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効率的なサイト管理とコンテンツの質の向上にむけて

電子メディアの中で特に幅広いユーザがアクセスをするのがWebサイトである。しかしインターネットにおけるパブリッシングは,従来と比べて簡単に情報発信ができる分,紙媒体では確立されていた制作ルールや内容の品質管理が徹底されていない。長年の経験により洗練された可読性を持つ紙に比べ,インターネットパブリッシングでのユーザビリティは,まだこなれたものにはなっていない。適切な著作権の扱いも,電子メディアの大きな課題となっている。PAGE2003のクロスメディアトラック「インターネットパブリッシング−すぐれたサイト管理の要件(B3)」では,Webサイト運用にあたり,どのような部分に注意していかなければならないのかを考えた。

コンテンツ制作工程において,(株)ウェブプログレッシブ チーフプロデューサ 佐々木裕一郎氏は「紙メディアのプロセスと比較してもデジタルメディアはいろいろな機能が盛り込めるため,品質の追求に加えて機能の追及が求められる」という注意点をあげている。具体的には,コピーやレイアウト,デザインなど紙の制作におけるマネージメントだけでなく,ユーザビリティやユーザサポート,プログラム,セキュリティなどデジタルの制作をきちんとマネージメントしなければならない。紙と比較して,発注者が何を注意したら良いのか?を分かっていないケースが多く,安易に制作を依頼してコストがふくらむケースも少なくないという。

特に発生しやすい問題として,法的な問題,制作上の問題,効果の問題の3つがある。法的な問題については有料コンテンツの利用可能回数や期限などの明確化や,著作権保護の認識,プライバシーの保護などがあり,いずれもあいまいにしておくと,大きなトラブルに繋がってしまう。制作の問題については,発注者が複数の業者とやりとりをすることで,作業の煩雑さが生まれるので,きちんとしたルールづくりをしないとコスト高になってしまいかねない。また,効果については適切なサイトプロモーションを行わないと,期待した効果をあげることは難しい。

パソコンがインターネットに高速に常時接続されるブロードバンド時代,限られた情報や予算からどのようなサービスを生み出していくか。コンテンツサービスの質の向上と著作権保護,インフラシステムを相互にうまく組み合わせて運用することで,市場評価が高く,サービスが優れたコンテンツを提供していくことができるのではないか,と佐々木氏は解説した。

デジタル著作権管理については,(株)DNPアーカイブ・コムの原瀬裕孝氏に話をうかがった。DNPアーカイブ・コムはデジタルアーカイブを中核に価値の高いコンテンツを供給する目的で1999年10月に大日本印刷の100%出資で設立された。事業は,美術品などのデジタルアーカイブ構築,著作権処理サービスなどのイメージライセンス,ダウンロード型コンテンツ販売などのネットワークサービス,商品開発という4つを事業の柱としている。

デジタルアーカイブの事業は,芸術品など文化的な資産をデジタルコンテンツの形で記録,保管し,ネットワークによる幅広い利用を実現することである。貴重なコンテンツや作品が扱われることが多いデジタルアーカイブでは,様々な権利に対してより慎重な対応が必要となってくる。素材についての権利には,素材(または作品)を作成した人の権利である著作権と素材を持つ人の権利である所有権がある。また,写真についての権利として,撮影した人の権利である著作権とフィルムを所有している人の権利である所有権がある。また,その他にも肖像権が存在する。

美術品の画像データベースにおいて,DNPアーカイブ・コムでは独自開発の著作権管理技術「SecureStar DRM」を採用している。ユーザの要望にあわせた電子透かしの自動挿入が可能で,またコンテンツ毎に異なったセキュリティレベルの設定もできる。コンテンツビジネスを実際にてがけているところで開発した非常に実用的なDRMの仕組みである。

デジタルデータは加工や複製,メディア変換が容易,という特徴のため,コンテンツホルダはデジタルにネガティブな態度のところもいまだに多いという。しかし,アナログの場合も不正に利用しようと思えばデジタルよりも精度の高い複製を作ることができる。暗号化配信,アクセス認証,電子透かしなどさまざまな権利保護技術が開発されていく中で,その適切な利用はますます重要となるだろう。

制作規模に応じた効率的なサイト管理については,現在中国の携帯コンテンツ市場で成長を続ける(株)ジェー・シー・ディー 常務取締役COOの木戸康行氏から解説をしていただいた。ジェー・シー・ディーは,建築関係のサイエンス事業,中国モバイルコンテンツ配信を行うモバイル事業,Webやモバイルのシステム開発を行うシステムソリューション事業という3つを展開している。システムソリューション事業を担当する木戸氏は,効率的なWeb・モバイルのサイト管理と運用のためにコンテンツ・マネジメント・システムの重要性を強調する。

どの企業でもサイトの立ち上げまでは全力をつくすが,運用管理,特にコンテンツに関する運用管理はおろそかになりがちである。実際に,本屋でもサイトのデザインやサーバの運用管理などの本は店頭に並ぶが,コンテンツの運用管理について解説する本はほとんどみかけない。10人以上あるいは数箇所でサイトを運用するようになると,手作業であったり外注に依存した制作を続けていくと,サイト運営がいきづまってしまう。

コンテンツ・マネジメント・システムを利用することで,作成,更新,承認,閲覧を専門知識を必要とせずにつくることが可能となる。導入ステップは,制作体制が1〜2名で,小規模の場合は本番サーバーだけで,手作業を主体とした管理でも可能だが,5人程度の政策体制で,1000ページの規模になると,テストサーバーと本番サーバーを別にして,部分的にでも自動化をすることが必要になる。またページ構成などの統一性をもたせるためにサイトの仕様書を作成する。大規模なサーバになると,テストサーバと本番サーバーが複数台必要となり,コンテンツマネージメントシステムによる運用と制作配信フローを確立していく。

コンテンツ・マネージメント・システムは,大規模サイトを対象としたTeamSiteコンテンツマネージメントシステムや中規模サイト向けのWebコアエンタープライズ,やや小規模サイト向けのCAPSなどがあり,価格は数千万円から数百万円のものまで幅広い。また,SIベンダーに専用のシステムを構築するケースもある。Webサイトをスムーズに運営するためには,規模が大きくなればなるほど,会社の経営と同様に運用体制やルール作りが重要となると木戸氏は語る。

詳細は通信&メディア研究会の会報に掲載します。

2003/02/23 00:00:00


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