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価値はあっても、気力の減衰で、業界が縮小

PAGE2002の準備を経て、あらためて製版機器の種類が激減しているのに驚いた。今はCTPが旬で、日本でも1000台とか1500台という出荷数字が噂されていて、これは想定される日本市場のパイの3分の1ほどであろうといわれる。しかし実際の仕事のCTP化率はCTP用刷版とPS版の比率から考えても1桁の隔たりがあり、CTPのレコーダは入ったものの、まだフル稼働はしていないことになる。しかし次の国内の大型印刷機材展であるIGAS2003の頃にはCTPはメジャーな生産機器になっているだろう。

そうするとIGAS2003には一体どんな新たな製版機器が残っているのだろうか? もしCTPがオンプレスのものにシフトしていくとか、印刷機とセットで印刷機械メーカーから販売されるようになったなら、純粋な製版機器というのは消滅してしまうことになる。完全にそうなるとは思えないが、製版が一ジャンルとして成立し得なくなるのは時間の問題であろう。しかし製版業者がなくなるのではなく、画像の加工サービス業者というのはずっと残るだろうということも前から言われている。

ただしそれは製版機器の上に成り立つ加工ではなく、従来の製版に代わるビジネスモデルを作る必要があり、業界としての製版は消える。過去の製版のビジネスから何を引き継げるのかというのが、新たなビジネスモデルを考える上での鍵である。例えば特定のカメラマンに評価されていて、その人が撮る写真は任される傾向があるならば、その人の作品のWEB化やデータベース化のお手伝いはできるだろう。あるいはそのようにカメラマンにアプローチする能力をもっていても同様なビジネスはあり得るかもしれない。カメラマンと付き合えるには、それなりの資質が必要で、その価値は減ずることはないだろう。

一方文字フォントの世界を見ると、活字→ガラス乾板→FD・CD→オンラインと、文字の形が載る技術の土台は大きく変わったものの、ビジネスとしては生き残っている。これは母字のフォントデザインという資産が受け継がれているとはいうものの、フォントメーカーには文字に関する造詣というのも受け継がれているからである。文字には奥深い文化があり、どんな場合にはどんな字形を使うとか、文書であらわしようのない多くの事柄がある。このようなノウハウ自体で稼ぐことはできないのだが、生き残るノウハウがある上に新たなビジネスモデルを考えることができるのだ。

製版であれ他の作業であれ、長く携わっていると自分のどこかにこれからも生き残るであろう価値は見つけられるのだろう。その価値を顧客に引き出してもらってビジネス化するためには、進行するIT化の中で価値が活用できるようなシナリオを想像できなければならないし、実現に向けての工夫や努力を惜しんではならない。今日印刷製版業界の一角が崩れていくのを見るにつけ、価値が残っていても新たな努力をする気力をなくしたところが増えているのが残念である。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 177号より

2002/03/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会