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印刷は「文化」であり「感動」である

地域のパートナーとしての印刷会社から,さらに事業領域を広げて,情報サービスに挑戦することで,顧客のニーズ掘り起こしに成功している企業が少しずつ頭角を現している。
今回は,「お客様の企業活動や豊かな生活と鶴ヶ島市の発展に寄与する良きパートナー」をモットーとする東京工芸社の専務取締役工場長荒井孝明氏に同社の姿勢を伺った。

地域に密着した印刷物を一貫生産
東京工芸社(本社・埼玉県鶴ヶ島市,代表取締役・寺田桂一氏)は,1981年に東京都文京区小石川で設立,翌年,現在地に本社社屋を移転,工場を竣工して83年に開業した。自治体,学校を始め地域に密着した事業展開を行う総合印刷会社で,従業員は関連会社も含めて約30名である。
創業当初から地域文化の発展に貢献したいと願っており,地元の暮らしと文化・コミュニケーションの発展の役に立ってこそ自社の発展があると考えてきた。各種催し物のチラシやコンサート・発表会のプログラムなど,地域の文化活動のための印刷物に力を入れている。企業や学校の冊子や学校・地域の新聞,商店街の案内などを得意分野として出発し,自治体の公報の仕事にも力を入れている。
新聞なら折り,冊子なら製本が必要だが,当初から自社で対応していく考えであった。現在では,印刷工程のほとんどを自社内で一貫してできるように,後加工までの設備をすべてそろえている。それによって品質管理と確実な納期とコストの削減を図っている。後加工では,以前は丁合の部分をアルバイトやパートを雇って手作業で行っていたが,丁合付きの製本機を導入して生産性が上がった。
1987年に最初の転機が訪れる。技術革新の流れに応じ,活版印刷設備から電算写植システム(CTS)とオフセット印刷に転換した。1994年には,デジタル編集組版機と菊全2色機を導入し,生産設備の増強を図った。第2の転機が,2001年8月のデザインセンター開設と,プリプレス部門のフルデジタル化である。また同年12月にはCTPシステムを導入し,入稿からプレート出力まで一貫したデジタルワークフローを構築した。さらに2002年2月には菊半裁の4色機を導入して,プレス部門の充実を図っている。

顧客ニーズに対応しカラーやWindowsに挑戦
同社は,もともとモノクロの文字物ページ物を追求課題にしていた。そこからカラー,デザイン物への移行には相当の決断を要した。しかし,営業面では顧客側からのカラー化要請がある。カラーの折り込みチラシも増えてきていた。
顧客ニーズに対応していくには,カラーの設備を入れなくてはいけない。菊半裁の4色機を導入したのは1年前のことである。それまでは,外注に出したり,2色機で2回通したりしカラー化の要請にこたえていたが,不況の嵐が吹き荒れるこの時期にあえて挑戦したのだ。最近では,ポスターやディスプレイ・POPなどの大判プリンタ出力にも対応している。
「お客さんの層は変わっていないけど,お客さんの持ってくるものが変わってきた」という。WordやExcelなどのデータを持ってきて,これと同じように印刷して欲しいという要求がある。なかにはWordを駆使してかなり複雑なレイアウトを組む顧客もいる。しかし当然のことながら,Windowsデータはそのまま印刷用データには使えない場合がある。
そこで同社では,WindowsDTPにも対応すべく,AVANAS MultiStudioを導入してシステム化した。WindowsDTPソフトで制作されたドキュメントのGDI印刷出力データを取り込み,PostScriptデータに変換し,印刷システムに渡す。これにより,Windowsデータの取り込みやデータ修正などに掛かっていたコストを削減できる。顧客がオフィスで作成したWindowsデータが,そのまま印刷データとして活用できるようになった。これを良いきっかけとして,事業の拡大を狙う方向に転じている。

新技術に積極的に取り組みノウハウを蓄積
「新しいものに切り替えるときは担当者に先頭に立ってもらい,どんどん吸収して一気に替える」と語るだけあって,現在プリプレスのデジタル化率は100%である。CTPの版は月産800〜1000枚程度である。
設備の入れ替えと同時に全くの方向転換をした。デジタル化した際のオペレータの問題もDTPスクールに通って覚えてもらった。デザインは同社にとって新しい領域だったが,自力で処理することでノウハウを蓄積していった。
「CTPにするときは印刷経験者とレタッチ経験者が組んでチームを作って導入検討をした」。導入後は,製版,レタッチの技術者がCTPの出力や面付けのオペレータをやっている。
RIP環境とPDFの運用で,データの安定性を図る。色校正は,統一RIPシステムと徹底したカラーマネジメントシステムで,RIP済みデータをICCプロファイルを使用してカラーマッチング処理を行い,インクジェットプリンタに出力する。
出力処理としてはTrueFlowを使用している。Trueflowは,ページ単位でRIP処理が可能なため,指定された面付けパターンに合わせて出力できる。部分的な修正箇所のRIP処理やページの差し替えなども行える。
4色機を導入したときにも,1色機2色機のオペレータが印刷オペレータのスクールに通い,習得していった。2色機を2回通すより4色機1回のほうが,見当合わせの問題もすんなりクリアできる。
プリプレスからポストプレスまでの工程を,デジタル管理するためにCIP3を活用している。デジタル情報の共有化によりカラー品質が確実に向上した。これらの追求を可能にしたのがコーディネータの養成であった。
自治体の仕事では,PDFの同時納品がなかば当たり前のようになってきている。またデザインセンターで印刷物と一緒にホームページを作成するケースが増えている。会社案内とセットでホームページを作ることにも積極的に取り組んでいる。今後はWebを始めとしてさまざまな情報の発信に取り組んでいくことになるだろう。

「印刷は文化」であり「印刷は感動」である
DTPの導入からMacintoshでの悪戦苦闘,WindowsDTPの問題,CTPという技術の流れが,普通なら段階を経ていくのに対し,同社の場合は,短期間で上手に取り入れて成功している数少ない例であろう。その最大の要因は,従来からの技術者が積極的に新技術を学び,自前で技術変革を乗り越えているところにある。
今後はCIP4,JDFへの関心もあり,印刷の全工程処理のデジタル管理も視野に入れている。将来的にはプリプレスで作成したデジタル情報を製本・加工のラインでも共有していきたいという。
同社の経営理念は,「印刷は人とひと心とこころの橋わたし」である。何より印刷物は顧客との共同の作品だと考えているという。設備を入れ替えてからは生産性も上がり,売り上げも伸びているが,今後もインフラの整備とともに,顧客のニーズにいかにこたえていくかを最優先していきたいという。(上野 寿)

JAGAT info 2003年2月号より

2003/02/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会