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電子自治体とドキュメント処理

電子政府で今までの紙ベースの仕事の進め方が大きく変わろうとしている。当面は紙との併存だが,その先のシステムを狙ってさまざまな試みが活発に始まりつつある。

世界最先端のIT国家になるための国家戦略「e-JAPAN戦略」において,目玉政策といわれているのが「電子政府/電子自治体」である。行政の情報化により,国民の利便性の向上や行政運営の効率化を実現する。電子政府は主に中央官庁の情報化が目的なのでそれぞれの省庁で進めているが,中央官庁の電子化だけではそのメリットは狭い。国民の実質的な窓口として機能している自治体の電子化やネットワーク整備が欠かせない。これにより,中央政府の霞ヶ関WANと地方政府のLG(Local Gvernment)-WANが接続され,情報の流れが一元化するからである。

 電子自治体では,インターネットでの行政情報の公開や各種申請手続きの実現,地方税の申告やGISの整備などさまざまな施策が推進されている。その中でも特に電子的な国家基盤を確立するための重要な施策として,富士通総研の榎並利博氏は「住民基本台帳ネットワーク,総合行政ネットワーク,認証基盤整備」の3つをあげている。(『電子自治体』東洋経済新報社)

 住民基本台帳ネットワークは国民の統一番号基盤を整備することで,国民のワンストップサービスを実現し,行政手続きの効率化を進めるために不可欠な要素である。また,住民の移転や各種届出などにともない,市町村同士あるいは市町村から県や国の間でやりとりされる書類は数が多い。総合行政ネットワークが接続されることで,従来郵送や電話で行われていた事務連絡を,パソコン上で行うことも可能となる。このように重要な書類をオープンなインターネットでやりとりするようになると,申請書の改ざんやなりすましなどを防ぐ方法が必要となる。そこで,暗号技術と認証機関による本人確認を利用した「電子文書の真正性と発信人の本人性」を確保するために認証基盤の整備が重要となる。

さらに,電子文書の真正性を確保するため,東京大学の須藤教授は「文書がいつ作成されたかという時刻認証」の早急な整備の必要性を強調する。これはネットにおける証券取引や特許申請などにも該当することで,時計メーカーがタイムビジネスのチャンスとして現在熱心に研究を進めているという。

 電子自治体の入口となるシステムは,行政事務の根幹とも言える文書管理システムである。文書管理システムは単に文書自体を電子媒体化するだけではない。総合行政ネットワーク上で交換される文書について,発生から流通・保管・廃棄までのサイクル全般の事務手続きを電子化して統合的に管理すると同時に,市民が使いやすい形で文書を提供していかなければならない。文書管理システムの整備により,行政内部では行政間の電子文書交換に対応し,迅速な電子決済の承認手続きなどが実現する。市民に対しては検索性の高い電子的な情報公開を提供できる。

 世田谷区が近年,住民に行政情報を入手する主な媒体について調査したところ,パソコンの普及した現在でも,主な媒体は広報誌と回覧版だという結果がでている。この結果をみて世田谷区情報政策課課長の西澤和夫氏は「行政において,全ての紙がすぐに電子化されることはないだろう」と語る。紙媒体に親しみを感じる世代が大半をしめる間は,紙と電子の情報が共存するお金のかかる状態が続くと予測する。そのような現状をふまえつつも,世田谷区では着実に将来のために須藤教授をアドバイザにむかえて情報化を進めている。

 自治体では,地域に関する情報を従来は紙媒体中心で提供してきた。しかし,様々な情報公開が求められる現在,膨大な量の情報を印刷物などの媒体だけで提供することに限界がきている。また,各自治体は「電子自治体は2003年度までに実現する」という国の計画に対応しなければいけない。電子自治体の実現には国からの補助があり,自治体も投資を行う。文書管理などを中心とした電子自治体関連のITビジネスはこの1〜2年が大きな山場となるだろう。

(通信&メディア研究会)


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2002/11/14 00:00:00


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