本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

未来のビジネスとパートナーを見つける

2002年を振り返れば明るい話題は一つもないように思われるかもしれないが、日本経済が抱えている問題と、グラフィックアーツのビジネスの問題は注意して分けて考えなければならない。紙であれ、画面であれ、人のコミュニケーションの良し悪しによって、個人でも、ビジネスも社会もそれでパフォーマンスが決まる。だから、その表現・伝達のノウハウであるグラフィックスは今後ともポテンシャルが高い分野である。グラフィックアーツのビジネスに明日は確実にあるのであって、このことをベースに将来ビジョンを考えなければならない。

この分野にはビジネスとして大きく伸びている領域もあるが、それは今まで印刷業が得意としてきたような、量で計れる物的生産性の世界とはかなりズレがあるので、伸びる世界に入っていくには、我々自身のビジネスモデルを変えなければならない。そこに焦点をあてて、PAGE2003のキャッチフレーズは「見つけよう、グラフィックビジネスの明日」とした。

過去10年、今後10年

10年一昔というように、10年間は経ってみるとあっという間だが、状況は全く変わっているものがある。10年前は、日本ではDTPを手がけるところは非常に少なく、カラーはCEPSが花盛りであったが、カラーDTPの技術的な課題はほぼ解決していたので、DTPが本流になる日に備えるという意味で10年前のPAGEではパソコン上のDTPシステムを多く紹介し、またDTPに先行的に取り組んでいる多くのデザイナに登場いただいてPAGEコンファレンスをしていたことを思いだす。

この10年を振り返ると、DTPは印刷制作の本流として定着した。しかしそれで全てが解決したわけではなく、次第に別の課題も明らかになった。印刷業界内では、DTPのような「画面」による作業で制作が全て完了するようになったものの、作業の指示やクライアントとの打ち合わせ・連絡、営業と工務と現場の連携などなど、DTP作業を取り囲む環境は以前の口頭の打ち合わせと紙の伝票のままであり、そこにおけるミスロスやタイミングの悪さが解決されず、デジタル化による効率化は足枷がはまったような状態である。

一方印刷業界外を見ると、インターネットの普及、1人n台のコンピュータ利用など、IT化という言葉に象徴されるように、ビジネスプロセスはデジタル化で全く変わりつつある。今印刷会社は製造にかかわる人間が減った反面、ホワイトカラーが増えすぎて経営を圧迫しつつあり、これはITへの逆行でもある。つまり制作プロセスだけをデジタル化した印刷業と、ビジネスプロセスのデジタル化をした業界外の世界のギャップは非常に大きいものがある。

だから今後10年の印刷業の課題はこれを埋めることが最優先になるべきであり、我々の体の中を隅々まで血液が流れ神経が通っているように、印刷のビジネスプロセスのどの部分もデジタルデータが行き来して仕事の効率化ができるように、ビジネスのインフラを作り変えなければ、せっかくグラフィックビジネスに伸びる可能性があるというのに、これからの情報・メディアビジネスに必要なパフォーマンスを発揮できない。

このデジタルストリームの中で印刷のあらゆるビジネスプロセスや現場の作業を行うというコンセプトは、今日JDFなどで少しづつ見えるようになってきており、2年後のdrupa展では各社のJDF対応製品が出揃うと見られる。それに備えた動きをPAGE2003では始めている。

また、過去にコンピュータの能力が1000倍になって価格が1000分の1になったような技術革新のテンポは今後10年も衰えることなく続くとみられており、それにつれてメディアビジネスの環境は今後10年で大転換することになる。10年前はWebもiモードもなかったように、今はまだWebのおまけのようなブロードバンドや、知的な道具としては大したことのないパソコンも、次の段階に大きく化ける日がくるであろう。
インターネットやコンピュータの社会的なインパクトは今の比ではなく大きくなって、情報・コミュニケーションが様変わりし、ビジネスのあり方や人々のライフスタイルが変わる様を想像して、将来のビジネスのシナリオが作れるようにしなければならない。これはPAGE2003基調講演のテーマであるが、こういった次の10年をナビゲートすることが、新しいPAGEの使命であると考える。

生まれ変わるPAGE

JAGATは2001年度に「2050年の紙・印刷」を考えるプロジェクトやシンポジウムを行い、2002年度には「印刷新世紀宣言」をまとめた。そこでは、今後印刷業界側から切り開いて、価値を産むことが出来るものは、クロスメディアと、eビジネスと、デジタルプリンティングに集約できると考えた。印刷産業はこれらの技術で生まれ変わることで、従来の印刷も生き延びることができる。

そこでPAGE2003では、従来のDTPを中心としたイベントから拡大し、クロスメディアではXMLpublishingを中心にし、eビジネスではMIS・管理システムとワークフローのデジタル化に焦点をあて、デジタルプリンティングはマーケティング面とプリンティングの産業応用の拡大を新たなテーマにした。

これらのテーマは従来の印刷業界ではなじみのないものが多いので、展示会場においては、コンファレンスの「クロスメディア」「プロダクティビティ」「MIS」「POD」と対応したテーマZONEとして「XML Publishing」「CMS」「MIS/CIM」「先端プリンティング」の4つを設け、ここで参加者が個々の出展内容に触れながら、同時にその製品やサービスの開発背景や今後の動向やビジネスの文脈などが理解できるように配慮している。

このような印刷を取り巻くデジタルストリームは、どこか1社が開発できるものではなく、ITで複雑化する技術に対して、投資を上回るパフォーマンスを出すには、お互いがパートナーシップで一緒にシステムやビジネスを構築し、コストやリスクを避けなければならない。すでに印刷業界内のみならず、クロスメディアやデジタルプリンティングに関してもパートナーは見つけられるようになったので、PAGE2003のテーマZONEは、互いの技術をうまく組み合わせて、新たなプリンティングのビジネスを築く出発点ともいえる。

2002/12/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会