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箔押しの普及と可能性への挑戦

他社との差別化を図るために,特殊印刷を利用するケースが注目されている。液晶印刷,香料印刷,ホログラムなど,さまざまな印刷・加工方法が付加価値を高めている。なかでも箔押し加工については,高級なイメージを付加する加工方法として以前から知られている。
今回は,箔押し業界の仲間が集まり,勉強会などの活動をしている事例を紹介したい。

印刷全般の知識習得のために勉強会を結成
二水会は,現会長の瀧英康氏が発起人となって,1986年2月に設立された。箔押し業者,箔押し関連資材商社の営業責任者が集まり,印刷関連業全般にわたる知識習得の勉強会を行うゼミナールとして設立された。
会の設立目的は,「箔押し業界の第一線営業として,相談窓口となれるよう,箔押しの周りにある印刷関連の知識をもとう」ということであり,また「箔押しのことをデザイナーの皆さんや印刷業界の人たちに,もっと広く深く知ってもらう活動をしよう」という2点であった。具体的には,異業種勉強会や工場見学などの「自ら勉強する」活動と,サンプル帳の制作やセミナー開催など,箔押し全般の「宣伝」活動である。
箔押し業界の周りには,製版・印刷・表面加工・製本・成型といった業種業態があり,それらの仕事内容を知らなければ相談窓口機能を果たせない。何かトラブルが起きた場合,どこに原因があるのか,知識がないばかりに大きな失敗や損失を経験したこともあった。そこで印刷全般のワークフローを少しでも知るために勉強会を開くべきだと思った。業務改善や改革につながり,顧客に対する最適なサービス提供になるからである。個人でやれることには限界があり,意志を同じくする仲間がいればもっと広く深い知識を得る努力もするだろう。
同じ箔押しでもかなり多くの種類がある。プラスチック,パッケージ,上製本,商印,皮製品など顧客も全然違うし,技術面においてもワークフローのなかの位置関係も違う。二水会では,会員企業それぞれの得意分野,専門分野から勉強していくことにした。自分のやっている仕事の現状を掘り下げて勉強し,メンバーに報告するところから始めて少しずつ広げていった。
現在16社が会に参加している。月1回の例会日は,二水会の名称の由来でもある毎月第2水曜日と決められている。あらかじめ日程を設定しておいた方が予定が組みやすいとの考えである。毎回の出席率は80%以上で,今年8月の活動で,第195回目の例会となった。

関心は高いが知識・情報不足があった
「箔押しは印刷後の特殊加工として長年位置付けられてきたが,アイキャッチ効果を有効なものにし,費用対効果を高めるためには,特に企画・デザインの段階に携わる方々に箔押しへの理解を深めてもらうことが重要である」との考えから,数年前にデザイナーがどれくらい箔押しの知識があるのかアンケートを取った。約2500名のデザイナーにアンケートを送付し,約520名の回答が得られた。
まず回答率が20%を超えたことに驚かされた。回答には,箔押しに関する質問が数多くあって,関心の高さもうかがえた。そして分かったことは,ほとんどのデザイナーが箔の見本帳をもっていないということであった。もちろん箔に興味がないという回答もあったが,もっと使いたいけれど使い方が分からない,印刷会社に相談したら面倒なので金刷りに変えられたとか,本刷りはできるが校正刷りは無理だといわれたとか,いろいろな声が寄せられた。それらをQ&Aにまとめてアンケート回答者に情報提供した。その時見本も付けて実際に手にしてもらった。
また,情報を提供していくには,顔が見えるセミナーなどで答えていくのが一番いいので,デザイナー協会でのセミナー講演もしている。
二水会では勉強会を開催するだけではなく,ビデオを制作したり,見本帳を作って,印刷関連の団体や専門学校などにも寄贈している。

新しい箔押し技術にも挑戦
箔押しの最大の特徴は金箔・銀箔に代表される金属光沢であるが,浮出し・箔押し浮出し加工のように立体的な手触感を出す加工としても広く認知されている。高級感を演出するイメージがあり,実際それで広げてきたという。しかし新たな試みに挑戦し,在り来たりのものでない箔押しも登場してきている。
なかでも,箔押し後印刷の「ディフラサーモ」「スパークリスタル」は,二水会メンバーのディフラとニットクの商標である。イギリスで開発されアメリカで改良された技術をベースにしている。
箔押しは本来印刷の後に加工すると決まっていたが,発想の転換で箔押しの後に印刷をする技術が開発された。「問題は,箔の構造の中の離型剤にあった。離型剤にはシリコンや界面滑性剤,滑剤などが使用され,どうしても箔が残ってしまっていたのが,新しい離型剤が開発され箔押しの上に印刷することが可能になった」。
金属板に微細なラインをエッチングし,その後オフセット印刷をする。ラインの角度をさまざまに変えることで,見る角度によって光沢と色の変化が起きる。トレーディングカードやポストカードなどによく使われている。
特長としてはホワイトを印刷しなくてもよいことである。ホイル紙の上に印刷することと同じに思われるが,箔の場合は白抜きが可能なためホワイトを印刷しなくてもよい。用紙の素材を生かしたいところはそのまま利用できる。つまりそれだけ色の再現性に優れた物が印刷できる。

箔押しのイメージを広げていく活動を
メンバーの鳳文堂では,断裁から表紙貼りまで行い紙加工品として納めている。もちろん本業である箔を絡めてオリジナリティを演出している。
顧客のある結婚式場では,結婚式関連のオリジナル商品に相当のこだわりをもっており,差別化を図ることにも熱心だという。それにこたえるためにも新たな発想が必要であろう。例えばテーブルクロスと同じデザインで芳名録や結婚証明書のカバーなどを一緒にセットで作成している。外注に出さず自社内でできるような体制を整えておくことで,顧客との距離を保ち続けていきたい。
箔押し業界も決して明るい話ばかりではない。箔押しはコストが掛かると思われがちで,費用対効果と斬新な企画とのバランスを取るのも難しい。そのためにはやはり箔押しについての知識を広めていく必要がある。
箔押しを知らない層がまだまだ多い。種類がたくさんあることも知ってもらいたいし,もっと身近に感じてもらいたい。ほかの特殊印刷や特殊加工と組み合わせることにより,オリジナリティあふれる商品開発も可能になる。二水会の活動が箔押しのイメージを広げていくことは間違いないだろう。(上野寿)

JAGAT info 2002年9月号より

2002/09/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会