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近未来のデジタルカメラ

PAGE2002のデジタルカメラトラックでは,近未来のデジタルカメラについて「スタジオ運営のデジタル化」,「デジタルカメラの開発課題」,「写真家にとってのデジタルカメラ」の3テーマが議論された。


■スタジオ運営のデジタル化(K1セッション)
多点数の商品撮影を「センターサーバーを中心として複数のデジタルスタジオとレタッチスタジオをLAN接続」,カメラマンとレタッチマンがグループウエアでコラボレートしたり,さらにDAMと結びつけてe−ビジネスの電子カタログへの展開などを議論した。

モデレーター
JAGAT 相馬謙一
パネラー
深町 泰宣 氏(トッパンアイデアセンター西日本)
川野 茂樹 氏(トッパンアイデアセンター西日本)
牛田  弘 氏(凸版印刷)
石井 良明 氏(凸版印刷/西日本事業本部)

【トッパンアイデアセンター西日本/凸版印刷では】
・製版ではDTPがあたりまえになって,レタッチマンが10年前は100人いたのだが,今は0人ということで,この10年間で急速に変わってきた。
・九州・福岡の凸版印刷(株)西日本事業本部には,撮影スタジオと企画制作部門を担当する(株)トッパンアイデアセンター西日本がある。ここのスタジオでは一人のカメラマンが食品,モデル撮影,家具の撮影陶器のカタログなど,月間おおよそ100件以上,数千カットを撮影している。
【デジタル化のはじまり】
・同スタジオにおけるデジタル化の始まりは1997年ごろで,3ショットタイプのデジタルカメラが初めて入った。当初はスタジオのカメラマンも「デジタルはわからない,フィルム撮影の方が面倒くさくなくていいよね」と,デジタル化もなかなか進まなかった。
・ところが1999年に撮影の後工程であるデジタル製版部と組織的な統合が行われ,一気にデジタル化が進んだ。2000年で約半分,現在ではスタジオ撮影の100%近いところまでデジタル化が進んでいる。
・デジタルカメラは3方式を使い分け「DDCPの出力物=印刷物」が最終ターゲットになるようなカラーマネージメントを行なっている。今後は同じ色環境を,外部コーポレーターへの浸透も含めて,もっとプロファイルのことをいろいろな方面で活用しなくてはならないと思っている。
【仕事の流れ】
・トッパンアイデアセンター西日本では「デジタルルーム」という画像処理専門の部署をつくって,カメラマンが撮影したデータをデジタルルームにLAN経由で集めて専門スタッフが画像処理を行なうという,完全分業体制になっている。
・デジタル撮影の流れは,撮影の依頼者(凸版印刷の営業やアートディレクター)からフォトディレクターに撮影の依頼がある。ここで予算管理,進行管理,スタッフ手配,品質チェックまでを行なう。このために,カメラマンや他のスタッフと撮影の打ち合わせを主催したり,画像合成が必要なときには,フォトクリエイティブディレクターとの事前打ち合わせも行う。
・そしてフォトクリエイティブディレクターがカメラマンからの画像を撮影現品をチェックしながら印刷用のデータを作成していくという流れになっている。出来上がった最終印刷用のデータはフォトディレクターのチェック後に,撮影依頼者である営業やアートディレクターに納品という順序になる。
・このようにデジタル撮影が進んだことによって,製版に外部から来るリバーサルポジの分解作業が急激に減少している。私たちのスタジオでデジタル化が進んだ理由は,デジタル化を推進していく阻害要因が逆に少なかったのではないかと考えている。
・具体的には撮影データをセンターサーバーに集中化して,それぞれのスタジオとデジタルルームの間を社内LAN接続している。
・さらにこれからはデザイナーや外部のスタジオ,それからクライアントとデータのやり取りができる環境をつくって,クライアントがすぐOKを出せるようなシステムを構築する。これにより短納期,低予算にもっと対応できるし,これからそのようにしていかなければならないと思っている。

