本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

貴社のシステムは次の時代にも使えるか?

今,印刷業界では、オフコンの管理情報システムをパソコンベースのシステムにしていく機会に統合システムにしようという動きが見られる。
統合化された管理情報システムとは、販売管理,工程管理等、各種の管理機能を持ったアプリケーションソフトそれぞれに必要な情報で各管理に共通に使われるデータは、1度入力すれば再入力することなく共通に使えるとともに、各管理ソフトで扱われるデータ、情報については、営業、工務、生産現場あるいは管理部門など全ての部門で共有できるようにしたものである。

管理情報システムを統合システムにすることはひとつの改善だが、今後のネットワーク社会における仕事のやり方を前提にすると上記のような統合化だけでは不充分である。 これからの管理情報システムは、外部の組織(顧客や協力会社あるいは資材の調達先等)とのコミュニケーションをネット上で行なえるオープン化されたものであることと、さらに自動処理ができるシステムを目指さなければならないからである。

オープン化、自動処理化したシステムとは「不特定多数の企業との間で、人が介在することなくコンピュータto コンピュータで情報の交換ができるシステム」である。目的は、企業間でやり取りされる情報交換のための業務処理コストを飛躍的に削減するとともに業務のスピードを各段に向上させることである。

現時点で考えられる管理情報システムには4つの形がある。
(1) 非統合システム
(2) クライアントサーバー型統合システム
(3) WEB(HTMLベース)を使った統合化、オープン化システム
(4) WEB(XMLベース)を使った統合化,オープン化、自動化システム
上記、(1)〜(4)は、管理情報システムとしての発展順序である。

(1) の非統合システムは、販売管理、工程管理など、各種管理機能のコンピュータはそれ ぞれ単独で機能するもので、販売管理、工程管理などの入力、処理がそれぞれ個別である。また、各管理機能を持つコンピュータが通信線で繋がれていないからコンピュータシステム間で情報の共通利用はできないし、情報の伝達は伝票等の紙媒体で行なう。

この非統合システムを、リレーショナルデータ―ベースとLANで接続されたパソコンからなるシステムにしていこうというのが、現在、多くの印刷会社が行なっている統合システム化である。目的は、先に述べたように入力情報や出力情報を共通利用できるようにして、情報の入力、伝達における手間と時間の無駄を改善しようとするものである。クライアントサーバー型システムは、社内業務処理をより一層合理化する管理情報システムとしては非統合システムからの進歩である。

しかし、インターネットとパソコンというIT技術が自由に使えるようになったいま、新たな管理情報システムを作るのならば、外の組織との間のやり取りに関わる業務処理を含めた合理化ができるシステムを作るべきである。それによって、クライアントサーバー型の統合システムでは実現できない大幅な間接経費の削減と業務のスピードアップが図れるからである。

ごく一部の印刷会社では、社内処理機能の統合化だけを目指すだけではなく、顧客や協力会社あるは資材の調達先などの外部組織とのコミュニケーションをネット上で行なっていくことを重視したオープンなシステムにするために、ユーザーインターフェースとしてWEBブラウザを使ったシステムの構築している。

WEBベースのシステムには、クライアントサーバー型のシステムに対してさまざまなメリットがある。ネットワークの負担が軽くなる、一台一台のパソコンにアプリケーションをインストールしないで済みシステム部門の負担が減る、データのセキュリティー度が高まる、あるいはインターネットを使う場合に高価なソフトを別途用意しなくても良い等々である。これらは、通信システムに関わる金銭的、人的負荷が少ないことと、システムの構築時あるいは業務内容や組織変更にともなうシステムの変更において、クライアントサーバー型のシステムよりも柔軟な対応ができるという意味のプラスである。

このことは、管理情報システムを社内の業務処理システムとして考える場合にはそれでも十分なメリットと言える。しかし、WEBを使うことによって、外部組織との管理情報ネットワークを構築、運用できるところが、クライアントサーバー型システムと最も大きく異なる点でありプラス点である。

例えば印刷物の発注に際して、顧客が印刷会社で用意された自社向けの発注画面を呼び出して必要な情報を直接入力して発注をしたり、既に発注した仕事の進捗状況を、印刷会社の営業等を通すことなく自分のパソコンの上で何時でも確認できるといったことが可能になる。これによって、顧客に取っても印刷会社の側にとっても、従来の電話、FAXによるコミュニケーションに比べて各段の手間の削減になるし、情報伝達のスピードをリアルタイムに近いものにすることができる。これが、オープン化された管理情報システムの効用である。

