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eラーニングの開発・制作・運用コラボレーション

紙の教材は制作して配布すれば,コンテンツ制作者の作業は一区切りしていた。しかしeラーニングになると,教師やシステムベンダーなどと連携して学習の進行状況の管理や学習者へのサポートを行い,コンテンツの内容更新などへとサービスが広がっていく。また,XML化により,コンテンツの再利用を効率的に行うことができる。PAGE2003コンファレンス「eラーニングの開発/制作/運用コラボレーション」ではeラーニングのビジネスの動向と制作について,その最新事情を探った。

モデレータの小松秀圀氏には,eラーニングの最新動向とビジネスについて伺った。小松氏はNTTラーニングシステムズでeラーニングビジネスに携わるとともに,日本イーラーニングコンソシアム会長としてeラーニングの普及と標準化を推進している。あと2〜3年でeラーニングのビジネスが普及するだろうと小松氏は語る。2002年以来,eラーニングに関する問合せが増えており,2002年7月に開催されたeラーニングの展示会ではユーザの来場者が増えたという。この1年は,PDA/携帯電話の利用や,即時配信ができるストリーミングビデオの利用などが話題となっている。

情報化社会の人材育成の機能について日本は気付くべきだと,小松氏は警鐘を鳴らす。工業化社会においては取得した技術や技能の寿命は永かったが,情報化時代の知識や知恵は短命である。このため,昨今の情報化時代には継続した教育が必要であるとともに,仲間の知恵を共有していくことが必要となる。集合教育では社会の変化に対応しきれないのため,eラーニングの活用がその解決に寄与するといわれている。eラーニングを導入することで,大きく3つの効果が期待できる。第1は教育の効率化,第2が業務貢献直結化,第3が人材能力決算と情報システム化である。教育コストを安くすることができ,業務と連動しながら教育が行われ,さらには個人の能力向上と人事評価までも連動することができる。

印刷業界から見たビジネスモデルとして,小松氏はアナログ情報のデジタル化やXMLオーサリングビジネス,コンテンツメンテナンス事業などをあげる。教育現場は情報化はまだまだこれからというなかで,2005年には3090億円の市場になると予測されるeラーニングの分野は大きな可能性を秘めている。

企業研修,つまりBtoBのeラーニング市場をターゲットにしたビジネスを展開するネットラーニングに,企業研修のeラーニング利用の実態について話を伺った。eラーニング事業の独立系ベンチャーである(株)ネットラーニングは,サービス開始から2年10ヶ月で810社において20万500人の受講者を抱えるほど成長した。

1999年のデータによると,アメリカでは企業研修費は630億ドルの市場であるが,日本は6000億円といわれている。研修の戦略的位置付けがまだ低い。しかし,日本のグローバル企業は米国の水準を目指して積極的にeラーニングを導入しているという。日本ではIT関連企業からeラーニングの導入がはじまり,各分野に急速に導入が拡大している。特に業界を問わずトップクラスの企業はほぼ100%が導入しているという。

日本にはeラーニングベンダーが約250社存在し,その大多数はBtoCの分野のサービスを提供しているが,まだBtoCの市場は厳しい。撤退している企業も多いが新規参入も多いなど市場は未成熟な状態である。一方,有力なBtoBベンダーは10数社程度だという。ネットラーニングの調査では,eラーニングを導入している企業は終業時間に受講させているケースが76%と多い。一般的な勉強方法は,1回20分を1日に2回行うというものである。ネットラーニングでは,仕組み自体はそれほど大きな変化はないにもかかわらず,年々受講者からみた評価は高まっているという。

eラーニングのコンテンツとして重要となるコース制作は,対象と分野によってまったく作り方が異なる。編集制作のノウハウは,教育効果をあげるeラーニングを制作する上で,非常に役に立つだろうとネットラーニングの岸田徹社長は語る。

XML/SGMLをはじめとした各種デジタルコンテンツの制作、システム化を手がける(株)デジタルコミュニケーションズ 奥山惇史氏からは,eラーニングにおけるコンテンツ開発のポイントについて解説があった。eラーニングのコンテンツは1から作り始めるものばかりでなく,出版物や塾などの教材を再利用するニーズも高まっている。ある教育出版社では,発行していたIT技術を習得する実用書(3900円)に,eラーニングの問題CDとオンライン採点というサービスを加えて3万9千円で発売したところ,ヒット商品になったという。これまでの学習コンテンツは紙などの媒体に表現することが一般的であったが,eラーニングでは同じような内容がWebで配信される。効率的にコンテンツデザインをするためには,媒体別に素材を作るのではなく,eラーニングを前提にコースパッケージを開発していくことが必要となる。

アメリカでは複数のラーニングマネージメントシステム(LMS)が利用されることが一般的になり,コンテンツの流通が必須となった。これを背景にeラーニングの標準規格SCROM(Sharable Content Object Reference Mode)などが登場した。コンテンツをSCORMによるオブジェクト化で,印刷物やWeb素材への自由変換が可能で,様々なLMSにも適用することができる。eラーニングコンテンツを制作するにあたり,XML技術の採用は必須となる。特に,XMLをベースとしたSCORMに沿って制作することで,コンテンツの流通をスムーズに行うことができる。

eラーニングは,通信教育のように自分のペースで勉強ができる反面,継続して修了することも難しい。かつて,通信教育は受講者を集めて,途中で辞めてくれれば,コストもかからず儲けが多いビジネスだといわれた。しかし,eラーニングのベンダーは決してそのようなスタンスはとっていない。チューターやメンターなどサポート体制を整備し,受講者の修了率をあげるための様々な努力をしている。受講者にeラーニングを継続してもらい,その効果を感じてもらうことで,次のビジネスにつながっていくからである。

eラーニングは,経済環境が厳しく変化の激しい現在の情報化社会に着実に広がっていくだろう。普及した時に,出版や教育など周辺分野へ与える影響は大きいと小松氏は予測する。コンテンツ設計などのノウハウを蓄積することは貴重な財産となるだろう。

詳細は通信&メディア研究会の会報に掲載します。

2003/02/24 00:00:00


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