・このようにスタジオの仕事は以下の3者の役割りがうまく絡み合って進んでいる。
【フォト・ディレクターの役割り】
・依頼者である営業であるとかアートディレクターの要望点をルームの方に伝達するというのが基本的な役割りである。フォトディレクターの大切な部分は撮影や画像加工,画像処理に対する指示で,ここにおいて最終の仕上がりが左右されると言っても過言ではないと思う。具体的には撮影内容に応じて使用カメラ機種の選定や撮影データのファイルネームの取り決めをする。
・デジタルルームへは,顧客がどの形式のデータが最終的に必要とされ,データを渡す先はどういう処理をするのか,データの形態は,最終的な印刷物はオフセットか,軟包装などのグラビア印刷か等を伝える。
・最初の段階ですでに最終納品物をフォトディレクターがプランニングして進めていくことが大事である。
・最初の段階で情報が不足していると,後処理であるデジタルルームとの連携や,その後のすべての工程が影響を受けて,場合によっては撮影はしたけれども使えないデータしかできなかったということにもなりかねない。使用目的に合わない指示,そういったデータを作っても仕方がない。
【カメラマンの役割り】
・デジタル撮影におけるカメラマンはフィルム撮影では知らなくてもよかった製版的な知識をある程度覚えないと撮影できない。特に256階調の中でハイライトの飛ばないもの,シャドーがつぶれない,きちんと色が整えてあるデータを責任をもって次工程に回すことが最低必要条件になる。
・カメラマンは撮影の他に,撮影後のデータの後処理を行っている。ここまでを含めてカメラマンには撮影と思った方がよいと思う。そして処理済みの画像データをデジタルルームのサーバーへ転送して,同時にカメラマンの方から撮影の資料であるとか撮影の色チェック用の現品をフォトクリエイティブディレクターのもとに届けるという作業になる。
【フォト・クリエイティブ・ディレクターの役割り】
・フォトクリエイティブディレクターは,画像の色調を撮影されたデータをより好ましい色に修正して色調を作り込んでいく。レベル補正やトーンカーブで全体のバランスを整えたり,GCR,UCR,ICCのいずれかでCMYKに変換補正している。この3種類を用途や品質など,利用に適する変換方法を選択実行している。
・8ビットのCMYKデータを作り込む前には,さらに撮影現場に立ち寄ったり,撮影現品を直に見ながらの色調の合わせ込みをしている。
・デジタルルームの存在がスタジオ内にあるという最大のメリットは,まず打ち合わせがとてもしやすい。撮影側と私たち処理側が色調等に本当に共通の認識が持てる。カメラマンとフォトクリエイティブディレクターの両者の間で十分なコミュニケーションが取れる。調子修正時に撮影現品を見ることができ,スピード面,品質面でもよりよい印刷データがスタジオ内で作成できている。
【DAMへ】
・続いては現在全てが実現していないで一部は近未来の姿であるが,デジタルスタジオからデジタル・アセッツ・マネジメント(DAM)へという話である。製版とマルチメディアもしくはe-ビジネスがつながり,これらの間にあった垣根がどんどん低くなって,ビジネス展開がいろいろ出てきている。
・データの二次利用など活用範囲は拡大し,デジタル化を武器に多角経営された成功例はたくさん出てきている。日本では今年中に900万世帯がブロードバンドネットワークを引くようになるだろうという予測が出されて,常識的なインフラになっていく。そしてそれを利用した電子商取引のために商品データをほしいという人たちが急増してくる。さらに紙の伝票で受発注をしているのが,電子取引によって無くなっていくだろう。
・GMDは凸版印刷のDAMの商品名である「ガメディオス」の略であるが,前述のセンターサーバーをブロードバンドネットワーク化すると,フォトスタジオ/広告会社/得意先/印刷会社/制作会社などが遠隔地にあっても,あたかも隣の机で仕事をしているようにデータの共有化が図れる環境ができる。
・現在の凸版印刷の仕事でも,例えば沖縄のカメラマンから本所の製版所に送られたデータを修正して,朝霞の印刷工場でCTPが出力するという仕事もある。こういったかたちでセンターサーバーからDAMへの第一のステップは,ブロードバンドのネットワークを引いて,LAN環境ではなくてWANの環境でデータを共有しながら仕事を進められるものになる。
・次の段階はDAMをベースにしてe-ビジネスへの展開を図ることである。しかし,e-ビジネスへ展開するときは,センターサーバー機能とはかなり違った機能を持たせなければいけない。
・センターサーバーとDAMの違いは,センターサーバーはクローズド,DAMはオープンである。DAMは検索も出力も多目的に対応できなければいけない。データ管理も,印刷物に依存したページ管理でなく,商品ごとの管理になる。
・DAMによって凸版印刷が電子市場のサプライヤー側,バイヤー側にそれぞれデータベースを供給することができるわけである。
【ガメディオスでは】
・DAMの一例として,ガメディオスを紹介する。ガメディオスはオラクルをベースにして約10年前に開発したが,そのころは印刷画像のデータベース機能を中心にしていた。1995年ぐらいからCD-ROM対応のニーズが出てきた。そしてここ2〜3年でインターネットへ対応というニーズが出てきいる。
・ところがインターネットの世界の人たちは「写真は簡単に撮れるだろう」「現物が無くても印刷物をスキャンすればいい」と,お気軽に考えていっている。あまりお金をかけていただけない状況である。ということは,印刷物を作るところにお金をかけてきちっとしたデータベースを作れば,他への使い回しは簡単にできる流を作っておく。
・印刷物で作るデータを他のメディアに展開するメリットは何かというと,例えば切り抜きは1個切り抜いておくと,バックの色を変えたり,拡大・縮小をしたりしてもその切り抜きマスクが使える。
・また,電子購買(e-ビジネス)では例えば,バイクのカタログでは写真は前から,横から,斜めから撮った写真がほしい。ロゴマークもある,スペックもチラシに載せる3行ぐらいのスペックから,もっと詳しいスペックまでニーズに応じた詳しいデータがそこに存在している。
・さらに,e-ビジネスの人たちは伝票を電子化しようとしているが,そのデータも印刷会社にあるので、我々に依存しなければならない。
・このような流れの中で,ガメディオスは電子市場とかEDIとかなどで,インターネットを使ったチラシの受発注などを展開するようになってきている。
・導入実例では,酒・食品業界,スポーツ業界,ギフト業界,日用品業界,文具業界といったところに多数導入していただいて,そこでは紙カタログだけではなく,電子メディアにも展開されて使われている。


