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電子出版は利用者研究が足りない

アメリカで携帯電話は普及してきたが、日本と違って着メロのようなものは普及していない。突然近くにいた人の持ち物から警告音のようなけたたましい音が発せられて、何かと思えば携帯電話だったということがある。日本でも着メロの伸長はキワモノっぽい面もあったが、携帯電話の機能としては結構重要な点をついていたことが、結果としてわかる。

情報機器やサービスの開発は、イリジウム計画のような過去にはなかった壮大な可能性に対して技術面から考えてチャレンジするものもあるが、長期的な計画になればなるほど技術革新の大変化に揺さぶられて、計画の遂行が難しくなる。またそれぞれが育ててきた技術に固執するあまり、使う側にとっての心地よさとか利便性が押さえ込まれてしまうこともある。

一方ポケベルなど、世に出して見ると意外な方向に展開したものは、その使われ方の研究から次のステップの応用が浮かんできて、技術やマーケティングをうまくバランスさせれば食いつなげられ、結果として携帯電話、iモードにまで発展させられた。これは日本人の得意とする微差の蓄積の賜物であって、論理的に仮説を立てて行った結果ではない。

情報機器やサービスが、特定のビジネスニッチであった時代は、理屈が通っていてメリットが理解されやすいものでビジネスができたであろうが、携帯電話やWEBのようにマス化してしまうと、ビジネスプランは全く異なったものとなってしまうようだ。よくいわれるように、この分野は技術先行の計画よりもAV機器や情報家電に近いセンスが必要になった。

出版業界はグラフィックアーツの見識をもって紙媒体の開発は得意ではあるが、マス対象の電子メディアの開発に際しては、コンテンツ自体の面白さ以外に「使って面白い」ことが要求されるため、設計にもマーケティングにもなかなか苦労している。誤解覚悟で言うと紙媒体は作りっぱなしで、利用者研究があまりされていなかったのであろう。

電子メディアでもその技術的な制約の中で、いかにTPOにフィットして、面白くコンテンツを表示し、動的に操作(インタラクション)できるか、という用件を満たすことが、そのメディア・情報機器への親密度を高める上で重要であることが、着メロのヒットからうかがい知れる。

■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」158号(巻頭言)

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2002/07/03 00:00:00


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