本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

ブロードバンド時代のコンテンツの変化

ADSLを中心としたブロードバンドの利用には,高速接続と常時接続の2つの目的がある。一般的にブロードバンドとは高速な接続で放送的な映像動画コンテンツを見れるような環境と定義されている。このためには回線速度がコンスタントに2Mbps前後必要であるが,現状のADSLではまだ困難である。
現時点では,ADSLで動画系のコンテンツを見るのではなく,今まで見ていたテキストや写真を使ったコンテンツを,常時接続で,より速く,快適に見るという利用法が主流を占めている。
そこで,ブロードバンドによって今後どういった形でコンテンツが変わっていくのかについて,通信&メディア研究会のセミナーにおいてISPであるSo-netの方から伺った同社の取り組みから,この辺の動向を拾ってみた。
ブロードバンドによりコンテンツがどう変わるか,切り口は3つある。1つ目はコンテンツ特性がどう変化するか,2つ目はコンテンツ流通構造がどう変わるか,3つ目はコンテンツとハードウエア,それとネットワークの関係がどう変わってくるかという点である。

コンテンツ特性の変化

ブロードバンドの映像系コンテンツは,放送のコンテンツ群と比較されることが多いが,根本的に放送の流しっぱなしのコンテンツとインターネットでのコンテンツは性格が違う。
放送のバナーの場合は時間軸があり,コンテンツの選択も自由度はない。逆にインターネットに時間軸はなく,選択の自由度も高い,特に小分けされたコンテンツを含めた部分の裾野が広いという特徴がある。視聴者が自分の意志で選び,受け身ではなく能動的に動いていくコンテンツである。
So-netのコンテンツ特性の変化への1つ目の取り組みとしてコミュニティがある。ブロードバンド系コンテンツは,一般大衆というより,ある程度コアなユーザをターゲットに,既にある程度のコミュニュティが形成されているようなところに対して取り組んでいる。例えばサッカーの場合でも切り口がいくつかある。1人の人気のある選手で切っている場合,それからチームごとでコンテンツを切る場合,同じサッカーという枠組でも参画するユーザは特性が違う。ユーザによって特定の選手のサイトの中で取るアクションと,一つのチームを対象にした場合ではアクションは異なるので,同じサッカーでもいくつかの切り口を提供している。
また格闘技などは団体に帰属している意識がかなり高いので,団体の部分をコミュニケーションツールとして提供している。Webを使ったリアルな映像での観戦,コミュニティやイベントへの参加という形でユーザと団体,選手とユーザをつなぐ媒介として提供されるコンテンツになる。

2つ目の取り組みとしては,常時接続でスピードが速い回線なので使い勝手が向上してくるということがある。このためブロードバンド環境の中で双方向コミュニケーションを提供していく。例えばPostPetというキャラクターを使うなどして,ユーザ同士の新しいコミュニケーションの在り方を双方向性ならではのものを加味し取り込んでいく。
3つ目の取り組み方として,Web発のコンテンツ,Web発の映像といったことをイメージしてオリジナルのコンテンツを積極的に展開してきている。
インターネットは,現状のエンターテインメント系のコンテンツホルダーから見ると,まだビジネス規模が小さくプライオリティが一番下になってしまっている。そのため自らある程度の製作や発信をしていく必要があり,そうすることでインターネットのメディアとしての媒体価値を上げていく必要がある。
Web連動型Radioという表現をしている,スタジオからのインターネットによる映像を含めた生放送の番組がある。これを今年度中に,インターネット上での24時間放送という形に切り替えていく予定になっている。

B2Bという観点でのアプローチでは,医者のコミュニティなど特定の層に対してのサービスを行っている。医者のコミュニティサイトは日本の会員制のコンテンツとしては最大規模を誇っており,現在,医療従事者の登録者数が10万人を越えている。医療系の広告や宣伝は,薬事法の絡みで一般的な広告を出すことに制約を受けている。そういった製薬メーカーに対して医療従事者向けというクローズドなコミュニティを形成することで,そこに対しての情報発信,広告の配信を行いお金を取るモデルになる。

コンテンツの流通構造が変化

今までのビデオやCDといったパッケージメディアの場合,コンテンツとメディアが一体化し,さらにハードの種類,例えばCDプレイヤーとCDが一対一の対応をしていた。これがネットワークを間に挟むことでレイヤーが3つに増えてくる。コンテンツがネットワークをどう選び,コンテンツがどのハードを選ぶかという自由度が増すことでビジネスチャンスは広がっていく。例えば音楽に関しては,いくつかのフォーマットに展開することで,さまざまなハードにネットワークを介して展開することができる。
具体的な取り組みとして,Label Gateが,音楽のダウンロード配信を行っている。現状,大手レーベルが18社参画している日本最大のプラットフォーム配信会社である。フォーマットに関してはどんな機種でも,どこのメーカーでも受け取れるようになっている。 どういった形で加工して,ユーザに最適でかつ著作権がきちんと守られた形で配信していくかが今後のビジネスかと思う。
個別の接点ではなく顧客と定常的な接点を保ちながらサービス展開をしていけるか,サービスの接点の広さは大きいかなど,いろいろな切り口で顧客と接点の機会を増やすというのが今後のビジネスチャンスを拡大する大きなキーになってくる。

コンテンツとハードウエアとネットワーク

今度はユビキタスの中でどれだけユーザに触れられるハードとそれを介したネットワーク上のサービスを展開していけるかを見てみよう。
具体的なものとして,ソニー製品とSo-netの特徴的な関係がある。PlayStation2は今年の4月からブロードバンドサービスをスタートしている。PlayStation2がブロードバンド環境下でインターネットと接続するサービスだが,ただPlayStation2が使っているアプリケーションソフトは通常のインターネットのコンテンツを見るWebブラウザではなく特殊なブラウザなので,通常のコンテンツは見れない。
これをWebブラウザにしてしまっては,単純にインターネットをPlayStation2につないだだけの,通常のパソコンと何ら変わりのない物になってしまう。 そこで独自のブラウザを展開することで,PlayStation2上のブロードバンドサービスを受けたい場合はブラウザの仕様に準拠し,かつそこで何かやりたい場合は,課金決済に関してもPlayStation2を通すことで,ある種のクローズドなマーケットを形成することができる。
このような3つの切り口において,いろいろなコンテンツへのアプローチがあり,今のADSLが普及した状況での変化ということになる。(通信&メディア研究会)

出典:社団法人 日本印刷技術協会 機関誌 JAGAT info 2003年1月号

2003/01/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会