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人口とともに下降する日本の印刷の岐路

PAGE2003の展示会場は、プリプレス関連の大ブースが減ったにもかかわらず、昨年以上の密度で来場者があり活気は初日以上であった。XML関連、POD関連なども賑わいは例年以上であり、新たな方向を模索している人が増えてきたことが実感できる。
一方で日本の経済は厳しい現状があり、どの国内産業も日本の人口が減ってマーケットが縮小すれば影響を受ける。例えば教育産業は少子化はモロにマーケットの減少だが、印刷は高齢化・長寿化によって、ある部分ニーズが支えられることもある。
それに電子メディアの影響、環境問題などが加わり、結局どの程度の影響があるのだろうか? これらプラス・マイナスを総合的に考えたのが基調講演午後の「2010年の印刷はこうなる」であった。2000年前後には日本でも欧米でも今後のグラフィックアーツの需要と技術についてさまざまな未来予測がだされたが、その後の日本の印刷の状況や電子メディアへの取り組みや技術開発を加味して再考した。

まず、日本製紙 種田英孝氏が、「紙の現状と将来展望(製紙会社の立場から)」と題して、紙が将来ともに安定供給できて、使われ方の大きな変化は無い理由を述べた。パルプは森林伐採の内訳の1割強程度でしかなく、国内供給は製材残材が最も多く、輸入チップでも広葉樹の人工林伐採がトップになった。数年後には輸入の7割は人工林からになると予定されている。古紙の回収利用も増え続け、紙の3割、板紙の97%は古紙を含んでいて、まだ古紙の利用率は上げられる。紙そのものをリサイクルできるだけではなく、リサイクル不能な紙を薪のように燃料化しても、そのCO2を植物が吸収して育つように、森林のリサイクルもあり、うまく管理すると永遠にパルプは供給できる。

一方印刷需要を見ると、日本はアメリカと並んで紙の大消費国であり、残された市場は殆どないが、近年TVの広告が横ばいなのに、広告印刷物は近年でも増加基調にある。紙媒体の利便性に関する意識は年齢の高低とあまり関係なく保たれているが、アメリカの新聞購読数が減っているようなことを考えると不安はある。電子メディアに対して紙媒体は配布や在庫管理の負担が大きい。しかし紙の視認性や利便性を電子メディアが同じコストで実現するのは、この10年ではなかなか難しいとみている。高齢化という点では、2010年に60歳以上人口は2000年の1.5倍に達するように、金もあって印刷物の好きなシニア世代が市場を支えてくれそうな面もある。これら全部を差し引きしても、以前なら紙需要は増えると読んでいたのが、現在は微減傾向とみるという。総需要の緩やかな下降の中で、PODのような配布・管理の効率化に技術が向かうだろうという話であった。

続いて凸版印刷で電子ペーパー事業に携わる鈴木克宏氏からは、電子メディアの多様化により情報の流通量が増大していき、モノによらずに情報を消費する生活形態への変化の話があった。消費を加速するように、便利なデバイス開発、新しいソフト、安い料金という方向に進むという。その中で凸版印刷はコンテンツ流通事業Bitwayに力を入れていて、有料コンテンツでは国内最大級のビジネスをしている。ハード面ではLCD、電子ペーパーに続いて、有機ELのカラーディスプレイの開発に入っており、それもプリンテッド・エレクトロニクス化して、安価に提供することを狙っている。

昨年話題沸騰であった電子ペーパーは、白と黒の材料に紙と同じような原材料を使うことで紙に近い静止画表示ができるもので、紙とディスプレイの長所を併せ持ち、紙とコンピュータのギャップを埋め合わせる働きをするという。今後も大量需要は印刷が有利だが、更新頻度の高いものなどは上記のようなディスプレイが使われるなど、棲みわけというか補完関係になるという。印刷産業にとってみると、情報が増えることで情報加工の仕事は増加が期待できる。以上全体を含めて、紙媒体そのものは減っても、印刷はさまざまなメディアと関連をもって情報コミュニケーション産業であり続けるというシナリオであった。

ディスカッションでは、かつて産業構造審議会が2000年には印刷産業が15兆円になるといっていたのが8兆円であったという「失われた10年」の時も、日本印刷産業連合会のプリンティングフロンティア21の2010年の予測も、電子メディアやITによるソリューションビジネスを印刷産業がどれだけ担うかで、将来の予測値が急激に伸びるか横ばいか、天と地ほど違うことや、今個人からの情報発信が増え続けていることに対して、それをどうビジネスに結び付けていくかが難しいなどの話がされた。

一方世界規模で考えれば地球の人口は増え続けて、発展途上国で印刷需要は強くなるので、日本とは大きく状況が異なるが、それでも印刷の伸びの倍の比率で電子メディアも伸びること、新ディスプレイの用途も既存の紙の置き換えではなく、新たな電子メディアの用途に比重があるであろうという話があった。これから紙の使われる量は発展途上国を含めた需給の価格メカニズムで決まるのだろうが、それで印刷産業全体の推移をみても意味がなく、個別の業者は電子メディアやITソリューションの能力しだいで大きな差がつく時代を迎えそうだ。

2003/02/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会