印刷の受発注の仲介をするECが難しいのは、平たく言えば印刷業がもうからなくなっているからである。印刷会社で利益が何%も出ていないのだから、受発注ともにECサイトにお金を払いたくないのが基本だ。逆にいうと、ECサイトを作ったことで省略できる効果が大きければEC化は進むのである。
それは印刷発注に関する業務をASP化するようなものと考えられ、そういう方向のものを作っていくビジネスが世の中では広がる。その先例として銀行のATM化があり、それまでは銀行の中にしかなかった金融端末が無人化して街に出て、それを経由する取引で銀行はもうかるようにした。
我々が見直さなければいけないことは何か。我々が持っているニッチのグラフィック・アーツのいろいろなノウハウなどがあるが、それは我々が今まで使っていたやり方に閉じこめておくのではなく、それをどのように展開すればもっと広い世界に広がっていくかを模索しなければいけない。
今までは万能DTPソフトでさまざまな印刷物を作り分けていたが、そこでは作業者がそれぞれの印刷物の要点を心得て処理していた。これに対して特定の印刷物のタイプごとに印刷物を作るソフトを作ると、かなり無人化に近いDTPになる。ある組織で、ある仕事では、この印刷物しかいらないというパターンはたくさんあるから、そういうものが求められる可能性はある。
だがそれがどれぐらいの需要があるかわからない。例えばコラブリアが考えていのは、DTPで手作りしたものをファイル転送をして印刷してもらうことではない。その印刷物を作るプロセスを最適化できる仕組みを求めていた。この印刷物ならここをこのようにしたらいい、この要素はいらないとなどを、ASPにした仕組みの中で組み立てて、ネット上で有能な営業マンが手配・段取りをしているかのごとく振舞わせる。発注者は自分のパソコンで印刷物の仕様を固めることができ、ボタンを押したら印刷が始まるというものをめざしていた。
今、グラフィック・アーツの技術もデジタルベースになってはいるが、従来の仕事のプロセスに凝り固まったニッチになってはもう発展しないだろう。反対に顧客のために開放されていけば広がっていく可能性がある。印刷物を作るノウハウを元に、その印刷物を作る仕掛けを作るところがこれからもっと出てくることになるのではないだろうか。
技術の変化はまだ衰えていないのだが、最近はビジネスとして期待できるものが見つからないと人は、その人の「期待」自身に問題があると考えなければならない。従来の印刷業の期待そのものが、今の動いている時代から見ればあまりにも小さくて、世の中の期待とそぐわないのではないか、と一度問い直してみるべきである。
テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 184号より
2002/06/28 00:00:00