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スケーラブル化する印刷と受発注の変化

印刷機の製造は1960年代くらいまで町の鉄工所のレベルのところでも多く行われていた。その頃の印刷という仕事も職人芸の時代で、紙のシーズニング、インキや諸資材の使い方、印刷機の調整の仕方は現場のノウハウであった。日本が高度経済成長期に入って印刷産業は近代化・工業化・大量生産に邁進し、印刷機も精度、速度、使い易さが求められ、高い加工精度やメカトロ技術の駆使で世界的な印刷機メーカーになったところもあれば、淘汰されて無くなった鉄工所も多くあり、印刷機はワールドワイドな質のものとなった。

日本はチラシなどでも安価にきれいに量産する技術がゆきわたって設備過剰感もあるが、世界的にはまだオフ輪の生産性競争はどんどん進んで、ギャップレス、シャフトレスなど、これからも変わっていくと思える要素が多くある。一方で枚葉印刷機がなくなるわけではなく8〜10色の両面プラスの印刷機の導入が盛んになる。プラスとは、特色とかコーティングのインライン化に使われ、やはり生産性は上がっていく。これらオフ輪と枚葉のロットの大小による棲み分けのさらに下に、デジタル印刷機が登場した。これはオンプレスCTPのDI機と、トナーベースの高速プリンタに分けられる。

デジタル印刷機はDTPなどプリプレスのフルデジタル化に沿って登場した。PostScriptベースの紙面データも各言語に対応していてワールドワイドなものであり、しかもオープンな仕様なので出力先を選ばず、CTPが普及することで「DTP+小ロット」分野に限らずどのような印刷にも対応するようになった。このことを印刷の側から眺めて見ると、2つのことがいえる。

第1は、今まで良いものを作ろうとすると製版・印刷の垂直的な密な関係が必要であったことから解き放たれ、製版・印刷お互いの依存関係が薄くなる。第2は、紙面データは小ロットでも大ロットでもどのような印刷にももっていけるという「スケーラブル」な状態になった。PODなどで小ロットの仕事がペイしにくいというのは、PODだけしているから起こることで、今日の印刷のスケーラブルな特性を活かして、ロットの大小を組み合わせた仕事に切り替えないとPODは活きない。

ワールドワイドでスケーラブルな印刷技術の中で、PODだけを特別マーケットと見るのは「先に技術ありき」的な発想で、印刷発注者を置き去りにしているといわざるを得ない。しかし現状では発注者側も、開発・広報・本社営業・販社営業などが個別に印刷発注していて、ワールドワイドでスケーラブルな印刷技術の特性は活かされていない。今日の印刷システムの活用のためには、発注者側ももっとお互いに連携してトータルに印刷を考えるようになる必要があるだろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 186号より

2002/09/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会