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クロスメディアパブリッシングの可能性

PAGE2003コンファレンス クロスメディア・トラック「クロスメディアパブリッシングの可能性」セッション[B1 2/6]では,brain.Design 佐々木 雅志氏,シナジー・インキュベート菊田 昌広氏をお招きし,クロスメディアの先に見えるビジネスの可能性について考えた。



厳しい印刷コスト削減から生まれる新市場

brain.Design 佐々木 雅志氏(抜粋)

クロスメディアの考えとして,その定義と利益は無関係にあり,定義よりどうやって儲けるかが重要である。IT不況の中では,ベンダの都合ではモノは売れず,狩猟型の市場開拓は限界に来ていると言われているが、それは単にベンダの与件対応が終わっただけではないのだろうか。

このデフレ時代は、予測ができず、物が売れない。マネジメントの面から見て、いくら頑張っても状況は良くならないし、要件がころころ変わるのでかけたコストを回収することができない。先が見えない洞窟のようなこの時代では、ターゲットに関する直接情報と背景情報により、仮説と検証を繰り返しながら少しずつ進む。
そして、仮説を立てる前に「疑う」ことが重要となる。つまり前提として「疑う」ことでゼロから考え、構造化して、とるべきアクションを絞り込む。たとえば、ERPに仕事を合わせるその前に、在庫削減やリードタイム短縮のために「業務」をどうするかを考えることである。毎回きちんと自分の頭を使うことが必要なのである。

また、これまで当たり前と思われてきたルールを変えてもいい。NHKの「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」に感動する理由は、登場人物たちがやっても無駄だと思われていることにあえて挑戦しているからである。
ルールを変えることは、企業文化を変えることであり当然痛みを伴う。変化が困難だとされる個々の理由としては、どうすればいいのか? という問いかけに対して、できない理由ばかり出てくることが挙げられる。これは、組織として超えなくてはならない壁なのである。
グリム童話にある「オオカミと七匹の子ヤギ」は、隠れた場所を見つけられず、食べ損なった末の子ヤギによって、最後にオオカミがどんでん返しを食らうという話である。この教訓から、合理化投資に見落としはないのか? 七匹目の子ヤギを探してみる必要があるということが学べる。

これから必要なことは、そのビジネス(過去の延長か?違うのか?)の見極め、どんな利益を印刷会社に生み出すことができるのかというクロスメディアの考え方、現在の顧客、技術、体制で何ができるのかということを考えていくことである。


メディア環境の変化と印刷

シナジー・インキュベート 菊田 昌弘氏(抜粋)

メディア環境は提供者主導から利用者主導と変化した。前者を象徴する「Push、プロダクトアウト、マス・マーケティング」などのキーワードは、後者において「Pull、マーケットイン、One by Oneマーケティング」と変わった。この変化は消費が多様化したのではなく、もともと消費者ひとりひとりの異なるニーズを持っており、利用者主体型の流通構造に近づくのは当然の流れである。

たとえば、新聞は860万人の読者がいるなら、860万通りの新聞を発行すべきである。現在のマスメディアは仮想的なひとりの読者がいて、その読者に向けて発信しているのである。乱暴な言い方をすれば、マスメディアの方がはるかにバーチャルなメディアである。ネットワークとはバーチャルインダストリーといわれるが、ひとりひとりに生身の情報をどうやって提供していくかということを考えるとネットワークの方がはるかにアクチュアル(現実的)と言える。
情報の見方は利用者が決定するという当たり前の事実に着目する必要がある一方で、情報が利用者を知るという逆の見方もある。後者は、「情報は、情報自身を理解する(=メタデータ)」「そして、情報は私を理解する」というふたつのキーワードから情報として成り立つという考え方である。これはXMLの考え方に通じているもので、これらをどうやって実現できるかが今日の挑戦である。

電子文書についてひとつのXMLの適用例としての紹介だが、内容、構造、体裁は分離して扱えるようになる必要がある。現在、HTMLのWebページは内容、構造、体裁とも誰が見ても同じで、従来のメディアと同様バインドされている。今後は、閲覧者によって体裁を自由に選択できるようになり、横断的な情報を得られるようになるのが私の考えているところであり、XMLを提唱する人の統一した概念である。

インターネットの進化は、1970年台の登場から大きく3つに分けられる。まず1993年〜1994年にHTTP、URL、HTMLの3要素によりWebで表現能力を提供した。そして1996年〜1997年はXMLの標準化によりネットワークがデータ操作ができる空間として変化した。言語の概念として、HTMLはStstem to Humaninterfaceであり、XMLはSystem to Systeminterfaceである。現在、XMLがあたかもHumaninterfaceのように扱われているが、HTMLと違ってもともと人間を相手にしないものである。XMLを使い、スタイルシートやプレゼンテーションレイヤーでの工夫があって初めてHumaninterfaceの機能を持つのである。

情報の電子化は、文書電子化と合わせて課題は山積みである。電子化情報には可視性がない、ハンコが使えないなどの可監査性の阻喪の問題や、原本とまったく同じ複製が可能であるなりすまし、改ざんの問題、個人情報の漏洩、不正使用、電子著作に対する著作権の保護などである。またインターネットを利用する上でもネットワーク上にある様々な問題について考えていかなくてはならない。


印刷の原点を振り返ると、情報を提供する人と、情報を利用する人との仲介役であると菊田氏は言う。情報提供者に情報提供のメディアを提供し情報利用者に情報へのアクセスを提供する。今までは提供者中心で物を考えていたが、利用者側のサイドからどういう風に考えられるかという新しい課題をメディアに関わる人間が解かなくてはならない時期に来ていると佐々木氏、菊田氏は一致した意見を述べた。

詳細は通信&メディア研究会の会報に掲載します。

2003/02/25 00:00:00


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