しかしながら、上記のようなWEBを使ったオープンシステムでも、それがHTMLデータを使ったものならば、やはり人の介在は不可欠である。例えば、再版印刷物の発注の例で考えてみると、顧客は自社の資材管理システムにアクセスして印刷物の在庫数を見て再版の必要性を判断する。そして、もし発注が必要であれば、先に述べたように発注する印刷会社のWEBを開いて発注入力をすることになる。

しかし、もし管理情報システムがXMLデータを使ったものならば、顧客側の資材管理コンピュータに、該当印刷物の在庫がある一定数以下になったときには自動発注するように仕掛けておくことによって、設定した在庫を下回った場合、そのコンピュータが自動的に印刷会社の販売管理システムに印刷物発注をかけることができる。あるいは、印刷会社のコンピュータシステムに作業完了の入力がされると、その情報を元に配送委託契約をしている運送会社のコンピュータに自動的に配送依頼を行なうことや、常備在庫をしている紙について、該当する紙の在庫が一定数以下になると在庫管理システムが用紙調達先の受注管理システムに自動的に用紙を発注することもできる。先に述べた自動処理とはこのようなことであり、同じWEBを使ったシステムであっても業務処理の手間とスピードが各段に改善されることは明らかであろう。

このようなシステムは、現時点ではその必要性を感じない、あるいはそのようなコンピュータ環境が周囲の企業にはないということで今すぐ構築し運用する中小印刷業はないであろう。それはしごく当然のことでありそれ自体は問題ではない。

問題なのは、世の中の管理情報システムが、今後上記のようなものになってゆき、自社のシステムもそのようなシステムとネットワークを組むようになるという認識を持っていない企業が大多数であることである。大半の印刷会社は、クライアントサーバー型の統合システムを作れば、次の時代の管理情報システム作りは完了したと信じている。

上記のような統合化、オープン化、そして自動化された管理情報システムとは、ユーザーインターフェースとしてWEBブラウザを使い、通信ネットワークとしてインターネットを使うとともに、データフォーマットはXMLを使ったシステムである。しかし、現在システムを作り変えている印刷会社でXMLベースの経営情報管理システムを考慮している企業はほとんどない。というより、文書管理におけるXMLの利用については知っていても、経営情報管理システムにおいてもXMLがベースになっていくと意識している企業自体がほぼ皆無である。

HTMLデータではなくXMLデータをベースとしたWEBのシステムは、上記のような自動処理だけでなく、さまざまなコミュニケーション相手に合わせた柔軟なシステムの設計、運用ができる。したがって、とりあえず上記のような自動処理を行なわないとしても、これから長く使っていく管理情報システムの仕組みとして採用することは有効である。

現在、XMLをベースとした経営情報管理システムのための規約として、コンピュータシステムメーカーそれぞれからSOAP、UDDI、WSDLといった規約が出されているが、それらの間での情報流通に支障がないようにする協議が進められ、その実証実験が行なわれており、これから1,2年でそのかたがつくだろう。したがって、数年もすると世の中の経営管理情報システムはそのような仕組みのものになっていくだろう。

現状ではXMLでフルの設計はできないが、それを想定してデータフォーマットをXMLにコンバートし直したり、JDF等が出てきたときにはそれに合わせたワークフローに組み直すことができる構造のシステムとして作っておく必要がある。さもなければ、数年先には大幅な手直しにかなりの再投資をせざるを得なくなる。

また、統合管理システムといっても、多くの印刷会社のシステムが扱う範囲は、一つ一つの仕事の受注から納品までの処理業務が中心で、入力されたデータをさまざまな改善に活かしていくことを念頭においたシステムを作っている印刷会社は非常に少ない。 営業に関わるデータ、特に得意先に関わるデータについてはそうでもないが、生産部門の生産性や設備計画に使えるデータを集計、分析して有効に活用できるシステムは非常に少ない。

読者各位には、上記に照らして自社で作りつつある統合管理情報システムがどのようなものなのか、また、これからの管理情報システムとしてどのような機能を持ったものにしようとしていたのかをいま1度見直して、今の時点でかなりの投資をして作るに値するシステムかどうかを点検してみることをお勧めする。

2001/12/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会