されている。

経営方針と直結するソニーのWeb運用

Webによるブランディングを重視している企業の一つにソニーがある。
事業領域が幅広いソニーは,エレクトロニクスを始め,音楽,映画,ゲーム,金融,ネットワーク分野にグループ企業を持ち,連結決算対象法人は1080社以上,関連サイトは300を超す。ソニー本社のホームページ室では,これらの全世界のソニーグループサイト群のサイトマネジメントを行っている。
ソニーのホームページ室について,ソニー株式会社ブロードバンドネットワークセンターホームページ室統括部長黒葛原寛氏は「多岐にわたるグループ企業のフェーズを合わせ,ソニーとしての一体感を醸し出し,SonyDreamWorldの創出を目指している」と説明している。

ソニーでは1994年にアメリカのドメインでホームページを立ち上げ,その可能性に早い時期に着目した。インターネットを経由して,世界から寄せられるさまざまな問い合わせに対応して,1年がかりで顧客対応窓口の仕組みを作り上げている。

ソニーでは,Webサイトのコンテンツは株価までを左右するということを知り,その影響力を痛感したという。このため,ホームページに対して,ソニーでは,サイト運用時のさまざまなマネジメントのポリシーを確立し,ガイドラインを策定している。

デザインについては,大幅な変更を1年に1回必ず行うことが決められている。また,ロゴの位置やヘッダ,フッタなど特定の部分のデザインを制限することで,ソニーグループの統一感を表現している。緊急時対応については,不正アクセスだけでなくテロや戦争が起きてサーバがダウンした時なども想定した対応が考えられている。全世界からメールなどで寄せられる質問や売り込みなどについても,細かい顧客対応マニュアルがあるという。

ただし,ガイドラインは,策定されても実行されなければ意味がない。ソニーでは,Webの運用は経営方針に直結する重要な事業として位置付けている。このため,ガイドラインは経営トップが承認し,社員は守ることを義務付け,実行することを徹底しているという。 Webサイトは,トップダウンでマネジメントすべき段階に入っている。
(通信&メディア研究会)

■出典:JAGAT info 2002年1月号

2001/12/20 00:00:00


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