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8兆円を割り込む2002年の印刷産業を振返る

印刷産業の出荷額が8兆円を割り込むことは間違いない。
印刷産業の景況は、2001年下期から再びマイナス成長に入って以降水面下に沈んだままである。バブル崩壊後3回目のマイナス局面だが、今回は、平版インキの出荷販売量が13ヶ月も前年割となり、マイナス幅も移動平均ベースで▲2.5%と、今までにない落ち込みとなった。印刷の仕事がかなり減少したのが今回の印刷不況の特色である。特に商業印刷の売上前年比の落ち込みは、過去に例を見ないものであった。
しかし、ここ数年の決算資料,申告所得データ,その他業界団体がまとめている業績データが示している「全体としては業界の低迷だが個別に見れば中堅企業は健闘」という状況は2002年も変わらない。

出版市場は、ハリーポッター効果で6年ぶりに書籍売上前年比が0.4%増とプラスになったが、他は相変わらずである。出版市場に影響を与えている構造的要因としては、少子高齢化、メディアの多様化、新業態の書店や図書館の利用増が上げられる。しかし、最も大きな問題は、再販制度の弾力運用に対する出版業界の反発に見られるように、とにかく物事が先に進まないことである。販売面では一部に下げ止まり感が出てきているが、全体として閉塞感はますます強くなってきている。
これから注目すべきことは、古い世界の動きではなく、新業態の拡大や情報化による変化だろうが、2002年もいろいろな動きが見られた。

SP広告全体は前年比3.3%減で、マスコミ4媒体全体あるいは4媒体それぞれの落ち込みよりも小幅な落ち込みに止まった。その内訳を見ると、今まで不況の中でもプラス成長を続けてきたDMの前年割れ(4.5%減)とチラシの健闘が2002年の注目点である。
折込広告は前年比0.3%減とこの不況化においては健闘したといえるだろう。サービス業、小売業が斑模様ながら健闘したからである。DMの対前年比での落ち込みは、2001年が特殊だったことによることが主要因であり、DMに対する評価に陰りが出たということではない。したがって、チラシもDMも今後とも有望である。ただし、チラシはフリーペーパーが、DMは形態の変化が注意点である。

中小印刷業界は、厳しい厳しいと言いながらも収益性(営業利益率)は一定水準を維持してきた。しかし、さすがにここへ来て収益性は大きく低下した。この数年のCTP化に向かうフルデジタル化は、印刷企業の経営指標のいろいろな面に変化をもたらしているが、当然、収益性に対するプラス面もあった。
1992年以降は外注費削減による加工高の上昇で収益性を確保するという流れが続いてきたがこの2年間で今までの流れの一部が反転した。それは印刷外注で、一人当り機械装置額の変化と対になって業界の過剰設備に対する反省の結果と見ることができる。じわじわと市場価値が縮小する中で、2001年度後半からは過去に例のない仕事量の落ち込みとなり、印刷業界全体として設備競争が自分の首を締めることにやっと気付いたということであろう。

今後の長期的な意味での日本の印刷業界の課題は、デジタルネットワーク化と環境問題への対応である。このことについての印刷業界の認識には二つの問題がある。
一つは、これらの問題に対する認識が不充分であることである。不充分とは、内容の理解とそれらの動きに関するスピード感である。もう一つの問題は、これらの対応について、個別企業での対応については意識していても、業界ぐるみでの対応を考えないと、いくら各企業が努力しても、結局は大きな荷物を背負い込まざるを得なくなるということについての認識の希薄さである。

JAGATの印刷マーケティング研究会では、来る3月27日(木)14:00〜16:00に「8兆円を割り込む2002年の印刷産業を振返る」と題するセミナー(印刷マーケティング研究会メンバーは無料)を行う。各種の客観データに基いて2002年の印刷業界を振り返ると共に、今後の印刷各企業および業界全体の課題に対する提言をする。

2003/03/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会