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PODはニーズや必要なサービスを捉えることから

〜松縄正彦 インタビュー〜

質問:JAGAT Webmaster
回答:社団法人日本印刷技術協会 参事 松縄正彦


POD・オンデマンドプリントの鍵は何か


質問:デジタルプリントについては印刷業界では従来あまりはっきりした焦点が定まっていなかった。JAGATにおいても,コンベンショナルな印刷とデジタルの印刷を区別してはいなかった。この様な状況の背景としてオンデマンドプリント自体,定義がしづらいという面がある様に思われる。一般にはオンデマンドプリントは,どのように捉えられているのであろうか?

回答:おそらく,どの立場で話をするかで内容が異なるだろう。過去にもビデオ・オン・デマンドの様にオンデマンドと名前の付くものが他の業界でもいろいろとあった。要はニーズに焦点を当てて,この様な言葉が出てきたという事であろう。

質問:印刷の場合は,どうなのか?

回答:印刷業は受注産業という事もあり,ニーズを考えるという文化はなじみ難いかもしれない。オンデマンドプリンティングという言葉は,オフィスを主市場としている複写機・プリンター分野に由来している。従ってオフィスの定義をそのまま印刷業界に持ってきてもあてはまらない事が多い。特に,オンデマンドプリントでは『小ロット対応』という側面が良く言われているが,これをそのまま印刷に当てはめても小ロットの仕事をどう集めるかが問題となり,営業効率,採算性を考えると厳しい状況になろう。又,納期についてもオフセット印刷の納期が短くなり,平均納期で比較するとオン・デマンドが有利という状況も一概には言えない状況である。
オフィスという環境と,印刷という『生産現場』の違いを思い起こす必要がある。その為には,印刷物の果たす役割をもう一度振り返る必要があろう。つまり,印刷が終点ではなく,のように印刷物が最終エンドユーザに渡ってアクションが起き,これにより次の行動が誘発される事が重要なのである。最終エンドユーザに対し,どのようなサービス,製品や情報を訴えるのか,この役割を再確認するという事で,単に刷れば終わりという事ではないと思われる。又,何でも高画質が必要という事ではなく最適画質を提供するという考え方に変わる必要も出てくるかもしれない。

質問:エンドユーザまで考えた動きはあるのか?

回答:いくつか例はある。エンドユーザの属性データ等をDBとして構築し,このDBを基に小売り店等のクライアントにDMサービスを提案する例。又多数の商品の画像DBを構築し,画像をもとにエンドユーザに必要商品を選択してもらい,最終的にプリントする事に結びつける例,等である。

質問:それはオンデマンド印刷というより,タイトルのつけ方が違うのではないか?

回答:刷ること自体が目的ではなく,エンドユーザやクライアントのニーズを汲み上げ,いかにサービスを提供しプリントに結びつけるのか,が鍵と考えている。『デマンド』という言葉の意味を吟味する必要があろう。そしてその上で即時性(オン)が求められるのである。

質問:刷ることは基本として,印刷物の役割を高めることを考えるということか?

回答:印刷物の付加価値の意味合いが今までとは違うと考えている。従来,印刷の価値を高めるという場合には,色数を増したり,表面処理等について言われる場合が多い。しかしここでいう付加価値はユーザやクライアントにとっての価値である。印刷する事や印刷物自体ではなく,印刷物の持つ機能面での価値である。

質問:それが印刷業界にとってオンデマンド印刷のとっつき難さにつながっているのか?

回答:そういう面はあると考えている。この様なニーズ面を考慮しなければ,単に小ロットの仕事を苦労して集めるだけの切り口しか出てこない。この結果,採算が合わない事になってしまう。但し,小ロットの仕事を自動的かつシステム的に集める事が可能であればこの様なニーズ面を特に考慮しなくともビジネスとして成立するケースはある。特に大企業内のプリントセンターや,親会社やグループ企業からの仕事を一手に引き受けている印刷会社がこれに相当しよう。

質問:かつてプリントショップと言われるものがあったが,広まらなかった。無理やりに作ったビジネスモデルだったかもしれない。

回答:一つには自動的に仕事を集める仕組み,システムを作る事が重要である。小ロットの仕事を営業が苦労してかき集めるのは難しい。

質問:最初に付加価値の話しが出たが,付加価値は目に見えない。印刷は今まで目で見て判断する事をベースに仕事をしてきたが,見えにくいものをベースに考えないといけない事になる。
回答:刷る事を中心に考えると,今まで経験のない領域になるかもしれない。この意味では,クライアントへのアプローチの手法も違ってくるだろう。しかし,クライアントから見ると印刷も『発注』から『調達』へと変化している。印刷会社も対応して『受注』から『提案』へとその営業形態を変えないといけないのではないだろうか?これが最初に試されているのがオン・デマンド・プリンティングの様に感じている。従って,営業形態,データベース構築,インフラ整備等を人材面も含めきっちり作る事が必要になるだろう。自社で対応が不可能な領域は,得意な会社とアライアンスを組む戦略を立てる事も必要だ。アメリカでは小売り店が市場調査会社,印刷会社と手を組んで,きっちり事業を行っている例がある。アライアンス全体で付加価値を出しているのである。

質問:アメリカの例だと,ダネリーがメンフィスに大きなオンデマンド印刷のサイトを作ったことがあったがあまりうまくゆかなかった様である。

回答:どこで付加価値をつけるのかがポイントであろう。
質問:図でいえば前側とのコネクションというより,後ろ側のみのアプローチだったのだろう。サイクル全体が管理できるような,それなりのしっかりした考えを全体で又はクライアントがもつ必要があろう。

回答:二つ目としては要するに,ユーザやクライアントのニーズが何で,どのようなサービスが望まれているかを明確にする事である。そこを整理した上で最終にプリントする事を提案する事が重要と思われる。

Webmaster:ありがとうございました。

2002/09/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会