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フロンティアとしてのブロードバンド

ITバブルの余波が収まらぬ中で、明るい話題といえばブロードバンドである。しかしブロードバンドとは何かという定義は、当初の技術的なものと今のADSLまで含んだようなものでは食い違いが大きく、何も定義していないのと変わりがない。平易にいえば家庭でも大容量の伝送が安価に行えるということだろうが、それは1980年代のINS計画の時から言われていたことである。NTTの民営化やインターネットの発達など、当時は予測しなかったことも起こったが、結局は21世紀に入ると当時の予測は技術的にはほぼ当たっているといえる。

デジタル通信の世界は電信から始まったように数字や文字情報の交換を専らにしていた時代が非常に長くあった。1980年代後半のパソコン通信の時代になって、やっとGIF画像のやり取りが始まったようなものである。しかし昔から写真電送などがあったじゃないかと思われるかもしれないが、あれはアナログである。デジタルで広帯域な通信環境があまねくできたら何をもたらすかについては、INS計画時のホームオートメーションみたいなものが未だに見え隠れしていて、意外にちゃんとした見解は出ていないように思える。

今日ブロードバンド関連報道で目に付くのは、インターネット放送のようにラジオとか動画を送る応用かもしれないが、これは技術的な可能性の一面をいっているに過ぎない。またブロードバンドやデジタル放送で『チラシ』という話も出るが、これもPUSHの性質をもつ印刷物とPULLのインタラクティブメディアの性質の違いが大きいので、単純な比較はできない。チラシを使ってインタラクティブメディアの利用を促すような、いわゆる補完関係になろう。

ブロードバンドは大きくは、メディア・B2B・ユビキタスの3つの側面から考えられるだろう。先のメディアとしての側面は、放送業界が本格的にはデジタル対応しそうにないので、実際はインパクトは薄いだろう。なぜなら民放は広告ベースのビジネスモデルであり、広告の間に番組を流しているようなものなので、広告がどうなるかわからないインターネットやデジタル放送には手が出し難いことが第1にある。

第2は、放送は行政の規制が多い分野で、いままで足並みを揃えて行動していたので、インターネットのポータルサイトのような自由な試みを短期間にするには向いていな世界に思える。第3は、放送コンテンツが独自の文化を作り上げていて、放送という一時期限りの性質の上に各種権利も設定されていて、インターネットの異なる文化で仕事をするとなるとそれらを引き継げないからである。

結局インターネットの動画は、放送の画質や視聴の容易さには及ばないだろうが、インターネットは参入障壁がないという点で印刷に近い壁のないメディアであり、従来の放送以外の人たちが放送モドキをするには格好の場所となろう。今自分のHPに写真を貼り付けている人がビデオクリップを貼り付けるようになるには、それほど時間はかからないだろう。

B2Bというのはバーチャルカンパニーのようなもので、今でも重いCADデータを共有しあう関係にある製造業各社が専用線で結んで、あたかも一体の工場であるかのごとくにシームレスに仕事をしている例はあるが、ある仕事に関連した企業をプロジェクトの期間だけ共同企業体にすることがブロードバンドで容易になる。これは分散作業環境の整備で企業の壁がなくなっていく話である。

そして最も社会的な変化が大きいのはユビキタスな環境ができることだろう。従来のコンピュータ処理は、人間がインプットに関わっていて、コンビニでもPOSの操作がなければ情報は処理されないが、人間が言葉や文字に表す以前の情報をコンピュータが直接扱うようになる。その代表は映像であるが、その先には視聴覚以外の三感(特に触覚)をコンピュータとネットが伝えるようになるだろうといわれている。

今でも高速道路の込み具合をインターネットで動画で見るというのや、セキュリティ面では留守宅の様子をうかがうとか、幼児の子供の監視をするなど、遠隔認識・遠隔操作というのが発達するだろう。インターネット自動車というのは、判り易い例である。どのあたりは時速何キロで走れるか、天気はどうか、などが自動車につけた装置からえられる。

しかもそれが世界中ネットワークでつながって、さまざまな応用に広がるというのだから、書きつづけているとSFのようになる。しかしこういうところこそ人間の想像力が発揮できる分野として残されていることを思うと、新たな時代を切り拓こうとする人々がユビキタスに押し寄せてくる理由が理解できる。

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2002/09/11 00:00:00


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