■デジタルカメラの開発課題(K2セッション)
プロ用として急速に技術進歩している一眼レフタイプのデジタルカメラについて,開発側から現状に残っているさまざまな課題,カメラマンなど利用者に逆提案があった。

モデレータ
郡司 秀明 氏(大日本スクリーン製造)
パネラー
芝崎 清茂 氏(ニコン),伊藤 正晴 氏(ニコン)
諸田雅昭 氏(キヤノン),杉森正巳 氏(キヤノン)


・ある印刷会社の予想によると,近未来の画像入力はデジタルカメラが50%,平面スキャナが25%,ハイエンドドラムスキャナが25%であるという。 主要な印刷会社はデジタルカメラにも相当額を投資した。それでも制作時間の短縮になった。特にニコンのD1登場に始まる100万円を切った価格で提供されたデジタル一眼レフカメラ(D-SLR)は,使い手(カメラマン)のデジタルカメラに対する認識変化が起こっている。
・D-SLRを『手持ち撮影が可能な立体スキャナ』と考えると,1次現像以降のワークフローが通る。また画質性能を引き出すにはフィルム一眼レフカメラと異なる使い方をする。それにはハードウエアの特性を把握し,被写体・撮影環境に最適な撮影方法を採用する。特にフィルム選択を行う様にハードウエアの選択を行う。
・デジタルカメラは発展途上であるため,撮像素子の特性をわきまえて用途に合わせた選択を行う事が大切である。
・デジタルカメラは効率向上のツールになるのか,品質向上のツールになるのか,製版機かというところに課題があり,さらに技術的に気になることは,偽色・モアレ・手ぶれ・ワークフロー,(ハイライト,シャドーの)ノイズである。
・デジタルカメラの画質項目を「撮像素子の特性【カメラ特性】」という対比で列挙すると,素子感度【ISO感度】,ダイナミックレンジ【階調特性,ハイライト階調】,解像度【出力サイズ】,ノイズ特性【シャドー階調,滑らかさ】,過大光量特性【ブルーミング等の不具合】,分光感度【色再現性】,画素ピッチ【モアレ】,画素開口率【感度,モアレ】などとなる。

