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賢明に生きる姿勢が未来を拓く

明るく希望に満ちた未来を望むのは当然であって,自分たちの子供や孫の世代に思いを馳せたとき,世界が滅びている姿をだれも想像したくはないだろう。ところが,21世紀の幕開けであった2001年は,9月のアメリカ同時多発テロが世界を揺るがし,多くの人が未来に不安を感じたのではないだろうか。

おりしも,JAGATではこの1年間,「2050年の印刷を考える」という壮大なテーマを掲げたプロジェクト活動を行ってきた。スタート地点では,「地球はないかもしれない」,「もう自分は生きていないから考えても無駄」…などさまざまな声が周囲から聞こえていた。

当プロジェクトでは,まず,世の中では将来がどのように考えられているのかを調査することにした。20世紀から21世紀という新しい世紀を迎えることもあり,21世紀の展望,将来展望をした著書,新聞記事などが多く出たので,人口問題,エネルギー問題,科学技術の進歩などの共通点を分析した。

その中で,印刷と関わりの深い「紙」の将来はどうなるのだろうか,との論議が交わされ,紙の上でのビジネスに関わりのある方々によるシンポジウム「2050年に紙はどうなる?」を開催した。引き続いて,グラフィックアーツテクノロジーの未来をディスカッションするシンポジウム「2050年に印刷はどうなる?」が開催された。これらは,当協会ホームページにてすでにご紹介している。

将来全てが変わるのではなく,「紙」にしても「印刷」にしても,人が必要としている限り存在しているだろうし,500年の歴史を持つ紙の印刷に流れる文化は,将来に渡って継承されていくだろうと思われる。

一方で,ナノテクノロジー,バイオテクノロジー,ヒトゲノムの解読,人口知能など,SFの世界が現実となり,例えば環境資源問題のように,さまざまなことに影響を与えると考えられる。しかし,科学技術は,SFの世界からやってくるものではなく,課題や変化への対応や適合という形で進歩するものであって,宇宙移民のようなSFに惑わされず,科学技術の暴走を押さえる論理的思考を持つことが大切なのは言うまでもない。

このプロジェクトを通して,あえて50年先に焦点を当てることで,混沌とした現状に振りまわされることなく総合的に物事を捉え,我々が歴史的な総括を踏まえて,賢明に生きようとする前向きな努力を積み重ねれば,決して将来を悲観する必要はないだろうと感じた。

未来は,決して,現在と切り離されたものではなく,今を生きる自分たちの足元から始まっている。「2050年」は2001年の延長線上にあることを忘れてはならない。

2001/12/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会