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マルチリンガルで最新技術を強力にサポート

情報の伝達スピードが加速し,その伝達範囲も広がったことから,ビジネスの世界で求められるスピードも加速されている。またグローバルな視点においてもスピードを生かした情報配信の重要性は増していく。
今回は,翻訳・ドキュメント制作を核にワンソースマルチユースでPDF,Web,CD-ROMなどの制作にも対応している,東輪堂の代表取締役渡辺資朗氏にお話を伺った。

40カ国以上の言語に対応できるプロ集団
1978年に翻訳会社として創業した東輪堂(本社・東京都千代田区)は,欧文の中でもとりわけ特殊言語に特化してきた。その後,翻訳だけでなく,印刷とリンクした業態に拡大し,電算写植,ワープロなどをいち早く導入した。クライアントからの評価も高く,専属の翻訳・制作会社に指定されるなど,順調に業績を伸ばし,業界の中でも独自の地位を確立している。
DTP編集も早くから手掛け,現在ではMacintoshだけでなくWindowsにも対応している。また翻訳支援ツールの「TRADOS」を採用し,用語の統一,校正の簡素化,コストの削減などを実現し,DTPやマルチメディアへの展開など翻訳ソリューションを提供している。
同社のクライアントは,情報産業,ソフト,精密機器メーカー,IT関連業界が主要で,なかでも技術翻訳や海外向け各種製品カタログ・マニュアル,取扱説明書などを手掛けている。同社では,翻訳チーム制を組み,チームによる情報の共有化に始まり,専門精度を高めていく。それぞれの専門分野別,言語別に,高度な専門知識と経験をもったネイティブ翻訳者と,これをサポートする各国語に精通したコーディネーターで構成される。コーディネーターは,制作業務ディレクションや翻訳手配・DTP制作手配,進行管理が中心になる。社内外に翻訳スペシャリストを擁して,40カ国以上もの言語に対応できる体制を敷いている。翻訳者のチェックとコーディネーターによるダブルチェックシステムによる品質管理も行っており,クライアントニーズに幅広く対応している。

CSを最重要視して個別対応
特殊言語のDTP環境が構築しやすくなり,インターネットの普及がボーダーレス化を急速に進めるなかで,特殊言語の翻訳だけでは競争優位になり得なくなった。そこで,他社との差別化を図るため,自社の特殊性をどこに求めるかを思案して,フローの見直しを図ることにした。マニュアル・カタログを含めたドキュメンテーションの制作システムをクライアントごとに作り上げていく方針にした。幅広い印刷物について,企画から制作,印刷までをトータルでプランニングする体制を整え,システム化して提供する。ドキュメント作りのノウハウが蓄積されている同社だからできることである。
一概にドキュメント制作といってもクライアントによって千差万別で,マニュアル制作を内制化しているクライアントに対しては,自社マニュアルの見直しや制作作業の効率化を含めた提案をしている。モノが売れない時代になって,クライアントのマニュアル制作部門は手薄になってきていることから,アウトソーシング先としての同社の重要性は増している。マニュアル制作部門が整備されていないクライアントも多く,ドキュメント制作の初期の段階から印刷,納品までも含めて,CSを最重要視して対応している。ドキュメント制作の一般的な基準はあるが,実際にはクライアントごとにカスタマイズすることになる。
製品のライフサイクルが短くなり,情報量は増え続け,かつ複雑化している。同社のクライアントは大手メーカーが多いが,新製品や新技術の投入に社内の人間ですら追いついていけない。社内にマニュアル制作部門を整備していても,対応し切れないというのが現状だ。
同社はクライアントとの長年にわたるパートナーシップを維持しているので,ディレクターやライターは,自ずからその業界を熟知し,多くの経験を積んでいる。さらに,高度な技術翻訳に対応できる専門知識とライティングの技術を備えている。製品の特徴や機能を十分理解した上で,コンシューマー用からプロ用まで,ターゲットユーザを確実に想定し,それぞれのニーズに対応した技術ドキュメントを作成する。もちろん海外向け翻訳の場合は,言語別の背景を考慮してクライアントの要望にこたえている。

改めてコーディネーターの質が問われる
専門スタッフは社内外にいるが,「昔のように右から左に渡して訳してくださいというわけにはいかない。手配する人間がその製品をどこまで知っているのか理解しているのか,確認していきながら翻訳者に指示していかないとだめな時代になっている」という。さらに優秀なスタッフを養成していくことが差別化のカギとなり,自社の知的財産になるだろう。
国内の空洞化が進み海外生産が主流となって,現地のネイティブによる翻訳編集も可能な時代になってきている。インターネットの普及により,瞬時にして情報の配信や海外からの入手も可能になった。
最近はメーカーの戦略が世界同時発売となっている。特に情報産業分野では,日本が世界に向けて発信している。それに伴い同社では,新製品のドキュメントを中心に仕事が増えている。
開発部門の最先端の仕事と直結しているということは,技術的な問題だけでなく,時間的にも非常に厳しい状況にあることを意味する。変更にも柔軟に対応しなくてはならないし,最新技術に対応した新製品ともなると機密保持の問題にもシビアである。

社内プロジェクトで自動組版にも対応
最近はマルチメディア対応の仕事も増加し,フィルム出力が減り,高解像度のPDF納品が多くなっている。またXMLのタグ付きの状態で翻訳したり,自動組版にもっていく作業が発生したりしている。XMLに関しては,自動組版を社内のプロジェクトとして立ち上げて,自社内で対応していく方針である。
「マニュアルの絶対数は減っているとは思えない」という。携帯電話,PDA,デジタルカメラなど,IT関連機器の場合,モデルチェンジが早く,それに伴う翻訳の仕事が多くなっている。「この時代,良い物を早く売った者が勝ち」である。とりわけ季節商品の場合は,発売が1週間遅れただけで,セールス的なダメージになりかねない。グローバルな新製品のリリースであればなおさらであろう。
クライアントのメーカーが多言語翻訳を海外にシフトしたことで仕事が減った時期もあったが,メーカーの意識が新製品の世界同時発売に向けられているため,同社の40カ国語翻訳の体制が再度生かされている。
今後もますます進む日本の国際化と情報伝達技術の発達のなかで,世界と日本をつなぐさまざまなニーズにこたえていきたい,と抱負を語った。

JAGAT info 2003年4月号より

2003/04/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会