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コア技術そのままではビジネスにつながり難い

マイクロソフトの成功は、技術開発という面よりも、開発された技術をマス向けの製品にするところにあったといわれる。新たな技術開発で鎬を削っていたところがほとんど倒れてしまうのは、コア技術がそのままビジネスになることはないからである。今のコンピュータはUNIXに始まって、WindowsもMax OS Xもそれをコアにもつものとなった。しかしUNIXそのものはどうなのか。Linuxは無料だからたくさん出ているが、その上にかぶさるユーザインタフェースやサービスはパソコンOSに追いつかない。あとのUNIXは今はサーバ分野で生き残っているくらいになった。

UNIXそのものが商売にならないのは、UNIXはUNIXがわかるエンジニアがいるところにしか売れないからである。パソコンは中身にUNIXの機能があったとしても、UNIXを知らない人が使えることがメリットになっている。だから、UNIXはOSとしての機能的には正しいといえるかもしれないが商売としてはエンジニア向けのニッチに限られる。1970年代にXeroxのパロアルト研究所で考えたことは、そういう特別の訓練を受けた人の狭い世界からコンピュータを解放して、マスが扱えるもの、ひいては子どもでもコンピュータを使えるようにするにはどうしたらいいかであった。それをパロアルト研究所ではユーザ・インターフェースというかたちで発展させていった。

Windowsが広がったもうひとつの理由で、基本的にはUNIXに対して優れている面は、周辺機器に対する対応で、多様なドライバが提供できる/組み込める仕組みである。Windowsはどんどん新たな周辺機器の向上を許していて、そういうものがもたらす新たな利用範囲をパソコンの魅力にしてきた。

UNIXは周辺機器のドライバは利用者がカーネルをリコンパイルするというかたちでやってきた。このためにUNIXをベースにしてい周辺機器がマス向けにどんどん出ることにはならない。実はWindowsのバージョンが変わっても本質的にそんなに変わっていないではないかと言われるが、周辺機器のサポートが最も進化している。周辺機器が増えることで今までコンピュータが使われていなかった世界にもコンピュータが入っていき、ユーザを広げた。

グラフィック・アーツもDTPという形である程度広がったものの、その作業レベルでは網点と色とか、フォントや組版の良し悪しなど、専門的にやっていないとわからないエンジニア向きのニッチで固められた世界を持っている。そのニッチに貢献するテクノロジーも必要だが、その専門性をもっとオブラートでつつまないとマスに広がることはない。DTPは道具立てとしてはWYSIWYGのやさしいコンピュータを使ったが、作業の核が従来のグラフィック・アーツのニッチのノウハウから抜け出ないと、いつかそれに代わって、そういうニッチのグラフィック・アーツの技術がいらないソフトが他の分野から出て広がる可能性は残っている。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 172号より

2002/03/08 00:00:00


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