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人口とマーケットで考える日本の今後

塚田益男 プロフィール

私は若い学生時代から経済の有効需要は人口の大きさに依存すると学んできた。しかし、経済成長の実態はそう簡単ではない。先進国、中進国、後進国、極貧国などそれぞれ依存係数は異るだろう。日本や欧米という先進国は経済が成熟化しているから有効需要の内容は、土地、家屋、自動車などという耐久消費財、資産形成の方へ傾くだろう。従って、5年以内の短期間なら人口の増減に対する需要の弾力性は小さいだろう。すなわち、はじめから潜在成長率が低いということだ。

世界人口(2002年) 62億人 特殊出生率1.2の場合(2050)93億人
日本人口(2000年) 127百万人 1997.1  中位推計(2050)100.5百万人
    ピーク2006年
1997.1 低位推計(2050)92.0百万人
  ピーク2004年
■世界人口の増加 1960(30億人) 2000(60億人) 2050(90億以上)
■極貧層(1ドル/日以下で生活する人)12億人

先進国と正反対だが、同じような弾力性を示すのは極貧国だ。需要そのものが貨幣経済との相関度が低く、衣食住の自然依存度が大きい。この場合も人口増減が有効需要に結びつかない。20〜30年前の中国もそうだった。大変な人口がいるので、どこの国も大きなマーケットがあると注目したい所だが、単に共産主義というだけでなく、世界に通用する通貨が貧しく、マーケットにならなかった。昔から南北問題は世界の大きな関心事だった。富める国(北)と貧しい国(南)、この格差を縮めるべきだと皆がいう。NGO(Non Government Organization)も活発に動いている。格差縮小のためにはtaxをなくした自由貿易こそ近道だと先進国はいう。しかし貿易財が少ない南側の国では自由貿易は輸入を増やし、マネーエコノミーへの深みに落ち、債務負担を大きくすることになる。無理やり世界経済の枠組みに押しこめられて、格差縮小どころか拡大の道になる。大変に難しい問題だ。

もう一つの問題は中進国またはdeveloping countriesのことだ。過日あるレポートを読んでいたら「人口のボーナス」という言葉があった。それは中進国においても今後は人口増加のテンポが遅くなり、むしろ人口減少の方向に進むだろう。そうなれば15〜64歳という働き手の人口比率が高くなるからGDPの成長率も高くなるというものだ。勿論、中進国においては人口に対するGDPの弾力性が1.0前後であるということが前提になる。前述したように極貧国では1.0よりかなり小さいから人口の増減とGDPとの相関が小さくなってしまうし、一方、先進国では需要の内容が成熟化し、耐久化するから矢張り相関は小さくなってしまう。

日本でもこの「人口のボーナス」現象があった。日本は終戦後(1945)すぐベビーブーム(1947)があった。それ以降の労働力人口比率を見ると次のようになっている。

(15〜64歳)人口/総人口
1950 1955 1960 1965 1970 1980 1990 1995 2000
59.7 61.3 64.2 68.1 69.0 67.3 69.5 69.2 68.2

ベビーブームがあっても直ぐ労働力人口が増えるわけではない。 15歳以上になってからだから1965年頃から急に比率が上り出す。その後1990年まで約25年間は安定した労働力を持っていた。これが日本の経済成長を可能にした秘密のカギの一つだった。中国や東南アジア各国はこれから日本と同じような「人口のボーナス」を受けるチャンスがあるというものだ。中進国の各国はただでさえ潜在的成長率が高いのに、その上にこうした労働力比率のボーナスがあれば、経済成長はさらに後押しされることになる。

一方、21世紀の日本は低位推計をとるなら、2050年には現在より3,500万人も人口減となる。このことは65歳以上の高齢者人口比率がどんどん上昇し、労働力人口比率が急速に小さくなるということだ。その上、需要の内容が成熟化し、耐久財に傾いているし、さらに高齢化のため需要性向も落ちることになる。これでは日本経済が21世紀に向って内需の成長を期待することは全くできない。

私たちの惑星地球号(プラネット・アース)の人間許容量は80億人だという人もいる。はじめ食糧問題だといっていたが、水の方が心配だという。ところが2050年の推計値は約93億人だから、この20〜30年の間には大問題が発生するのだろう。それにしても今後の10年間を考えるなら、グローバル化の視点の中で、マーケットは日本より外にあると見ることができる。日本人はどこまでグローバル化の中でニッチを広げることができるのだろうか。 

2003/02/02 00:00:00


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