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発注側サイトとのコラボレーション

印刷会社が顧客の拠点に人材と機材を派遣して、入力や編集作業を行なうことは従来から行なわれてきた。しかし顧客のITレベルの向上に伴って、さらに一歩踏み込んだ印刷サービスを行なうアウトソーサーとしての役割が求められてきた。本セッションでは発注側サイトとのコラボレーションにより顧客が必要とするメディア制作を幅広くサポートすることによる、プロダクティビティ向上への可能性を検討した。

講師 モデレータ
JAGAT 研究調査部 参事 相馬 謙一
株式会社デジタルパレット 取締役副社長 星名 勧 氏
不二印刷株式会社 常務取締役 井戸 剛 氏
三洋電機株式会社 ビジネスブティック 大東営業センター 所長 大木 朗 氏


■新しいスタイルによる発注先とのコラボレーション
営業戦略として社員などを客先に出向させる、顧客常駐型のインプラント(企業内)コラボレーションそのものは以前から行なわれている。例えば、出版社に組版編集機とオペレータを派遣、結婚式場の受付カウンタに印刷営業を派遣、電気やガス会社など大量の利用明細書出力用高速プリンタのオペレータ派遣など、さまざまなケースがある。しかし、いずれも繁忙期は良いが閑散期の対策に頭を悩ますことが多い。
これに対して、IT化によって派遣していた人員そのものを引き上げる、逆に常駐拠点を店舗という位置づけにして営業拠点化するなどの、新たなチャレンジをしている方々をお呼びした。

■顧客常駐型ショップ「D-pro」を今後は多店舗展開
東京・築地にある(株)デジタルパレットは電通テック、富士ゼロックスなどの出資を受けて設立された会社である。WebやCD-ROMなどのデジタルコンテンツの企画・制作、コンピュータのソフトおよび通信ネットワークシステムに関する企画・開発、デジタルコンテンツの制作に関わるオンラインサポート、各種マーケティング業務および経営一般に関するコンサルティングからプリントサービスまで幅広く行なっている。設立2年目で16億円の売上を上げている。

同社が提供しているクロスメディア時代のコンテンツサービスとは、(1)セキュアなWeb環境であり、(2)IT化した印刷会社であり、(3)企業常駐型のプリントサービスである。

(3)の「D-pro」一号店は電通本社内に展開していて、コピー・プリントサービス、フィルム出力(35mm、4×5ポジフィルムなど)、大型カラー出力、パネル貼り、スキャニングサービス(平面スキャナからドラムスキャナまで透過/反射原稿の入力に対応)などを行なっている。

そして、D-pro店内ではできないデジタル制作、プレゼンや企画書、バナー広告、画像合成等、簡単なちらしなどの印刷データ制作などは社内に持ち帰っての作業となる。さらにビデオフォーマットからのダビング、静止画、動画のデジタルデータへの変換、翻訳(26カ国語)など幅広い。
しかし、(3)については本格的な印刷のプロフェッショナルサービスでなく、あくまで顧客の業務サポートレベルであることがミソであり、翻訳にしてもカタログの翻訳のような高いレベルではなく、海外とのメールのやり取りや業務文書の翻訳を支援する範囲に限るなど、仕事の支援に絞り込んでいる。

一方で、(1)のWebについては本格的なセキュア環境によるコンテンツマネージメントサービスを売りにして、コンテンツ一元管理、一貫した承認フローによるWeb制作環境での協業、複数サーバーへの同時情報配信をセキュアーな環境で自動処理など幅広い。さらにホスティング・ハウジング運用までのサービスも行なう。また、ターゲット毎にカスタマイズした情報を自動生成、コンテンツを部品化して共有化なども提供する。

さらに、セキュアな環境を提供するために、コンピュータやネットワークなどによる情報の安全な取り扱いに関する社内管理ルールの国際標準であるISO/IEC 17799「情報セキュリティポリシー」の取得を準備している。

このように最新のデジタル技術とスキルをクロスメディアに展開し、多面的なコミュニケーション活動を支援したり、売上に直結するマーケティング手法の支援なども行なっていく。最終的にはコミュニケーションビジネスモデルや、ハイセキュリティーなワークフローを確立させていくことを事業目標にしている。その入り口になるのが企業常駐型のD-pro店舗であり、これから多店舗展開を計画している。


■顧客と印刷会社の「仕事の仕切り線」がどんどん客側に
大阪の不二印刷(株)は、販促用チラシ6割、カタログ・パンフレット2割、印刷を伴なわないデジタル系2割という売上構成で、約150人の社員のうちクリエイディブ50人、システムエンジニア数人、オフ輪6台などの印刷会社である。今回は2つのケースで企業常駐ビジネスを紹介して頂いた。

