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メディアビジネスの原点は、好きこそ…

昔、植木等とクレージーキャッツの映画が盛んで、「無責任時代」と言われた頃。若い人は直接は知らないだろうが、TVなどで映画を見たことがあるかもしれない。植木等が演じるサラリーマンは「調子よく」生きるのがモットーで、「コツコツ努力するヤツはご苦労さん」というが、改めて考えると植木等サラリーマンは非常にマメにゴマスリを行っていたのである。人は何を苦労と思い、何を苦労と思わないのか、という点で大きく違っているのだ。

パソコンはわけの判らない挙動をするので信用できないとか、Windowsが「不正な処理を行ったので…」とか表示するのに対して「オレは潔白だ!」と叫んだり、ハードディスクがクラッシュして人生に失望するなど、パソコンに振り回されている人もいれば、全く同じ事を経験しながら、全然気にとめていない人もいる。

パソコンはこれからも進歩は続き、現状の問題もいくらかは解消されていくいくとともに、従来ではパソコンと別であったTVもCDも…冷蔵庫も、みんなパソコン化していき、人々はパソコン馴れをしていくであろう。しかしコンピュータを構成している個々の部品とか、ソフトの性質はそれほど変わらないであろう。コンピュータの弱点をカバーした使い方がされるだけである。

人類の作る道具の相当多くがコンピュータ化することは理屈で考えればわかるのに、パソコンが未完成だから…という理由で取り組まないのは、取り組みたくないので弁明する理由を探しているだけである。それでも生活やビジネスをするのにいっこうに構わない。なぜならそういう人たちのために、お金さえ払えばパソコンの面倒を見てくれる商売は出てくるからである。

つまりパソコンで苦労したくない人は、お金を払う側にまわり、パソコンの苦労を厭わない人はお金をもらう側にまわるのである。パソコンビジネスやパソコン雑誌を立ち上げた人は「オタク」と蔑まれた時代もあったが、「好きこそものの上手なれ」というが如く、若くて経験は少なくても専門性を獲得していった。それが後のビジネスの開花につながるのである。日経新聞社が後の日経BPになる専門雑誌を立ち上げるに際して、その編集者はその世界の大学院や研究所といった専門領域にいた人から募集していたが、苦労を厭わない習慣を身に付けた人でないと到達できない領域があるものだ。

印刷人には印刷が好きな人がたくさんいる。単色機で1色づつ刷り重ねて、4色目で紙の上にきれいに印刷が始めるのを見ると満足な人はインキの臭いなどは気にならない。今はないが製版の暗室作業であっても、魔法のようなプロセス製版の魅力からすると何でもないものだった。当時の未整備なカラー再現の条件で努力した人は、その環境が嫌であったとは思わず、そこにやりがいを感じていただろう。

今日では紙の印刷は、需要が増えない分野は収穫逓減になり、縮小再生産で利益率を確保しようという時代である。そこで業務拡張はコンテンツの処理やマルチメディア制作やオンデマンド印刷などの印刷隣接サービスに向かわざるを得ない。

この状況は1990年代中頃から顕著であるが、「もうからない」とか、うまいビジネスが見つからないとか嘆く人が多い。それに引きかえ、電子メディアの仕事をしてどういう点が面白いか、ワクワクするかという話はなかなか聞こえてこない。それは結局印刷隣接サービスが好きではないのだろう。

PAGE2002では「印刷への挑戦」というテーマで基調講演を設定し、電子ペーパー、モバイル、バーチャルリアリティなど、これから大きく展開するであろうメディア技術とその応用について話し合うことにした。これは2001年に行った「2050年に紙はどうなる?」「2050年に印刷はどうなる?」の続編であり、この3本の企画のうち2本は満員になり、延べ数百人の参加者があった。

しかし印刷会社の人の関心が必ずしも高いわけではなかった。このことから今後のメディアビジネスの担い手が変化しつつあることが感じられる。かつてDTPでは、活版職人から版下デザイナへと担い手が変わった。WEBでは静的なデザインから動的なデザインへの変化があり、興味を持つ層がやはり交替しつつある。新たなビジネスは苦労がつきまとうものであり、そのことが新たな担い手を選別することになるのだろう。

2002/02/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会