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企業間連携を加速するSCMの取り組み

企業の競争力を高めていくために,電子商取引による企業間連携はIT戦略において欠かせない。取引先との情報共有やシステム連携でコストを下げ,顧客サービス向上を実現すれば,競争力を高めることができるからである。PAGE2002コンファレンス「IT戦略:SCM」では,直接資材,間接資材の調達について事例を交えながら紹介し,印刷会社の調達の視点からみたサプライチェーンマネージメントの構築について考えた。

大日本印刷では紙の電子調達「PrintMatrix」というプロジェクトに取り組んでいる。電子調達のプロジェクトの目的は,(1)コスト削減,(2)購買戦略機能の強化,(3)スピード向上,(4)事業構造改革,の主に4点である。

PrintMatrixの大きな特徴は,サプライヤ側である製紙会社の仕組みに顧客である大日本印刷が柔軟に合わせている点である。週次で生産計画を立てていた大日本印刷は,製紙会社に合わせて,月次で生産計画を立てている。このため,大日本印刷ではPrintMatrixで発注する紙は,納期に余裕がある印刷物を対象にして,2カ月先の長期計画を製紙会社に提供している。また,物流は,製紙会社の工場から大日本印刷の工場へ直送し,物流費やコストの削減を図っている。電子受発注の仕組みについては紙業界の標準的なEDIである紙パ流通VANを活用することで業務の効率化を行っている。

大日本印刷の石亀氏は「SCMどこか一社だけが儲かる仕組みは成功しない」と語る。印刷会社は紙を低価格で購入したい。しかし,製紙会社だけにしわよ寄せがいくようでは長続きしないし,協力も得られない。大日本印刷では生産計画の変更や物流の改善,紙業界のEDIの採用などに積極的に取り組み,製紙会社の生産性向上や用紙在庫の削減を実現している。今後は,印刷業界全体が取り組むことにより,印刷業界の標準化の構築や,仕組み全体のさらなるコスト削減が課題となるだろう。

富士ゼロックス e-コマース推進部ビジネスプランニンググループ白井浩之氏は,DELLやアスクルの事例を分析しながら企業間連携のポイント,間接材のマーケットプレイスについて紹介した。白井氏は「SCMは手段である。構築することが目的ではなく,SCMによって顧客にどのような価値を生み出すかが重要である」と語る。DELLでは,顧客が好きな構成でPCを発注し,注文を受けてからパソコンを組み立てて出荷するというBTO(Build To Order)で急成長した。このような顧客の潜在的な価格的価値を創造することが,リアルもネットも含めてビジネスの成功の大きなポイントになると分析する。

顧客側も間接材などの購買プロセスの再構築が急務となっている。文房具等の間接材を購入する場合,できるだけ多くの商品から選ばせたいと考える企業の購買部門は多い。しかし,コストの面から考えると商品点数は絞ったほうが良いことは明らかである。また,電子調達の仕組みを取り入れる際には,数社から見積もりがとれる機能を希望するケースが多い。その一方で,一定量の購入を確約して値下げ要求する,規制の概念とは異なる考え方で交渉する企業も登場しているという。

富士ゼロックスでは,PCや文具,用紙など一般オフィスの消費財を扱うe-マーケットプレイス「X-plaza」を展開している。X-plazaはサプライヤとバイヤがn対nで参加して間接材の電子取引を行う。昨今eマーケットプレイスの置かれる状況は厳しい。インターネットビジネスを成功させるためには,サプライヤ,バイヤ共に業務プロセスをネットにのせて標準化する。人材や技術,ノウハウなど企業の有形・無形の資産をうまくインターネットビジネスに結びつける。白井氏氏は,最終的には顧客に破壊的価値を与えることにより,eマーケットプレイスは現状とはもう少し違った形になるだろうが,必ず発展していくと語った。

大日本印刷におけるSCMのプロジェクトでコンサルティングを行う日本アイ・ビー・エムビジネスイノベーションサービス SCMコンサルティング宮崎信秀氏は,SCMの全般について解説するとともに,バイヤ企業が主導で企業間SCM構築に取り組む際のポイントを紹介した。

SCMの狙いは,在庫,リードタイム,納期回答の視点からさまざまな施策を実施することで,キャッシュフローの向上と顧客満足度の向上である。企業内であれば仕入れ,物流,販売などの組織構造,企業間であればメーカー,卸,小売,消費者という流通チャネルを,既存の概念にとらわれずにプロセス改革をする必要がある。

バイヤー主導で仕組みを考える場合は,購買品の特性に着目する必要がある。購買品の特性は,製品に直接使われる「直接資材」と生産には直接関係しない「間接資材」という視点,特定サプライヤからしか購入できない「戦略的な購買品」とどこからでも購入できる「汎用的な購買品」の視点から分類する。購買品特性に合わせて購入のアプローチを決めていく。

企業間(BtoB)でプロジェクトを実施する際には,体制やルール作り,稼動後のフォローなどが重要となる。特に期待効果の共通認識とルールの明確化,早期に効果を創出するための努力が大切だと,宮崎氏は強調した。

製紙業界には紙パ流通VANという標準的なEDIが存在するが,印刷会社には電子商取引における標準はまだない。標準化やルール作り,さらにはSCM普及を進める上でも,企業内の業務プロセス推進と並行して,業界内での連携が進むことが求められている。

2002/02/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会