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印刷業界におけるGISビジネスの可能性

自治体を中心に発展してきたGIS(Geographic Information System;地理情報システム)だが,民間での利用も広がり始めた。印刷会社はGISでどのようなビジネスを展開できるのか。通信&メディア研究会における,株式会社マゼラン西川の宮澤康司氏の講演を抜粋して紹介する。

GISで何ができるか

GISは,地図上に位置に関係する情報を展開することにより,位置を視覚的に捉えられる仕組みである。データベース上に蓄積された情報をGISで活用することにより,データ分析やデータ収集,コミュニケーション,業務支援の効率化など,いろいろな活用方法が出てきている。

GISは,自治体において土地などの固定資産の管理や上下水道施設の管理,行政施策の決定支援,観光・防災・生活情報の提供などに活用されてきた。最近では民間でも顧客情報をGISに展開し,マーケティングに活用するという流れがある。e-Japan戦略において,総務省が自治体に対して統合型GISを推進するという動きもある。

GISの特徴として,いくつもの情報を重層して表現できる。地番の表示を消して土地の区切り線だけを表示したり,航空写真を地図上に載せたりすることも可能である。住民基本台帳のデータと連動させて,住民情報を検索すると,抽出された人が地図上のどこに住んでいるのかも分かる。

膨大な顧客情報をデータマイニングし,GISに展開すると,分布の様相を視覚的に理解できるので,民間ではCRMやエリアマーケティングに応用していくことが最近の一つの流れになっている。印刷業界の新規事業として,印刷業界がGISビジネスを展開する際に「従来型のビジネス」と「IT活用型ビジネス」という2つのテーマがある。

従来型のビジネスについては,今まで長年蓄積してきたいろいろなリソースが存在している。例えば,顧客や営業的なノウハウなど営業的な資産や,顧客データや印刷に使用されてきたデータ,印刷の設備などの物理的な資産が蓄積されている。具体的には,主に紙を媒体とした情報提供のビジネスに,新聞,雑誌,広報誌,チラシ,フリーペーパーなどがある。

IT活用型のビジネスには,インターネットやモバイルを利用したものなどがある。これらの新しい事業のために従来の資産を無視するのは印刷業界としてあまり意味がない。当然,新しいことを始めるために,新しいノウハウやリソースの整備・獲得は必要だが,意識としては従来蓄積されてきた印刷のノウハウをできるだけ生かしていく方向で考えることがポイントとなる。

印刷業界におけるGISの新規事業化のポイントは3つある。第1は,GISはもともと官公庁・自治体を中心に発展してきたことである。つまり,民間に比べて自治体にはGISを受け入れる認識が浸透している。第2は,GISを印刷業務の延長として捉え,従来リソースの有効活用が可能である。第3はGISにより営業ツールが拡大する。GISの導入により,競合他社との差別化を図ることができる。

GISビジネスを支える背景

マゼラン西川としては,第1のGISビジネスとして自治体の広報をターゲットに考えた。地方自治体がWebなどを利用して広報業務を行う際に,GISのアプリケーション配信を代行業務として請け負う,つまりASPの形態で進めていく。

広報に注目した理由は,地方自治体の広報業務の用途が増加しているからである。行政情報公開法が施行され,自治体の情報公開の義務が高まった。それに伴い,自治体として住民に対する情報公開のサービスの向上や利便性を目的にした動きが増えてきてた。また,政府が進めるe-Japan政策では,インターネットなどを中心にさまざまなネットワークインフラが整備され,広報業務もネットワーク基盤を利用した形に移行してきている。

また,自治体では地図を利用する業務が多岐にわたっている。最近注目されている防災行政を始め,交通行政,都市計画行政,観光行政,環境行政,公共施設行政,教育行政,地域振興行政,上下水道行政などがある。どの分野においても住民に対する情報公開が義務付けられているが,GISを利用することで広報の効果がさらに向上する。

さらに,情報の取得手段が多岐にわたってきたという背景がある。情報を載せる媒体は新聞・雑誌などの紙の媒体からラジオ・テレビなどの電波の媒体,インターネット,モバイルなどのネットワーク媒体に移ってきた。これらの情報の取得手段は,それぞれが置き換わってきているわけではなく,いずれも必要で,情報を取得する人のニーズや状況によって,使い分けられているのである。

拡大する自治体の広報活動

全国の自治体には,場所によって内容は異なるが,洪水やがけ崩れの危険地域を示すハザードマップを広報の一環として作成してきた。ハザードマップの印刷物は印刷会社が請け負ってきた。インターネットで情報公開する流れのなかで,この情報をいかにネットワークに載せるかが課題となる。

印刷物をそのままスキャナで取り込んでラスターデータのまま公開しているところも多いが,情報更新など今までと手間が全く変わらない。しかし,ベクトルデータで地図を作成し,Web GISの仕組みに載せると,拡大・縮小してもきれいに表示されるし,任意の場所をキーワードで検索することもできる。「土石流の危険区域」など別のデータを載せれば,危険区域の情報を任意に見せることも可能である。同じ地図データを流用して,ゴミ収集の場所や通行止めの場所データと連動させれば,いろいろな広報情報に発展していく。Web GISを導入すれば,自治体側は,印刷物で作業することに比べて手間が減り,コストも抑えられる。また,新しい情報を随時提供することができるというメリットが生まれてくる。

このような手法を用いても,紙の印刷地図はなくならない。インターネットが使えない人もいるし,紙のほうが分かりやすいという人もいるからである。情報を取得する側の考え方は異なるので,いろいろな情報を取得する手段は必要である。

安定した市場規模と拡大するカテゴリー

自治体は広報について毎年予算を確保しているので,非常に安定したビジネスに結び付く。さらにGISは多岐にわたる分野で利用されていくだろう。1つの分野でGISを入れると,固定的な収益が確保でき,カテゴリー拡大でまた伸びていく。

自治体の広報は今まで印刷事業と近い位置にあった。しかし,ITを取り込んだ時に,印刷業界には縁のないものだという捉え方をすると,せっかくの安定した市場規模をもつビジネスが,ソフト会社やSI会社などほかの業界にどんどん取られてしまう。その辺は非常に危機感をもっている。

マゼラン西川は印刷会社としてIT化に取り組んだ際,まずGISを自治体の広報事業に活用した。将来的には,いろいろな情報を展開して地域ポータルを実現したい。行政,産業,学校,住民を取り込み,地域に必要な情報を提供する。この情報の流通が,地域の活性化に結び付いて,いろいろな2次ビジネスが生まれてくるのではないか。

さらに,印刷物をスキャナで入力したデータや,印刷物用に作成したデジタルデータを活用して,紙やインターネット,モバイルへとさまざまなメディアに展開していきたい。

マゼラン西川では印刷業界にとって,今の情勢は大きなチャンスと捉えている。GISも一つのツールとして他社との差別化と,従来の印刷事業に対しての相乗効果を狙う。(通信&メディア研究会


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2003/03/06 00:00:00


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