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商品データベースが要求される背景

デジタル化が進むなかで,印刷会社はIT企業より優位に立つためにどこを狙いにすべきか。従来,メーカーや流通業では印刷会社が作成した製品カタログを利用して販促の展開などを行ってきた。今はいろいろなデジタルメディアが出てきたため電子カタログの需要は増え,IT企業が商品データベースの構築を始めるなど,販促やECなどにこの商品データベースを利用しようという動きになってきている。しかし,なかなかデジタルメディアを利用した環境は立ち上がってきておらず,商品データベースの構築が急がれる状況になってきた。

利用されないデジタル環境
1990年代当初から成長し続けているのがプリント系アプリケーションで,プリンタが高精度で低価格になった点が一番大きい。例えばゼロックスのDocuPrintのようなプリンタは,価格は高いが印刷機同様で,100〜200部くらいは簡単に印刷物が作れる。後加工の部分はまだ欠点があるが,印刷会社で作成していた印刷物が,オフィス環境である程度の量,出力できるようになった。しかしネットメディアやCD-ROMなどでプリント系アプリケーションが充実しても,なかなかカラープリントは増えてこなかった。
理由の一つに,乗せるデータがないのがある。例えば,ある企業が提案ボードを作る時,従来はカタログの切り貼りで提案書を作っていた。ところがパソコンで高品位なカラープリンタができてもなかなか移らない。例えば営業マンがカタログをスキャナで撮って切り抜いて,それをPowerPointに貼って提案書を作る。手間を掛けないと商品提案書が作れない。画像データや文字データがないので,自分でスキャナやデジカメなどで画像を作成し文字入力を行い提案書を作るのでは,全然効率が上がらず利用されなかった。
ネットメディアの場合も同様である。例えばヤマダ電機やコジマ電気のECサイトは,やってはいるが取扱点数が数百点である。ホームセンターもECサイトをやれば手軽に物が買えるのに,していない。ECサイトを運用するには,取扱点数すべてを商品データベースにしてデータを上げる必要がある。約10万とか15万品番ある全商品の画像を作り商品仕様を入力するのでは,ECサイトの投資対効果が合わない。そのためECサイトができていない。家電業界ではSofmapだけである。Sofmapはパソコン情報やそのほかのデータも買っているが,鮮度がなく商品の対象点数も少ないので,また別に外注ラインを作りECサイトのデータを作っている。ネットメディアのインフラ環境や,ユーザのカルチャーやスキル環境が整っていたとしても,利用するための商品データがないので動いていない。これが現状である。
一時期有名になったe-プロキュアメントがある。アリバ(ARIBA)も普及させようと宣伝し,5億円ぐらいのシステムが何社にも入っていながらほとんど動いていない。同じようにSAP,Oracleのe-プロキュアメントの仕組みもほとんど動いていない。それも中に入れる商品データがないためである。

商品データベースの必要性
従来は販促メディアは印刷物しかなかったので,商品データベースが本当に必要かどうか,もしくは投資対効果について考える必要があった。しかし,いろいろなデジタルメディアが出てきたので,商品情報データベースがない企業は今後生き残れない。IT系企業の勧めでデジタル化して失敗するというケースはよく聞くが,今,商品情報データベースは投資対効果に合うレベルにまできている。そのなかで特に注目しているのは,仕入れ先からの商品情報入手や得意先への商品情報提供に相当する部分である。
今まではポジの要求が非常に多かったと思う。ポジのデュープ代は,家電メーカーのシャープや三洋電機では年間4000万〜5000万円,松下電工では5000万〜6000万円掛かっていたといわれている。データベース化することになり,ポジの代わりに画像データを渡すことで,今は激減してる。非常に小さい中小企業でもポジのデュープ代は何百万円単位で掛かる。例えば,20〜30人の石鹸製造でも,ギフト業や流通に対するポジや写真データでの要求で,ポジのデュープ代に年間200万円掛かるといわれている。このためメーカーでは,流通への商品情報提供の部分を商品データベースのアプリケーションにすることで,営業支援ツールという売り込みをしようとしている。
しかしデータベース構築は,画像データ,文字データを作れる必要があり,印刷会社やデザイン会社が強いところである。データベースの構築の仕組みとその運用の仕組みという点では,印刷を少し重点的に考える必要がある。

商品データベースのポイント
一番のネックは商品データベースの構築の問題である。データベースの構築・管理・運用は三位一体でバランスが取れている必要がある。そのなかの一番の問題点はデータベース構築である。タイムリーにデータベースを構築できない。品質が悪い。コストが掛かる。以上の3点がデータベース構築の大きな問題点になっている。
1つ目にタイムリーなデータベース構築を見てみよう。商品を売り出す前に販促活動が入るが,その時にデータがないとWebにも上げられず,提案ボードも作れない。そのため最低限,総合カタログやパンフレットができた時には,データが提供できる環境になっている必要がある。印刷物ができた後にデータベースを構築するのではかなり遅れてしまう。量にもよるが数千品番ものカタログだと,カタログ製作後1〜2カ月しないとデータが整理された形で納められず,メーカーでもっている商品データベースが補充できないということになってしまう。
2つ目は高品質なデータベース構築である。印刷物製作と連動することで,間違いの少ない高品質なデータベースが実現できる。この場合,その製作を行った印刷会社にデータベース構築を頼まないとこの高品質は実現できないだろう。
切り抜きマスク付き高解像度画像も必要で,ECサイトや提案ボードにも,切り抜きマスクは不可欠なデータである。切り抜きマスクが付いている高解像度画像のデータベースの発想は,少なくともIT系企業には難しく,IT系企業の商品データベースでは定形サイズの画像になってしまう。JPEGだけの発想で,マルチメディア展開も難しく,当然のことながら印刷には使えない。 3つ目は低コストなデータベース構築である。印刷物製作の2〜3割の費用しか商品データベースに掛けられないという意味である。このため印刷物作成と同時に構築できれば安くできる。
このように商品データベースへの要求は印刷企業にとってビジネスチャンスである。

商品データベースの動向とe-BASEの普及
商品情報交換事例では,プラネットが日用品業界の商品情報交換を行っている。日用品業界の商品情報交換,メーカーと流通の間の商品情報交換を行うもので,今その端末にe-BASEというソフトが採用され,日用品メーカー約200社で運用されている。ディーアーチは,コクヨと凸版印刷の共同出資の会社である。メーカーがディーアーチのリストネットを入れて流通側にデータを渡すと,CXMLを吐き出す。アリバ,SAP,Oracleの仕組みで,e-プロキュアメントにデータが送られる。ここでもe-BASEが採用されている。

(通信&メディア研究会)

2003/02/17 00:00:00


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