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印刷業界とのコミュニケーション手段として

◆(株)竹尾 鈴木 裕也

 現在,私は紙の専門商社で主に印刷会社を得意先とする部署に所属し,受注業務を行っています。

DTPとの出会い
 なぜ,紙屋がDTPを? と,思われる方もいらっしゃると思いますが,ことの始まりは大学入学後に入った写真部でした。そこでは大学の卒業アルバムを独立採算で企画,製作,販売までを手掛ける副業(?)もやっていて,いかに「安く」「いいもの」を作るのか,そのためにDTPシステムを取り入れたことは,必然の手段のようでした。始めのうちは作り上げるので精一杯,ただ猛然と本を読みあさり,何とか形にしようと努力していました。そして2年が経ち,確かに書籍で勉強をし,機材をそろえれば一通りの印刷物を「安く」作ることができるようになりましたが,今になって考えると低レベルの恥ずかしい印刷物ばかりであったように思います。そこで次のステップである「いいもの」を作るためには,どのようなことが必要なのかと考え始めました。印刷物としての最低限必要なルールやページネーションという概念を勉強したり,優れたデザインを積極的に見たり,集めたりもしました。また,幸いこの団体で初期のDTPシステムを作り上げたOBの方が印刷会社に就職したこともあり,実際に印刷の現場を見せていただくことや,印刷オペレーターや製版の方々と直接話をする機会にも恵まれました。その中で,ただ出力することのできるデータを作ればいいだけではない,デザイン,製版,印刷,製本までを考えた全体的なクオリティーをあげていく作業が必要だということを学びました。

エキスパート試験
 そんな試行錯誤をしているうちに,私も大学4年生を迎え,そろそろ就職を考えなければいけない時期となりました。当時,印刷と関わっていたせいか,いろいろな紙に触れる機会があり,世の中にはさまざまな紙があることに関心を持ちました。そして,印刷会社のOBの勧めもあり紙業界へ……。「印刷にちょっと詳しい紙屋さん」がいてもいいのではないか? と,考え今の会社に就職しました。
 入社して2年目,現在の業務はDTPとはほとんど関係はありませんが,紙について勉強中です。そんな時,はたと自分がDTPのことを忘れていることに気づきました。大学時代,このDTPエキスパートという資格は知っていましたが,実際に一般の会社での実務経験があるわけでもなく,その上あくまで独学であることが,この資格を取ることを躊躇(ちゅうちょ)させていました。そして,せっかくのDTP技術や知識を資格という形のあるものに残したいと感じ,今回この試験を受けることにしました。2週間真剣に取り組んだ試験勉強では,今まで独学で学んできたDTPに新たな知識といわゆる勘違いに気づくことができ,少し自信となりました。

「紙」について考える
 しょせんは学生の間でしたが印刷という仕事に関わることができ,その中で感じたことは,現在のプリプレス業界では,意外にも紙が重要視されていないということです。例えばモータースポーツに置き換えると,紙はタイヤのようなものでしょうか。モータースポーツは,スポンサー,チーム,ドライバー,エンジンなどが注目されますが,最も重要な部品であるタイヤはあまり目立っているとは思えません。すべてに最高のものがそろってはじめて,車は速く走ることができるのです。少なくとも現在では,紙は最も重要な情報出力媒体の一つです。また,紙にはさまざまな色や地合いがあるわけです。今後も発展するカラーマネジメントシステムや,より一層デジタル化するプリプレス工程では,紙をどう扱っていくかということを真剣に考えていくべきだと思います。
 近い将来,私はプリプレス業界と紙の橋渡し役となり,どのようにすれば良い印刷物ができるのかを提案できるような人間になりたいと思っています。私にとって,DTPエキスパートという資格は,それ自体ではなく,印刷会社やデザイナーの方々との一つのコミュニケーションの手段(=道具)として生かしていきたいと思っています。
 

月刊プリンターズサークル連載 「DTPエキスパート仕事の現場」2003年1月号


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2003/01/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会