はじめは、流通会社の販売促進部門を一括アウトソーシング受注した経験である。その顧客企業は全国に約300店舗を展開するフランチャイズで、印刷媒体だけでなくテレビ・ラジオの展開も行なっていた。そのときに印刷発注で問題になっていたのは、300店舗が配布する地図入りチラシが、印刷会社に店舗ごとにランダムに発注されてくることであり、以前のチラシ制作は相当に混乱していたという。

顧客企業は設立間もないベンチャー企業のため人材不足でもあり、不二印刷は受注後に3名の社員を出向させて業務支援を行なった。そしてフランチャイジーからのチラシ発注に対しては、先方の担当者がWebブラウザで商品データベースにアクセスし、最終的には不二印刷がデータを受け取るようなシステム開発を行なって、混乱を解消すると共に印刷受注を行なってきた。

次の例は、年間に30種類以上のカタログを発注してくる通信販売業との協業である。不二印刷で行なったシステム開発は、カタログを発行する通信販売会社とその仕入先のメーカー、そして制作する印刷会社とをネットワークで結ぶシステムの構築である。
これによって通信販売会社はパソコンで商品選択が可能になり、メーカーは企画商品の電子入稿が可能となった。印刷側では今まで行なっていた商品スペックの入力が不要になり、納期短縮に貢献できた。

同社はオフ輪が仕事の中心のため、1つの受注の単位が大きいので企業常駐になっていくのは自然な流れである。今までの経験から言えることは、顧客と印刷会社の仕事の「仕切り線」の位置がどんどん客サイドに移動してきていて、外からは見えなくなっていること。ところが客先への出向者は、ときにはマーチャンダイザーのような役目も負わなければならないなど、負担も大きい。しかしその部分は社内SEがシステム開発して顧客に提供することによって、出向者を引き上げることができるが、やはり顧客に入り込んで支援することの費用計上(請求)の仕方にはいろいろと課題がある。


■社内(各事業部)や子会社のドキュメントを電子化する事業を店舗展開
大阪府・大東市(河内地方のほぼ中央)の三洋電機(株)ビジネスブティック大東は、電子化を主体とする三洋電機の新規事業の一つであり、社内・社外含めて店舗展開によりサービスを行なっている。この「店舗」は三洋電機の大阪府大東市の工場にあり、顧客は社内(各事業部)と子会社が大部分である。

主な対象はサービス技術資料・取扱説明書・販促資料等で、従来はこれらの社内ドキュメントは各事業部が個別に印刷発注や電子化作業の発注していた。これを、ビジネスブティックが業務全体の電子化統合業務の提案を行なって、全体業務を受託運営するようにした。これによって、全体としてコストダウンとCSの向上を提供できたという内容である。

サービス技術資料などの電子化の方向性は、(1)コスト削減(外部流出金の抑制、在庫管理費・配送費・制作工数の削減、マニュアルの適正配布)、(2)カスタマーサービス向上(マニュアル品質向上、情報のリアルタイムでの伝達、マニュアルのサプライチェーン化)である。電気業界の環境からも、IT時代に対応したマニュアル作り(電子化)が必要であり、またノウハウの蓄積、マネジメントの強化、品質の向上も狙いであった。

電子化業務統合以前には、オフセット印刷によるコストダウンの限界が生じていて、オンデマンド印刷への移行が求められていた。しかも事業部毎に異なる外注先への発注で価格が硬直化していた。また電子化につていも不徹底で、100%電子化の実現及び電子化ルールの遵守、さらには、情報伝達手段の多様化への対応が必要であった。

現在のビジネスブティックによる電子化統合業務の内容は、各事業部は原稿作成・イラスト作成・DTPを内作又は外注によりデータを作成する。完成したアプリケーションデータをビジネスブティックに送信する。ビジネスブティックではPDF加工・サーバー登録・CD-ROM作成・オンデマンド印刷などを行い、納品するという流れになっている。

現在は第一ステップで、ネットによるマニュアル公開とCD-ROMによる配布によって印刷物の配布削減が実現してきた。今後の第二ステップでは、CD-ROMの配布削減、印刷物の配布大幅削減、製作コストの削減、製作納期の大幅削減、マニュアルの標準化実施(マニュアル品質の向上)、ネットによるマニュアル公開品質の向上(電子マニュアルの形態で公開)を目指している。

(PAGE2003コンファレンス プロダクティビティトラック C3セッションより:文責JAGAT)

2003/03/25 00:00:00


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