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デジタルを活用した総合情報サービスを展開

顧客が印刷会社に求めるサービスは,印刷物の納入だけでなく,データベースの構築やWebへの対応まで,非常に幅広いものとなってきている。印刷物もメディアの一つと考えると,印刷会社がすべきことはおのずから見えてくるだろう。
今回は,印刷・出版分野では50年の伝統と実績を誇りながら,近年,ITソリューション分野に参入した,関東図書株式会社の代表取締役社長岩渕均氏に,同社の現状と今後の展望を伺った。

印刷業から総合情報サービス業に変身
埼玉県庁に近接する関東印刷は,県庁を始め,さいたま市役所,埼玉県教職員組合などを主要顧客として,デジタルを活用した総合情報サービスを展開している。
1948年に岩渕社長の父である先代社長によって,出版事業として設立された。同年,第18回芥川賞受賞作品『和紙』を出版し,その後も児童読み物や教育関係の出版を続けていた。1951年には印刷工場を建設し,印刷物の受注活動も開始した。
1966年に本社と工場を現在の地に移転,埼玉県庁の近くに移ったことで,県庁から印刷の仕事が順調に入ってくるようになった。印刷の受注拡大を積極的に図り,出版事業に比べて堅実な印刷事業に次第にシフトしていった。
岩渕均氏が社長に就任したのは1989年で,アメリカでは写植業者が次々とつぶれていると話題になっていた時代だった。「Macにびっくりして,電算写植を入れるかどうか悩んで,結局入れないままMacDTPに移行した」という。1993年にデジタルプリプレス部門を設置し,1995年にデジタル化が完成し,ホームページ制作,データ処理,画像処理,CD-ROM制作なども手掛けるようになった。
さらに,1997年からはデジタル印刷機が稼働し,2001年にはITソリューション事業部開設準備室を設置,IT産業に参入した。
会社の方針は,「印刷」「編集・出版」「ITソリューション」の独立した3事業を柱として確立することである。
印刷での得意分野は,大量ページ物,データベース活用による名簿作成,写真集・画集などの高品質カラー印刷物,少部数短納期のデジタル印刷物。出版分野では取材・編集を伴う出版物で,県発行の教育図書から自費出版まで本作りをトータルにバックアップする。IT推進事業室では,名簿処理や画像処理で蓄積したノウハウを基礎に,データベースとWebの融合,コンピュータネットワーク構築などの新規事業を行っている。

3台のデジタル印刷機で多様なニーズに対応
デジタル印刷機の導入は短納期・低価格という時代の要請に対応したもので,現在ではDocuTech,ColorDocuTech,Quickmaster DI 46-4をそろえている。
DocuTechは,大量ページ少部数,納期のほとんどないもので,印刷では間に合わないケースに対応している。ぎりぎりまで変更があって,最後に少部数欲しいという要望にこたえることができる。
ColorDocuTechは,100部単位のパンフレット類やデザインコンペのプレゼンなどに適している。プレゼンの場合,見た目の印象が結果を大きく左右するが,両面コート紙が使えるので見た目が良く,A4判8ページ物なら完成品の状態を提示できるので,その早さにも驚かれる。また,急ぎの名刺などにも利用している。
QDIは現在は主に年賀状に利用されている。豊富に用意されたオリジナルのデザインが好評である。
「印刷会社なのに自社の会社案内もColorDocuTechで作っている」と笑うが,少部数で細かい変更に対応できる特性を生かして,『ITソリューション事業のご案内』『年賀状印刷』『Windowsと文書のソリューション』などのパンフレットを作成して,営業活動にも積極的に利用している。

PDFをスピーディにした「speedyF」
同社は,埼玉県の県報の印刷を長い間請け負ってきた。県報とは,国の「官報」の各県版のことである。最近官公庁の仕事では,印刷物+Webでの納品が当たり前になってきている。そこで,同社は印刷物だけでなく,インターネットに掲載するためPDFデータも同時に納品するようになった。
PDFは汎用性があり,Webに載せるのも簡単で,プラグインのAcrobatReaderも無償でダウンロードできる,優れたツールである。しかし,PDFは重くて不便を感じている人が多いことも事実であろう。特に県報の類いは,あらゆる層の人が閲覧に来る。家庭で見る場合,重くなればそれはそのまま電気代や電話代に跳ね返る。
ページ数が多くなるとデータ容量が大きくなり,とたんに動きが鈍くなる。10KBくらいなら問題ないが,1MBにもなると遅くて話にならない。また県報の性格上タイトルが「○年○月定期第○号」となっており,中身の確認がしづらいこともある。簡単な目次は見ることができるが,果たしてそれが捜している号のものなのか,開いてみるまで分からないことがある。AcrobatReaderを起動して,PDFを開けて見たら違う内容で,何度も繰り返すという経験は,多くの人がもっているだろう。
このような煩わしさを解消し,使い勝手の良いPDFにするため,同社ではシュピンネン・ギルドと共同で「speedyF(スピーディエフ)」を開発販売することにした。
基本的な機能としては,既存のPDFファイルをページ単位やしおり単位で分割・結合する。各ページ単位の大小のJPEGを生成し,標準ブラウザからAcrobatなしにファイルをページ単位で内容確認できる。ファイルを結合し,一覧表示も可能で,検索機能もある。Acrobat不要でフォント化けもなく,ファイルの中身をサムネイル表示し,高速閲覧が可能である。
今後はASPサービスにも目を向けている。IR情報などディスクロージャーにも応用できる。某銀行の中間決算概要を印刷物として納品し,そのデータを「speedyF」を使って銀行のWebに載せた。通常のPDFに比べて,始めからサムネイルで見えるから面倒を感じなくて済む。全ページサムネイル表示されていて一覧で見えるので,捜しているページがすぐに見つけられるとなかなか好評だ。

社会の変化とニーズに対応
e-Japan構想に基づき,これからは電子政府・電子自治体の実現が見込まれる。証明書の発行や許可申請などもブロードバンドの普及により,近い将来現実のものとなるであろう。紙を媒体にしていた情報伝達の大部分が同時にWeb媒体へと移行していく。同社としては,長年培ったデジタル技術に基づいて,行政事務の効率化を提案していきたいという。
「ダーウィンの進化論によれば生き残る種は最も強いものでも最も頭の良い種でもなく,変化に対応できる種であるという。産業構造の変化に対応していかなければ印刷業の先行きは厳しい」
紙以外の媒体にも情報を載せることが可能になったが,それはだれかがやるビジネスである。ならば情報を扱っている印刷会社が一番得意なはずだ。紙メディアと電子メディアの接点に立っている同社としては,社会の変化とニーズに対応していくつもりだという。(上野 寿)

JAGAT info 2003年1月号より

2003/01/17 00:00:00


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