○大事な項目についてさらに細かく述べる。
・階調特性について,CCDによって光電変換された光学像のレスポンスはリニアであるが,出力装置のガンマ特性に合わせて階調処理を行う。一見してメリハリのある階調は既に情報を失っている事が多い。後処理にて最適化する場合は階調情報が十分保持されたデータであることを確認する必要がある。
・色再現について,印刷ワークフローへの適用性は用途によって選択する。測色的色再現(Color Reproduction)は,カラーチャートの撮影データから得られたLab値とカラーチャート測色値(Lab値)の忠実な一致する。好ましい色表現(ColorAppearance)は,主観評価により忠実なLab値とは異なるポイントへ色調を設定する。また、期待される色の実現は肌,青空,青い海,植物の緑・・・である。
・ホワイトバランス(WB)は,正しい色を得るには規定されたグレーが無彩色データとなる様に撮影時に設定する必要がある。しかし被写体から正しい無彩色を抽出できるとは限らない。また,複数種の光源が混合した状態では場所と時間により無彩色被写体が一定にならない場合が多いので注意する。RAW(生)データ記録は後処理にてWB再設定が可能であり,処理の自由度が高い。
・ノイズ特性,白黒ノイズ,色ノイズについて,暗電流ノイズとアンプノイズは20年間の開発にて改善してきた。しかし「光ショットノイズ」という光のゆらぎによるノイズは未だ改善不可能である。光ショットノイズの影響を低減には,CCDの取扱電子数を増加する事が必要である。一般的に大型画素を有する撮像素子はノイズ特性が良好である。撮像素子によっては暗電流が支配要因となる場合があり要注意である。
・モアレ・偽色について,規則正しい配列の撮像素子を用いて光学像をサンプリングする場合,折り返し歪が帯域内にモアレとなって現れる。特にワンショットタイプのDSCでは原理的に色モアレとなって発生する。モアレを抑圧するには光学像のレスポンスを下げる必要があり,解像感の低下を伴う。バランスをどう取るかである。
・輪郭強調について,最終出力サイズ確定→カメラでの輪郭可否判断は容易である。最終出力サイズが不確定なときはカメラでは輪郭未処理にて記録し,レタッチ後に最終輪郭処理を実施するが,輪郭強調は一度で決めることが肝心である。
・総合画質の考え方は画質特性の何を重視するか,バランスの取り方がポイントで,それはFilml時代に被写体や撮影条件によって最適な乳剤のフィルムを選択していたことと全く同じである。用途に合わせて適するハードウエアを選択する。
■写真家にとってのデジタルカメラ(K3セッション)
フォトグラファが望むデジタルカメラの今後の発展の方向を探った。
デジタル画像処理技術を手に入れたカメラマンにとって,デジタルカメラとの出会いとは「一点ごとの画像処理が出来るようになった」ことであり,この技術を「どう自分のスキルに高めていくのか」も議論した。

モデレーター
JAGAT 相馬 謙一
パネラー
鹿野 宏 氏(ハンディー/取締役社長 テクニカルアドバイザー)
佐藤 希以寿 氏(フォトグラファー)
渡辺 和仁 氏(テクノスクリーン)


・デジタルカメラのメリットは,露出ミスが無くなること,その場で納得いくまで撮影を繰り返せるので結果的に品質を上げることができること,撮影/未撮影のチェックが完璧で後処理でライティングや仕掛けや修正・合成を施すことが可能などである。これらのメリットにより撮影にかかる時間を短縮できる。また,複製が完璧で容易である。
・バックアップ前の事故は取り返せない,撮影した時点で銀塩よりはるかに使用できる限界寸法が決定してしまう,後処理というものは以外と時間のかかるもの,全てにおいて発展途上のシステムであることである。
・そしてデジタルカメラこれらは私たちに何をもたらすか? 答えはカメラマンとしての自信と時間の自由度である。他社による現像処理からの解放されるが・・・これは自家現像しなくてはならないということに直結するが,決して時間と経費の短縮には直結しない。
・ハイエンドデジタルカメラとSLRデジタルカメラの差は画素数・再現可能な原稿の寸法・記録可能な階調数である。
・今後のデジタルカメラに求めるものは,個人的にクイックリターンミラーとペンタプリズムからの開放である。 これからカメラマンに問われるのは,色彩学の知識である。自分で色彩をいじる以上は最低限安定した色を観察できる環境と色彩学の知識が必要になる。
・何故Photoshop6.0かというと,カメラマンの意思で作成したICCプロファイルが反映できるようになったことである。しかし印刷会社ではカメラマンの作成したプロファイルを全て破棄してしまうこともある。カメラマンの知識のバラツキも課題であるが。
・デジタルカメラのワークフロー/フィルムとここが違いは,結果確認が早い/撮影ミスの対応が早い/いざと言うときのデジタル加工が可能/ブロードバンドで納品が楽になりそうなどである。
・写真家の立場でデジタルのメリットに関してどう感じているのかというと、最大のメリットはトーンカーブが操作できること、仕事にあわせてトーンカーブが変えられることである。
・最近困ったことが起こっていて「デジタル=安上がりなシステム」と言った発注者側の誤解を解いておきたい。フィルム代は不要になったが、逆にデジタル機器に大きな投資が必要になっている。
・デジタルカメラのメリットを生かす環境造りでは,カラーマネジメントが重要である。プロファイルを生かして画像評価の標準化,共通化を図ることが重要である。例えばモニターの再現性の標準化、使うカラースペースをはっきりさせることが必要である。

2002/03/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会