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印刷ビジネスの次段階に向けた課題

印刷物の大きな特徴として、使い捨てが可能な安いものということと、あらゆる局面で使われているということがある。近年では環境問題のように紙のもつリサイクル性や廃棄性の良さが見直されているのも、もともと使い捨てできるものであったからである。「使い捨て」という点では、印刷物を安く作ることは宿命づけられていて、生産性を向上させて需要に応えることをずっと続けてきた。その結果として高生産性の印刷機械を製造する競争が熾烈になり、世界で印刷機を作れるメーカーは次第に絞られていった。

印刷のもう一方の特徴である、生活やビジネスの「あらゆる局面で使われる」という点では、印刷ビジネスは長い歴史をもつものであるので、印刷は多様化しつつ社会の隅々まで行き渡り、ほぼ市場は開拓し尽くした感がある。しかしそれはあくまで今までの印刷のビジネスモデルにあてはまるもの、言い換えると印刷会社が利潤を得られるものであって、今日ではそこからこぼれた需要をプリンタが拾うようになりつつある。

お年玉付き年賀葉書は30数億枚発売されているようだが、そのうち20%以上はインクジェットプリンタ用である。実際のところどれくらいプリントされているのだろうか? キヤノンでは2003年の年賀状作成のアンケートを行っていて、手作りデジタル派である半数強がインクジェット化したようだ。これはせいぜい200〜300部の個人需要なので、インクジェット葉書の数で割ると、200〜300万人が自宅のプリンタで作っていることになる。ひょっとすると事実かもしれない。受け取る年賀状の3分の1から半分くらいがインクジェットであったという人は多い。

こういうものは年に一回しか使わない家庭のプリンタとして軽んじることはできない。要するに印刷物が必要なところにプリンタを置くことは容易になったことを表しているからだ。また個人用の印刷物の単位は小さくとも、キヤノンやエプソンなどのビジネスは「チリも積もれば…」的に非常に大きくなったことも注目すべきである。印刷会社で1社あたり1億枚クラスの年賀状を刷る会社が何社かできたが、その先はそれと匹敵するくらいにパソコンの普及をベースにした、ツールや材料のビジネスが拓けたのである。

従来の印刷というビジネスは、同じような仕事なら数をこなす会社が有利になるものであったのに対し、プリンタの利用は全く視点の異なるビジネスなので、印刷会社が取り組むのが非常に難しかった。しかし中期的に考えて印刷需要が最も流動的になる部分は、従来の印刷とプリンタのオーバーラップした部分であることは間違いなく、そこでビジネスができるように、自らの考え方を変えていかなければならない。

この他にも視点を変えなければならないことは多くある。クロスメディアという点では、従来は印刷のための前処理としてのプリプレスのデジタル化は、やはり先に印刷ありきのビジネスであって、コンテンツの加工がどのように利益につながるかを戦略化できていないケースが多い。コンテンツがデジタルデータになった以上、XMLなどで効率的なデータの扱いに長けていることが利益につながるのである。

クロスメディアであれ、デジタルプリンティングであれ、従来の紙の印刷物の提供であれ、処理速度や受注・納品のタイミングなど、サービスの価値が問われるのがIT時代である。顧客に密着してソリューションを提供しようとするならば、結局それは印刷のeビジネス化をすることになる。そのベースとして印刷業の管理方法のIT化という大転換が必要になる。以上のように印刷ビジネスの次段階に向けた課題は次第に明確になりつつあり、現時点でのその集大成がPAGE2003となっている。

PAGEイベントそのものの使命を、従来の印刷産業の姿であるIT化が利益を生まない体質から脱却して、従来のビジネスモデルの限界を越えたビジョンを持つことができるように設定しなおし、展示におけるテーマZONEやコンファレンスのトラック構成を企画した。今まで印刷物制作のデジタル化やCTP化を積極的に展開されてこられた方々は、次ステップへの準備としてぜひともPAGE2003をフルに活用していただき、これからの生き残りあるいは勝ち組の条件をそなえていただきたいと願っている。

2003/01/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会